精神障害者による悲惨な加害事件を
防止するため一精神科医師からの提言



2001.7.21   札幌太田病院  太田耕平


  • 以下の文は、2001年7月21日付けで、厚生労働大臣秘書官に小生から提言した文に、一部加筆を行ったものです。
 


坂口 力 厚生労働大臣殿

 この度の悲惨な小学生殺人事件を一精神科医師としてかえりみて、今後このような事件の再発防止の視点から、失礼ながらご提言を申し上げます。



 精神障害者による悲惨な加害事件を防止するための精神科医療への提言

 今回の加害者は小児期からの親子葛藤を未解決なまま拡大したと考えられます。中学受験を母に止められたこと、高校中退、父からの勘当など心的外傷を抱え健全な人生目標をもてず、その後職を転々とする中で自己中心的自己否定-他者否定的、反社会的人格を形成し、反社会的行動を繰り返してきたと考えられる。この間、精神分裂病の疑いなど診断を受け断続的治療を経験したが、彼の病的人格や悲しみの多い人生は好転しえなかったことは、一精神科医として極めて残念に思います。(以下は上記7.21の文に多少の加筆・訂正を加えました)


 当院の経験の要約 
  1. 当院では25年前から内観療法の有効性を確認しています。内観療法の前後に段階的支援を組み合わせ「十段階療法」とし思春期不適応から精神分裂病にも有効性を認めました。
  2. 心理士、ケースワーカー、内観指導員などを数名採用し、患者会や家族会を支援し共同住宅、福祉ホーム等を通じて退院促進と地域支援を行いました。
  3. 地域の通院者のためには、退院者の会、デイケア、ナイトケアなどで支援して再発防止と仲間づくりにつとめました。
  4. 職員の技術水準とチームワークを高めるために、職員全員が入職時に内観を体験し、内観療法が十分な効果をあげるように努め、さらに研究発表や論文作成を奨励してきました。
 約25年間工夫改善を加え、下記のような好ましい変化を医療現場に認めています。
  1. 小学生から高齢者まで記憶回想法(内観療法)が有効に提供可能です。
  2. 有効性が高く治療期間、入院期間の短縮を可能とし急性期病棟の基準に合う。当院の精神病床平均在院日数は、143.5日(平成12年度)です。
  3. 過去の被愛体験を回想する治療的関係が、受療者の自尊感と幸福感を回復します。
  4. 電気痙攣療法の必要が低下し、一年間(ベッド数221、新入院約620)で1〜2例です。
  5. 使用する向精神薬の種類と量が適切な少量に抑えられ、薬物依存になりにくい。
  6. 内観により病識が確立しやすく、退院後も通院、デイケア通所が継続し再発が少ない。
  7. 再入院(3ヵ月以内)15.7%、新規再入院22.5%と抑制され、初回入院61.8%です。
  8. 家族内葛藤の解決を支援するので、家族による援助が期待できます。
  9. 心の健康教育、心的不適応の予防・早期発見・治療、社会復帰、アフターケアに有効です。
  10. この治療プログラムは治療効果・家族の満足度から見ても、人道的・社会的・医学的に妥当と考えられます。

  以上の根拠から、下記の提言を致します。

 『今後の精神科医療、心身医療に、記憶回想法(内観療法)と家族療法・デイケア・共同住宅を含む治療プログラムの奨励と実践を促し、その効果について研究を深めること。これらにより今回のような悲惨な事件の再発防止の可能性が大であることを提言いたします』