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22回西札幌糖尿病療養指導看護研究会

 

 精神科領域における糖尿病「指導のあり方」

医療法人耕仁会札幌太田病院看護師  山田 典子

 

講 演 要 旨

     統合失調症と糖尿病との関連性

     統合失調症を併発している患者のアプローチ

     精神科看護師としての指導のあり方

    

当病院は精神神経科を主診療科とし、急性期、慢性期、精神療養型各合わせて202床の精神科病棟と、32床の介護病棟、合計234床を有している。これら202床の精神科入院患者の内訳は、統合失調症90人のうち糖尿病患者11人、アルコール依存症48人のうち糖尿病患者5人、認知症43人のうち5人その他の疾患に3人糖尿病患者がいる。(H175月の集計、合計24人)

糖尿病は生活習慣と密接に関わっている疾患であり、自己管理の必要な病気である。そのため治療法を充分に理解し日々の生活の中で、食事療法、運動療法、薬物療法、血糖自己測定など、様々な生活の規制を実行して行くのは必ずしも容易なことではない。また、主病名が精神疾患である患者にとって糖尿病の病識を持ち続けるのは難しく、自己管理が必要であるにもかかわらず、糖尿病の治療を中断する可能性は他の疾患を持つ患者より高いと考えられる。したがってこのような患者に対して精神科看護師糖尿病療養指導士の役割は大変重要だと思われる。今回、糖尿病患者が統合失調症を併発し、症例をあげて精神科看護師としての指導のあり方、役割について述べてみたい。

 

現在、国際的に広く用いられている統合失調症の診断基準には、WHOのICD−10やアメリカ精神医学会(APA)のDSM・第4版がある。

 

<統合失調症の特徴的症状1(DSM−W―TR)>

A:妄想、幻覚、まとまりのない会話、感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如。

B:社会的または職業的機能の低下。

C:障害の持続的徴候が少なくとも6ヶ月存在。

D:失調感情障害と気分障害の除外。

E:物質や一般身体疾患の除外。

F:広汎性発達障害との関係。

 

<統合失調症の特徴的症状2(DSM−W−TR)>

    妄想型:頻繁な妄想、幻聴にとらわれている。

    解体型:まとまりのない会話、行動。

    緊張型:昏迷として示される無動症。極度の拒絶症。姿勢、自発運動の奇妙さ

    鑑別不能型:妄想型、解体型、緊張型の基準は満たされない統合失調症の一病型

 

<幻聴>

    実際に存在しない音、メロディ、声などが聞こえる。

    意識がはっきりしている時に聞こえるのは人の声である場合が多い。

    内容としては悪口や命令が多く、外からの声として感じられるが、自分の考えが声になって聞こえる時もある。

 

<統合失調症に対する治療法>

1.        薬物療法

2.        心理療法及び作業療法

3.        生活技能訓練(SST)

4.        家族療法

 

<統合失調症の薬物療法>

 統合失調症の治療法は薬物療法が中心である。1952年にクロルプロマジン(コントミン)が導入されてから、色々な抗精神薬が開発され、そのことが精神障害者の社会復帰を容易にし、精神医療が著しく発展することになった。統合失調症や再発防止には、抗精神薬の長期的投与が欠かせないが、クロルプロマジン使用後に入院患者に糖尿病が多いという報告が多くなったのも事実である。また、以前から統合失調症患者は抗精神薬の影響を別にしても糖調節障害及び2型糖尿病のリスクが高いと考えられている。

 近年、新規抗精神病薬が開発され(リスペリドン・オランザピン・クエチアピン・ペロスピロン)4剤が臨床適応とされている。新規抗精神薬は幻覚、妄想などの陽性症状に加えて、自発性欠如、情動鈍麻などの陰性症状の改善がみられる。しかし、一方では体重増加や高血糖症、高脂血症などの代謝系副作用の発現が報告され、オランザピン、クエチアピンに対して厚生労働省からの緊急安全性情報が出され、糖尿病もしくは糖尿病の既往のある患者への使用は禁忌となっている。

 抗精神病薬においても体重増加、食欲亢進の副作用を有し、薬の選択によっては高血糖や肥満が出現しやすくなる。薬を続けることにより徐々に糖尿病に進展する危険性がある。したがって慎重に投与しなければならない。また、定期的に血糖検査や食事、運動などの生活面での管理が必要になる。

 

【症例紹介】

 K氏、50歳前後、女性、独身

 

<生活歴及び現病歴>

 同胞2人、第1子、短大卒業後、8年間会社員として働く。S58年に2型糖尿病に罹患し、悪化のため退職。パートなどをして働くが、H3年父親が(肺癌)死亡した頃より疲労がたまり始め、母親の介護疲れもあり、H156月より不眠、イライラ感、興奮状態を呈する。独語、独笑、下半身のみ裸で空の湯船に浸かる奇異行動が見られH1578月当院に入院。H168月を最後に治療を中断。徐々に精神状態不安定となり、大声、独語、易怒的となり、妄想出現。入院の必要性を説明するも、頑固に拒否し全く了解が得られないため医療保護入院となる。

 母親は、統合失調症で精神科通院歴があり、現在はアルツハイマー型認知症、要介護度1、デイサービス利用中である。

 

<現在の身体所見と及び状況>

 身長150cm、入院時の体重46kg、現在の体重44kg、BMI19.6

血圧12860、両人工水晶体眼、糖尿病網膜症(定期受診1ヶ月に1回)、腎症、下肢神経症はいずれも中等度である。舌のもつれ、両手の振戦が軽度あり、今なお幻聴は続いている。時には表情が険しく、イライラし、話しが二転三転とする。自分の意に合わないことを言われると全く受け入れない所があり、職員に陰性感情を持つこともある。性格はきつく妹と言い争いになることもある。また口調もきつい。

 食事は1600cal、栄養指導は数回受けている。患者自身も栄養士の資格を持っている。現在は精神状態は安定しており、医療保護入院から任意入院に入院形態が変更となった。1時間散歩、外出・外泊が可能になった。

 

<内服薬>

ルーラン錠8 111回(寝る前)

タスモリン錠1mg212回(朝、夕食後)

キネダック錠50r313回(毎食前)

コレリット5r4錠、シンレスタール錠250r2錠、アムロジン錠2,5 2錠12回(朝、夕食後)

フェロ.グラデュメット1錠、ラシックス20r錠1錠(11回朝食後)

セルベックスカプセル50r3C(13回毎食後)  

 

<インスリン治療>

 強化療法を行っている。

 ・ノボラピット注300 4単位(毎食直前)

 ・ペンフィルN    4単位(20時)

 

<検査データ>

入院時のHb1c 9,8% 血糖577r/dl、 現在Hb1c7,9% 

血糖日内変動はほぼ安定している。

 

38

315

3/22

411

418

425

5/9

6    

143

145

152

130

153

187

212

11

122

187

150

184

161

226

197

16

95

118

148

154

158

231

150

21

180

164

130

209

128

268

172

 

<看護目標>

精神科内服薬や、インスリン注射の継続により、身体的・精神的に安定した日常生活を送ることができる。

 

<問題点>

1.        幻聴に左右されることにより、治療が中断、症状の悪化が考えられる。

2.        正しい糖尿病の知識を習得できないために、間食を続けている。

 

<援助内容及び結果>

問題1について

 幻聴は時をかまわずに聞こえている。始めのうちは何も訴えてこなかったが、「土下座しろ、謝れ、死ね」と聞こえてきたと自分を語るようになった。最近では、「卑猥なことを言われたが気にしないようにしている」との言葉が聞かれる。幻聴の対応としては幻聴が聞こえても相手にしないように、現実でないことを理解して行動するように統一した指導を行っている。幻聴による孤立感や、不安感に陥らないように、治療プログラムに積極的に参加を促していく。治療プログラムには、集団認知療法、内観療法、生活技能訓練(SST)、リラクセーション、ヨーガ、音楽療法、運動療法、書道、カラオケなどがある。現在、薬は拒薬することなく服用し、インスリン注射も自分から進んで行っている。

 

問題2について

 間食については本人なりに考えてSMBG(血糖自己測定)を13回(朝・昼・夕)行っている。その回数を減らしても大丈夫な事を説明するが、表情が険しくなり、看護師に陰性感情をもってそれまでの築きあげた信頼関係を失ってしまうことがある。この件について医師からもK氏に伝えてもらったが本人の意思が強く、今まで通り13回SMBGを行っている。

 これは、K氏にとっては間食をするためであり、間食のためには苦痛とも思ってはいない。また、以前に医師から間食をしても良いと言われたから間食を止めないと言い切っている。間食はビスケットやクッキーを1〜2枚食べている。時折、血糖が高い時がありK氏に確認すると、「何時もと変わらない、間食が多かったという事もない」と否認する。体重の増加がなく、朝のラジオ体操に参加出来ていること、日常生活の活性化が図られていること、むちゃ喰い(binge eating)がないこと、間食の回数と量について栄養指導を受けていることなどを考慮していくことにし、K氏の行動を変えていくのには時間がかかると考えられた。

 K氏が、当病棟へ転棟されて来た時のインスリン注射は超速効性型であるにもかかわらず、食前30分前に施行していた。これは、食前薬に合わせてインスリン注射をしていたと考えるが、看護師の話を途中でさえぎりきつい口調が返ってくるなど、それ以上の突っ込んだ話しは出来なかった。しばらく様子を見る事にし、あせらずにコミュニケーションを取っていくうちに、すんなりと食直前に注射を施行することが出来るようになった。このことからも間食については、今しばらくは見守りを続けることにした。

 

<援助を通して精神科看護の指導のあり方について>

 K氏は糖尿病歴が長く、今までの自己管理のやり方を変えていくことは容易な事ではないと思う。しかし、糖尿病合併症がこれ以上進行しないように血糖コントロールを良好に保つ事が必要であり、そのためにも統合失調症による精神状態が安定させなければならない。今後も長期にわたり抗精神薬も服薬を余儀無くされており、薬の副作用から糖尿病合併症の悪化を招く恐れも考えられる。また、精神症状によっては糖尿病治療が中断され、今後進行過程が予測さてるために、指導に力が入ってしまう傾向になりがちであったが、これは患者にとってはマイナスに働き、逆にストレスとなり、精神症状は悪化なる。また、医療者にとっても、燃え尽き状態を作り,Happyな気持ちで患者と接することが出来なくなる。

 精神科看護における患者と看護師のかかわりは、相互の心と心の交流である。患者の苦脳や悲哀、怒りや葛藤、希望や喜びなどの感情を共有し、共感的理解を示すことである。そのためには、看護師自身の鋭い観察力と洞察力が必要であり、患者の明日への成長と自立に向け総合的に展開することによって、よりよい治療的なかかわりに発展すると思う。

 最後に、精神科領域においての糖尿病の管理は看護師からみても血糖コントロールが難しいと諦めがちになるが「ダメ」と決め付けないこと、がんばっている、少しは、出来ているという考え方に意識的に行動変容していく事が重要である。

 

<まとめ>

    never give upで指導し続ける

    個別性の高い2つの疾病をもつ人として尊重し、看護を提供する。

 

特に、退院後の糖尿病管理については、精神科患者は十分な観察が大切であり、看護師の果たすべき役割をさらに拡大することが望ましいと考えられる。 

 

 

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