薬物中毒対策連絡会議での提言要旨    

2005.9.29 KKR札幌

北海道 太田耕平(札幌太田病院)

 

薬物依存症に対する1次、2次、3次予防についての思い

 

 

近年、若年者とくに女性の薬物依存(含む医療機関処方)がリストカットや摂食障害、うつ状態に併発して増加していることを経験している。

 

1次予防

薬物依存症を将来的に実際に発生した具体例の分析・・図1の1,図1の2。

図1は平成11年度半年間の当病院の思春期症例30例(その内薬物依存9例)についての生活史と病歴を経時的にまとめた(第40回日本心身医学会抄録39:139、1999)。地域的、社会的、時代的要因は重要であるが論じない。

 

類似した困難な心的外傷を生みやすい生活歴を重ねながら、抑うつ状態、ひきこもり、家庭内暴力、各種心身症、拒食過食症、多医療機関受診などが、個別に、または薬物依存症に併発していることが明かである。

 

図2はこの半年間の薬物依存症者についての生活史調査である。やはり、親の不和・離婚、親への反発、教師への反発、不登校、退学、ひきこもり、家庭内暴力、非行、触法グループとの接触、などが経時的に継続的に連鎖発生しうることを示している。

これらの個々の状態の治療が次の問題の発生の予防となりうる。これらの個々の問題が発生した時点での内観的体験、家族相互の内観的体験、内観療法などが、問題の解決を促し、問題の累積と重症化を防ぐ方向に作用し、ひいては薬物依存に進むことを予防する方向にはたらくことが予測される 

 

1. 幼児期からの父母の不和・別居・離婚 → 引っ越し → いじめられ→心身症

 2. いじめられ → 不登校 → ひきこもり → 不安・うつ状態 → パニック症候

 3. 不安・うつ状態 → 多医療機関受診 → 多薬物服用 → 医療薬物依存

 4. 不登校 → 中途退学 → 孤独→ 夜間外出・泊→ 非行文化 → 触法薬物依存

 

これら1.2.3.4.の各項目・各段階において、本人、家族、教師たちの『内観療法的反省・気づき』が次の段階への悪化予防・治療に有効である可能性が十分にあるという経験を当院では積み重ねている。

  

これらの悪循環の各段階を治療することにより次の段階への悪化を予防し得る。  

これらの問題行動の背景は、父母への不信・恨み・嫌悪などが根底にあり、この感情を他者や社会、さらに自分自身に転嫁・転移し、その不安から建設的な自己同一視ができず依存対象として、医療機関・医薬品、触法薬物に依存する結果を生じていると考えられる。 

 

                 

1次予防の各論・・・一定期間、家庭・学校・職場から離して社会奉仕実践体験を制度化

 1.健全な家庭、父母の良好な関係、父役割・母役割の分担、家族全員の成長

 2.不登校の予防・早期治療、いじめ問題の早期発見・解消、な学校生活の健全化

 3.思春期のうつ・心身症・パニック・摂食障害などの的確な診断、さらにこれらの治療には薬物にのみに依存しない多角的治療の実践。・・・以下略

 4.薬物依存の恐ろしさの啓蒙・啓発・教育を、家庭・学校・地域・職場・マスコミなどで

 5.薬物依存から脱出で社会参加した薬害恐怖体験談をピアカンファレンスとして生かす

家庭、幼稚園、小・中学・高校、専門学校、職場などで内観的気づき促進が大切である(1. してもらったこと 2.してお返ししたこと 3. 迷惑・心配かけたこと・・・の自覚)。

 

2次予防・・・早期発見、早期治療、良質な医療・環境整備・・警察、麻薬取締官と連携

 1.薬物依存を発生しやすい状況(上記)の予防。小中学校でのいじめ問題、暴力、不登校の予防と解決は極めて大切であり専問領域を超えた協力連携を要する

 2.薬物依存の症状(身体的、社会的、精神的)を学校教育に入れる

 3.医師、看護師など医療職のみならず幼稚園保母、小中学校・高校教師、各種専門学校教師などの育成教育に、薬害教育と内観の実践指導法を取り入れる。

 4.医療職、教師の養成にあたり薬物依存治療に関する具体的・実践的体験学習を

   採用する

 5.薬物依存症者は、幼児期からの多方面にわたる心的外傷、人格的障害、家庭的葛藤、現在の心的葛藤、身体的合併症、社会的不適応、など極めて多岐にわたる課題をかかえている。さらに、患者の病態の否認、治療拒否、触法性、興奮乱暴、などは患者・医療職員共に危険な状況を生じうる。さらに、やむを得ず、保護室隔離、身体拘束など患者の人権に関わる治療・保護が必要になることもおおい。それ故、経験ある職員集団が確立した治療プログラムに従って実践する医療機関においてのみ安全かつ効果ある治療が可能となる。

その診断・治療と支援については、その実績を開示することが医療機関に求められよう。処遇困難例が多く、他患者への悪影響医療費の加算が求められる。

 

3次予防・・・早期社会復帰、再発防止・・専門社会復帰施設の設立を要する

 1.薬物依存治療の有効性を常に吟味し、常に改善し、個々の症例に的確な対応が可能な柔軟な方法、多様なシステムが有ることが望ましい。

2.ピアカンセリング、患者会、家族会の支援、職能教育などとの連携を要する

3.触法性ある症例などでは警察との連携、厳しい取り締まり、児童虐待を起こしかねない症例は児童相談所、など他機関との連携を構築を要する

4.当院では30年間にわたるアルコール依存症に関する治療経験が、より重篤な各種問題を抱える薬物依存の治療システム構築に有益であった。断酒会、ギャンブル依存者の会との連携などもこれからの課題かとも考えられる。

                

 

以上