看護業務・外来業務での
職員連携に通信機器を活用する

〜トランシーバーの活用例〜


札幌太田病院 総看護長 原田良一
外来婦長 落合雅子

取材:日総研 鈴木美奈子

外来看護 新時代 Vol.5 No3、101―106、2000


1.はじめに
2.医療法人耕仁会 札幌太田病院の機能
3.精神科をメインとする当院での外来業務の実際
4.看護業務に活用する通信機器の導入〜トランシーバーを活用して
5.トランシーバーを活用した看護業務・外来業務の実際
6.トランシーバー使用に際しての患者の反応〜患者アンケートから
7.おわりに

1.はじめに

 昨今の情報産業の発達により、PHS(簡易式移動通信機器)などの通信機器を医療に活用している、という話をよく聞く。そこで今回は,通信機器の中でもトランシーバーを活用している札幌太田病院の事例をご紹介する。外来看護はじめ看護展開に活用しているその具体例を、総看護長の原田良一氏、外来婦長の落合雅子氏におうかがいした。


2.医療法人耕仁会 札幌太田病院の機能:

 
 精神科・心療内科を中心とする札幌太田病院(254床)は、札幌市中心部から西に約5キロ離れた住宅街にある。アルコール症外来、思春期外来、禁煙外来をはじめ、治療に内観療法を取り入れている病院としても知られ、
インターネットを通じた全国からの問い合わせ、病院訪問なども多いという。常に先駆的な取り組みを試み、地域医療に貢献している。
 法人では高齢者を対象としたケアにもカを入れており、併設して「老人保健施設セージュ山の手」、北区に「老人保健施設セージュ新ことに」を運営している。また、病院周囲を中心に、退院患者が地域社会で共同生活するための共同住居・共同作業所を計10ヵ所運営し、早期退院と社会復帰を促進する一助となっている。社会復帰支援の一環として、札幌太田病院独自のホームヘルパー4級講座も開設している。法人では、在宅介護支援センター、訪問着護ステーションなども持ち、これらと連携しながら、精神・心身疾患を持つ患者や高齢者などへ、総合的なサービスを提供している。
 病棟構成は、@精神科急性期治療病棟入院 2(閉鎖)58床、A精神科療養病棟入院 1(閉鎖)54床、B精神病棟入院基本 4(開放)50床、C精神科療養病棟人院 1(開放)60床、D療養病棟32床中、介護保険指定12床の5つである。入院は予約制を原則としているが、空床を作らず緊急入院にも対応できるよう、5つの病棟の特性や病棟内を構成する患者の状況を踏まえ、外来と連携、相互に情報伝達しつつ、ベッドコントロールを柔軟に行っている。その際のカギとして、外来を位置づけている。

 
3.精神科をメインとする当院での外来業務の実際:
 
 札幌太田病院は,精神科平均在院日数134.3日、年間入院者数608名、年間退院者数600名であり、精神科急性期治療病棟に至っては、平均在院日数54.1日、年間入院数361名(平成10年度実績)である。
 外来の1日の平均受診者数は110名で、うち新患は3%、再来が97%である。アルコール症・薬物依存症外来、禁煙外来、心療内科での思春期外来、老年期精神科外来などをもつ。また、退院し社会復帰を果たした患者の 服薬管理指導なども行っている。
 入院に際しての外来業務の実際は、まず、予約が入った時点で、患者がどの病棟のどこに入院するのがよいか医師が中心となり検討・指示し、外来にある入院予約表に記入、全病棟に毎朝夕計2回FAX送信する。逆に各病棟からも毎朝夕計2回、入退院転棟連絡票を外来にFAX送信する。外来では、これら入退院転棟者にかかわる全情報をまとめた、何日にどの病棟に何人の入退院予定があるかを記入した一覧表を管理している。
 情報把纏だけでなく,症状の改善・増悪による際の転棟も,外来も交え検討する。札幌太田病院の外来は、そのようなベッドコントロール機能を併せ持つため、刻々と変化する各病棟の患者状況を把握できるよう、外来ナースが積極的に病棟訪問している。外来ナースと病棟ナースとが入院愚者の情報交換をする上に、看護部全体で患者を支えていることを示すことにもなり、患者との信頼関係を築く上でも、きわめて重要視されている。
 上記のとおり入退院が頻回で、病床稼働率が99%以上と高く、全病棟がほとんどいつも満床に近いという。また、空床があったとしても、緊急入院を必要とする患者が、その空床のある病棟にふさわしいとは限らない。よって、万床時における退院促進などの工夫・相談、あるいは転棟可能な症例の選定・患者への依頼などを、全病院的にかかわることで、ベッドコントロールと同時に行う。
 外来のほか、デイケア、地域福祉部、訪問着護ステーションなど、病院のさまざまな機能が患者をサポートしている。患者の窓口は外来であることから、札幌太田病院では外来を重視し、情報ステーションのような役割を担っているのである。
 また、外来ナースは病棟だけでなく、病院周辺の共同住居・共同作業所、あるいは近隣に住む通院患者の自宅にもケースワーカーと訪問する。訪問頻度は、外来で服薬指導・管理を受けている患者が来院しない場合や、本人や家族から訴えがあった場合などは随時、定期的には月1回訪問としている。全部で10棟ある共同住居などへの訪問は,外来だけでは困難で、定期訪問に関しては各病棟も受け持っている。そうしたケアから、退院後の拒薬、症状悪化、通院中断などの問題は、外来ナースが把握することが多い。この場合、関連各部門との連携を密にすることが、治療継続上、きわめて重要である。


4.看護業務に活用する通信機器の導入〜トランシーバーを活用して

 札幌太田病院の外来は受診者数が多く、ナースの活動範囲も大変広範に及ぶ。ベッドコントロール業務をはじめ、院内では外来が情報ステーションのような中核的位置づけとなっているので、各部署との連絡調整にはさまざまな工夫をこらし、活用して実際の業務にあたっている。
 前述したようにFAXを効果的に用いている札幌太田病院だが、さらにトランシーバー(特定小電力無線局)も有効活用している。看護展開への活用度・効果は大きく、1999年6月の第49回日本病院学会でもポスター発表されている。
 平成8年の病院の増改築に伴い、通信機器の使用を検討したことがトランシーバー導入のきっかけである。増築後は病院の大きさが対角線上で130mとなり、サービスステーション(ナースステーションをこう呼んでいる)から各病室までの動線が延長した。病棟ナースに限らず、外来ナースの訪室もこれでは時間ばかりかかりすぎ、本来の看護業務に支障を来す。このようなハードで看護展開するには、通信機器の活用が功を奏す、との判断を看護部で行い、さまざまな通信手段を検討した。
 当初、ナースコールやインターホン、PHSなども検討した。が、ナースコールやインターホンは固定式なので、やはり所定の位置に戻らなくてはならない。PHSは維持費の面から、導入には至らなかった。
 いよいよ新病棟も完成という時期にさしかかり、原田総看護長の発案で、トランシーバーの導入を検討、採用した。利点は、@携帯可能なので、どこでも使用できる、Aランニングコストがバッテリー充電の電気代以外かか  らない、BPHSのような1対1ではなく、複数でのコミュニケーションが可能である、の3点考えられた。
 専門業者と相談の上、通話条件整備のため、病院敷地のほぼ中央部に中継器を一台設置した。これにより音質が確保されている。傍受・情報漏洩の懸念があるので、プライバシーを保護し患者個人を特定できないようにした。数百種類から選局できるので、使用中不審を感じた際は、すぐにチャンネルを切り替えるよう努めている。また、医療機器への電波の影響だが、国内での実験データによると、札幌太田病院で採用している「特定小電力無線局は除く」とあり、医療機器への影響はほとんどないと言える。しかし「植え込み型心臓ベースメーカーや補聴器使用者などへ配慮して使用しないように」とあることから、間近での使用は避ける必要がある。
 採用しているトランシーバーはデジタルチャンネルでの設定も可能なので、中継器を経由しなくても交信できる。野外レクリエーションなどでも活用でき、便利である。これら使用方法を統一するため、院内には看護部を中心とした「トランシーバー委員会」を設け、トランシーバー活用マニュアルを作成、利用方法を標準化している。
 トランシーバーの台数は、導入当初は49台、現在は83台を病院全体で使用している。内訳は急性期病棟18台、外来3台、精神科療養病棟入院 1(開放10台,閉鎖12台)、精神(開放)病棟13台、療養病棟8台、作業療法課4台、デイ・ナイトケア4台、栄養課4台,内観療法課2台、婦長室1台、医局2台、事務2台などであり、デイケアや訪問者護ステーション、隣接した老人保健施設でも使用している。看護職だけでなく、医師をはじめ他職種も使用しており、ウォーキングカンファレンス、他職種との連携にも功を奏しているが、職員間だけでなく、職員と患者との信頼関係の構築にも役立っている。


5.トランシーバーを活用した看護業務・外来業務の実際:

 トランシーバー本体は、各セクションの婦長、主任、その日のチームリーダーが必ず携帯し、ケアワーカーも携帯する。毎朝8時45分に通信状況を確認し、1日がスタートする。
 何か連絡が入ると、常時携帯しているトランシーバーから声が聞こえる。1対1のコミュニケーションツールであるPHSは、交信している者同士でしか情報を共有できないが、トランシーバーは、スピーカーのように外部にも音が聞こえるので、携帯している者、あるいは周辺にいる皆が情報を共有できる。そのため、ボリュームは適度に調整する必要がある。
 業務の実際例として、病棟ではチームリーダーとスタッフ、ナースとケアワーカー、ナースと医師などが相互に連絡を取り合いながらケアを提供する。患者の入院が決定した場合、外来から病棟のリーダーとの情報交換や連絡ができ、ただちにリーダーからケアワーカ−へベッドメーキングの指示を出すことができる。点滴終了時の患者からのナースコール時には、最寄りのナースに対応を依頼したり、人手が足りない時など、すぐトランシーバーを使ってヘルプ依頼をする。作業療法、入浴、食事、レクリエーションなどの際、職員間の連携が容易となり、協力・相互補完しながら業務がすすめられ、安全面を高める効果が有効である。
 例えば外部の者が原田総看護長に電話をかけると、電話を取り次いだ総務では、内線ではなくトランシーバーを使って原田総看護長を呼び出す。看護長室への内線なら不在の際は連賂を取れないが、トランシーバーなら院内のどこにいても確実に情報が伝わり、最寄りの電話から外線に出られる。また、院内のほかのスタッフも「原田総看護長は今電話中」という情報を共有できる。誰が今どこで何をしているかが、院内全体で把握できるという大きな利点がある。
 一方、外来には男性看護職が配置されていない。緊急入院を要する、興奮した状態の患者が搬送され人手を要する時など、トランシーバーを使用して補助依頼をすると、瞬時に各病棟間で情報交換し、手の空いている人員が外来の補助にまわることができる。
 必要に応じて、外来ナースは病院周辺の共同住居へ訪問することもあるが、その際もトランシーバーを持参する。訪問したナースはトランシーバーを用いて病院に状況報告し、医師から指示を仰いだり、患者に随時情報を伝えたりする。患者からは、「訪問に来てくれる人だけではなく、病院全体で自分を守ってくれていると感じる」と好評だという。
 ナースは、このように各職種間ともトランシーバーを活用して連携を取りながら、日々看護業務にあたっている。サービスステーションまで戻らなくても情報を随時得られることが、何より業務の効率化に大きく貢献している。
 つまり、@職員間での迅速な情報交換、A情報を得ながら患者対応できる、B職員の位置確認が可能、C職員間の協力体制を図りやすく安心感や事故防止にも有効、D時間・人員の合理的確立が図れる、といったメリットが挙げられる。


6.トランシーバー使用に際しての患者の反応〜患者アンケートから:

 
 患者に対してのケアを円滑にする目的で病院内に導入されたトランシーバーだが、患者自身はどう考えるのか。札幌太田病院では患者にアンケートを実施している。 「病院内で職員間の連携と看護業務を円滑にすることを目的にトランシーバーを使用することをどう思いますか」との質問には、@とても良い:59%、A良い:29.5%、Bどちらとも言えない:8.2%、C良くない:3.3%と答えている。9割弱の患者が肯定的にとらえており、その理由は「広い病院で連携を取るためのトランシーバーの活用は機能的で良い」であった。
 「トランシーバーを使用することで、患者さまのケアを円滑にすることに役立っていると思いますか」との質問には、@役立っている:70.5%、Aあまり役立っていない:3.3%、Bどちらとも言えない:24.6%、C役立っていない:1.6%と答えている。約7割の患者が「役立っている」と感じ、その理由は「患者のケアが素早くできて、とても役立っていると思う」と答えている。アンケートからは患者の満足度が高いことがうかがえ、また、業務も効率化されている。看護展開・医療サービス提供のために通信機器が有効活用されている先駆的取り組みと言えるかもしれない。


7.おわりに:

 1対1の双方向だけでなく、院内の多数のスタッフがリアルタイムで情報を共有できるトランシーバーの活用を実際にしているが、大変有効であると同時に、仕事をしているスタッフ一人ひとりが実に楽しそうであった。個々のスタッフにとって、院内の情報がリアルタイムに随時流れてくる中で仕事をすることは、「自分の役割を果たすことが大きな組織を支えることにつながっている」という充実感を生んでいるのだろう。業務がはかどり、かつ、楽しくできることは良いことである。
 実際イメージしてみると、精神科の緊急入院というのは本当に大変だろう。院外から抜け出した患者を保護する場面も想定される。そんな時、かかわる職員が皆トランシーバーで連携することは非常に有効だろう。
 札幌太田病院は、患者・家族様に常に質の高い医療・看護・情報を提供するための取り組みをし、情報を公開し,新しいことに創意工夫して業務改善するなどの実践に努めている。これからどのような取り組みをされるのか、取材者自身もとても楽しみであるし、実践者である皆様へ敬意を表したい。
       
      (取材/日総研:鈴木美奈子)