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札幌太田病院院長 太田耕平
日精協雑誌 22(5):25-30、2003、日精協 
 
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  1. 病棟内・内観療法は認知の形成を解明する
  2. 内観法の普及を促進するために
  3. 内観法(吉本原法)の特徴と、医療現場に適合するための課題整理
  4. 内観法(吉本原法)の優れた諸点を病棟内・内観療法に生かす必要と理由
  5. 医療としての内観法 = 内観療法
  6. 入院内観療法…病棟内・内観療法の種類
  7. 病棟内・内観療法システムと従来の内観法(内観道場における)との差異
  8. 内観法→内観療法→病棟内・内観療法システムの成長
  9. 内観療法が奏効した不登校中学生の一例
  10. 病棟内・内観療法システムは、オートポイエーシスである
  11. 病棟内・内観療法の臨床的効果と特徴





 内観療法に関する医学書としては、岡山大の奥村二吉ら著『内観療法』(医学書院,1973年)が最初であろう。以来30年を経て内観療法の名称は確実に知られ、治療法として広く紹介され、本療法の有効性を知り長年携わって者にとり、うれしいことである。しかしながら、@内観法、A内観療法、B病棟内・内観療法、が混同され、一般人や医療従事者に種々の誤解を与え、教育・企業・医療・一般社会への正しい普及が遅れていると思われる。内観法⇒内観療法⇒病棟内・内観療法の成長経過を振り返り、さらに、その奏効機序、病棟内・内観療法から見た人間の認知の形成過程、さらに本法の臨床的長所について論じたい。
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 一般社会や教育関係者、企業人で本療法の有効性を知っている人々はいまだ少ない。さらに本治療法を実践している医療機関は増えているが、常時複数以上の患者に対して、専任の医師・看護師・心理士による安定した病院治療システムとして稼動している医療機関はまだ限られている。その理由は、@吉本内観法の基本的方法が自発的な修行意欲のある人を対象にしていた、A吉本伊信による小規模の内観研修所の構造と機能が内観的心的開悟には最適と判断されていた、Bその後の内観法の啓発・普及への功績が大きく他の方法を必要としなかった、などが挙げられよう。健常人の個人的な内観体験の場として今後とも重要な役割を果たし、発展することが期待される。
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@ 内観法の創始者は医師・看護師でなく、治療・看護・チーム医療の視点に乏しいこと
A 内観が内観道場(研修所)の修業の形で広まり、医療業務の構造になじまない
B 内観道場の運営は夫婦2人で早朝からの家内労働であり医療職務制度と矛盾する
C 内観道場は原則として自発的内観希望者(健常者)に限られ、病者を対象にできない
D 病識欠如者や精神症状ある症例、「屏風内で7日」に耐えない人、へ対応方法がない
E ゆえに従来の内観法の適応範囲は狭い。しかし、病棟内・内観療法により上記Dの症例にも導入可能となった
F 創始者の姿勢、合掌・屏風に宗教性を感じ取る医師・患者から忌避されやすいこと
G 内観療法は最近まで医師・看護師・心理士など医療教育に採用されていない
H 治療者自身が内観を体験して初めてその有効性や奏効機序を体得できるが、医師・看護師自身が内観体験を迫られる機会がないこと

 これらの課題を解決することで内観法(吉本原法)の長所を医療現場に生かし、重症例に内観療法を可能とするのが「病棟内・内観療法」である。一方、内観法の優れた技法・効果を、心身症など医療を求める人々に医師・看護師・心理士が担当するのが内観療法である。軽症患者は、医師の紹介と支援の下での内観研修所や、外来や診療所入院の内観療法がふさわしい。

内観法・・児童生徒・健常人・企業人の人格陶冶を目指す修行法。内観道場(研修所)を中心に内観の心と技法を守ってきた
行動内観・・高橋 正による「内観5問」、「心の内観」など優れた技法が、今後その普及に期待される
内観療法・・・内観体験医師・看護師・心理士のチーム医療行為として内観法を応用する
病棟内・内観療法・・病院組織の病棟内医療行為。関係法規を遵守し重症例をも治療可能

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1. 1日15時間持続し、7泊8日間の継続的記憶回想(内観3問)を行なう

 この継続的回想努力により2〜3日後から回想が円滑となり情動も出やすい。患者に重要な影響を与えた人々の回想には、6〜8日は必要である。当病院では早出勤務と遅出勤務表により労働時間を遵守している。この3〜4年は行動内観の内観5問などを、症例を選んで行なっている。

2. 幼児期から年代順の、母・父など近親者から回想を始める・・・父母を恨む症例では手足についての内観(身体内観)から始まる。

 幼児期の体験や感情、認知、心的外傷がそのままその後の感情・認知・人生に大きい影響を与えている例が多い。自分の心の癖がいつ、どのように形成されたか理解・納得できることが治療効果を得るうえで重要である。当院では内観記録用紙にこれらの要点の記載を行い、次の面接者への申し送りを行なっている。

3. 屏風(半畳)の中で行う・・・感覚遮断の効果があり、記憶回想に集中しやすい

 吉本伊信が内観開悟した場所は「うすぼんやりと差し込む光で昼と夜の区別がつくぐらい」の暗く静かな洞窟であり、これは感覚遮断の状態に近く、内観環境として重要と思われる。当院では閉所恐怖などで拒否する症例以外は、屏風を勧めている。足・膝・腰の痛みを訴える症例では、屏風内に椅子を入れたり、ベット上に寝ながらの内観療法を始めることもある。

4. 用便・入浴以外は屏風から出ない(食事も屏風内で摂る)・・・集中するために必要

 当院では、内観担当職員全員が配膳・下膳に協力している。内観室U(4人用)にはトイレ・洗面を併設している。バス・トイレ・洗面を設備した個室での自室内観も行なっている。

5. 60〜90分おきに、指導者が面接に行き、拝聴する・・・当院はメモすることを可とする

 医師・看護師・心理士が交代で、症例により看護師同伴の2名(1人は記録係)で面接にあたる。面接者の職種・年齢・性別などの選択は、症例の状態に合致するよう工夫している。

6. 面接時の正座・礼拝と合掌の動作・・・勧めるが拒否あれば、挨拶のみとしている

 この動作と時間は、患者・面接者双方に共動作業としての共感、心の準備となる。しかし宗教性あると抵抗を示す症例には、頭を下げる挨拶のみにしている。正座することを厳密には求めないが、内観後半には患者が自主的に正座・礼拝・合掌することが多くなり、内観者の心のあり方が自然に態度に現れるものと思われる。

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 医師が責任を持ち、医療機関により種々の工夫や試みがなされている。当院では4〜5の発達段階を経て今日の姿になり、その治療対象が軽症者から重症者に広がりつつある。

 ●外来通院による方法
イ. 内観(日記・ノート・はがき)・・・集中内観療法の準備・練習、退院後の再発予防
ロ. 通い内観・・・午前・午後に1〜5・6時間、外来や内観室で内観する
ハ. 内観カウンセリング…内観3問を行う

  
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 内観療法室、内観職員詰め所を含め医療法上届け出て許可を受けた病棟内にて行なう。
 当然のことであるが、届け済み定数の医師・看護師などの医療職員が常在する病棟内で行なわれる。ほぼ全員が内観法を体験した医師・看護師・心理士であり、急な変化があっても直ちに対応可能なことが大切である。また、入院患者が安心して内観療法に協力しうる。
 
イ. ゆったり内観・・入院直後か、精神症状が改善して間もない患者へ。任意に内観し日記に記録する
ロ. 日常内観・・・・・・イの患者の次の段階、または集中内観修了者が日常生活の随所で内観的思考を深める
ハ. 内観室内観・・・・正式の集中内観を行なうことが原則(心身症、うつ、拒食症、薬物・アルコール依存、統合失調症など)
ニ. 自室内観・・・・・・個室を希望、またはプライバシ−を望む患者(不安の強い患者)に行う
ホ. 保護室内観・・・・保護室使用を要す患者に保護室内で内観療法を併用(重症者に有効)
ヘ. 抑制時記憶回想療法・・・・警察から抑制され来院患者、抑制を要する患者に併用(最重症者) 
ト. 家族同時内観・・自宅で日記内観を終了した家族が来院し、集中内観終了した患者と互いに反省・気付き・感謝を言葉と態度・スキンシップで交換する
チ. 親子同屏風内観…母子などが短期間、同じ屏風内で互いに内観する

 当院でこれらの多様な病棟内・内観療法が分化、成長し、システム化しえたのは、まさにオートポイエーシスの概念に一致すると思われた。





 病棟内・内観療法は、内観道場(内観法)や診療所外来・入院(内観療法)では対応困難な重篤症例への内観療法的接近の方法である。内観法さらに内観療法を経験したスタッフ・チームが時間をかけて成長し続ける治療システムである。

@ 病院および病棟内業務として、労働基準法・医療関連法規を遵守し、病棟内で行われる
A 内観を体験した医師・看護師・心理士など熟練した治療グループによる医療行為である
B 実績ある内観療法看護計画・内観勤務表・内観療法総括表に従い全職員協力下でなされる
C 治療看護行為であり、症状に合わせ(1・2・4)人用の内観室、内観職員詰め所を備える
D 病棟内で十分な保護・観察下で行い、症状の変化には迅速かつ柔軟に対応可能である
E 内観室名、時間、指導者、テーマ、3〜5問への解答、情動の出現、真剣さ、など病棟内・内観療法記録として保存する
F 抵抗(導入、内観)の程度と内容、心的外傷の内容と対処、次のテーマ、などを記録し申送りを通して、内観指導者のストレスを解消する
G 家族にも内観(自宅・道場)することを勧め、終了時に院内で家族同時内観を行なう
H 統合失調症、うつ、せん妄など重症者にも記憶回想的接近は無理なく適応し奏効しうる
I 内観者の拒否・中断などには職員・医師で相談し、面接を繰り返し柔軟に対応する
J 最近は行動内観療法(内観5問、心の内観、そのときの相手と自分の気持ち)の技法を採用し、効果が認められる
K 医療保護入院・措置入院など病識欠如例への導入は時期をみて慎重かつ積極的に行なう

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 これらの治療法は、社会や疾病構造の変化・需要に従い、さらに医療制度の進歩などに合わせて、下記のように段階的に成長してきた。

[第1期]
:昭和49年〜55年頃。内観療法の対象はアルコール症が主で、関与する職員は著者1名のみであった。人手不足を日記帳やポート用紙で補っていた。当時、他の職員は非協力的であり、興奮や拒否・否認の強い症例を選び保護室内・内観療法であった。断酒会につながり断酒に成功し、その後断酒会を結成し役員になった人々との出会いがあった。クリニカルパスである10段階療法の第4段階に内観療法を備えた。この頃は新患の39%が統合失調症、30%がアルコール依存症であった。地域に断酒会が結成され、内観体験し断酒した会員と入院者の交流が始まった。アルコール症の入院増に備え陳旧性統合失調症者の退院促進目的で共同住宅が設置され、ケースワーカーから支援した。

[第2期]
:昭和56〜61年頃。新入院患者の41%をアルコール症が占めた。父母がアルコール症の子供たちから、不登校・いじめられ・シンナー乱用・非行など呈する思春期症例が新患の23%に達した。これらの治療法をいろいろと探し求めたが、短期間で有効性の高さ、家族関係の回復に関して内観法より優れる心理療法には出会えなかった。不登校治療のクリニカルパス(全14日間)を作成したのはこの頃である。アルコール専門病棟が新設され、内観療法専任職員を採用した。女性断酒会が結成された。共同住宅が3軒程度増加した。

[第3期]
:不登校など思春期不適応が進行性の重複性の心身症に陥る症例を多数見るようになった。すなわち、親の離婚⇒転居⇒転校⇒いじめられ⇒不登校⇒ひきこもり⇒不安・パニック⇒心身症(拒・過食)⇒暴力⇒家族全体の病理へ・・と進行し複雑化する。これらの予防・早期発見・早期治療に内観療法は優れていた。平成元年から内観療法担当看護師長を任命し、内観療法面接対話の全てを内観記録として残し症例研究に生かしている。デイケアを開始した。

[第4期]
:平成4〜10年頃。水中毒による痙攣発作防止のため保護室収容を必要とした女性統合失調症者に保護室内・内観療法を行なったところ、恨んでいた母から昔ピアノを習っていたことを回想しえた。これを契機に自信、親への信頼感を回復し、音楽療法の助手をするまで回復した。この経験から幻覚妄想状態の症例に薬物療法に併せて、慎重に記憶回想法を適応して有効である印象を強めている。内観療法職員詰め所を設置し、内観療法職員勤務表、内観療法統括表を作成し内観者の増加(年間200〜300例)へ対応した。アルコール・薬物依存症者用デイケアを開始した。共同住宅が10軒に増加した。

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1.症例:
 A子。1年間に2カ所の心療内科へ通院したが症状改善せず、当院にて療法を主とする入院治療を行い、通学可能となった症例を報告する。
 主訴は不登校、不眠、リストカット、男性恐怖。父母妹の4人家族。小学時から「学校に行きたくない」と言ったが、不登校には至らず、友人も多く、成績も普通だった。中学生時、建物の屋上で遊んでいたところ、近所の人から学校へ通報があり、先生に叱られたことをきっかけとして週に2〜3回しか登校しなくなった。うつ状態から不眠となり、B心療内科を受診し、不安神経症と診断を受け、薬物治療を行うも症状改善しなかった。その後親友に相談したことが皆に知られていたことをきっかけに完全に不登校となり、C心療内科を受診するも症状改善せず、自傷行為、仮性幻聴を呈した。「進学したいがこのままではできない」と当院受診に至った。

2.入院経過:
 父母A子で来院し、インテーク時には「先生からもう学校に来なくて良い、どうせなら死ねば良かったのにと言われた」「相談した内容を親友に言いふらされた」「自分は嫌われているように思う」「小さい頃に男の人に連れて行かれそうになり、怖い思いをしたことを最近思い出して、お父さんのことも怖いと思ってしまう自分が嫌だ。男の人が怖くてバスにも乗れない」「無意識にリストカットしてしまっている」と、表情固く涙ながら訴えた。話しの内容が妄想の可能性もあり、2カ所の心療内科を受診後も増悪傾向を示しており、通院治療では困難と判断した。内観療法を目的として即日入院となり、翌日から内観室での病棟内・内観療法導入となった。

3.病棟内・内観療法の経過:
 内観1日目の夕方から「母にしてもらったことを調べてうれしくなった」と激しい情動がみられた。夕食前に「内観室では思い切り泣けなくて辛い」と、内観療法課のステーションへ来たが、10分程面接者が話しを傾聴して受容的に関わると、A子自ら内観室に戻った。内観2日目も情動がみられ「同室者に申し訳ない」と訴えあり、面接時には十分な感情表出が出来るよう、3名用内観室から面接者と2人になれる別室へ移動して面接を行った。入院により初めて家族と離れた不安も傾聴し、A子の熱心な様子を誉め、主に女性心理士が受容的に関わった。

 母のテーマでは「充分してもらっていたのに、もっとかまって欲しいとわがままだった。ありがとうと言いたい」と被愛体験から気づきを得て、「恩返しをするために家の手伝いをもっとして、いつも笑っていたい」と今後を語った。父のテーマでは、父を怖いと思うことへの自己嫌悪から「父を思うと蜂に刺されるような気持ち」と述べたが、拒否することなく泣きながら調べ続けた。小学5年時「学校へ行きたくないと言って父を困らせた。調べてみたらこの時は特に理由はなかった」と不登校が自分の甘えだったことに気付き、父母のテーマが終わった3日目からは表情良く、笑顔もみられた。

 4日目の周囲への迷惑のテーマでは、現在の不登校のことを「何となく朝起きるのが嫌だとか、小さな理由だった」とすっきりした表情で語った。終了後、「内観して学校へ行くのが当たり前に思えてきた。自殺未遂したりして自分はバカだった。人に何かしてもらうことは、自分が出来ないからと思って今まで恥ずかしくてありがとうと素直に言えなかった。今は感謝でいっぱい。生きて親孝行する。皆にありがとうと言いたい」と語った。

 内観終了5日後、父、母、妹来院で家族同時内観を行った。父母もA子のテーマで自宅内観を行い、母は「今まであまり誉めてあげていなかったし、言葉でありがとうと言っていなかった」と詫び、父は「自分が頑固だったと気付かせてくれたのはA子だ」と詫びて礼を言った。その後、父同伴で病院から校長室へ登校した後、父母による病院から学校への送迎登校を3日間行い、入院約20日目で退院した。予後は進学が決まり「毎日が楽しい」と通学している。

4.考察
 入院前のA子は、家族との分離不安から登校意欲が持てず、先生に叱責を契機に不登校となり、うつ状態と他者に対し被害妄想を抱いた。ひきこもり、自傷行為、仮性幻聴を呈し、症状の悪化を辿った。病棟内・内観療法を含めた入院治療が家族とA子を分離し、親子がそれぞれ自己を見つめ直す機会となった。A子は自己客観視が可能となり、被害妄想が消失し、正しい被愛体験により心的外傷を受容し解消した。また、内観後の家族療法的な関わりにより、家族全体が「変わらなければ」と共通の認識を持ち、個々の家族が健全に成長し協力し合ったことも良好な予後に寄与している。

 病棟内・内観療法は比較的重症例にも適用でき、過去を客観的に調べることで、誤った認知に至った経緯に気づき、積極的な認知に修正する認知行動療法である。
 これらを短期間に行えることから、早期発見・治療が重要な不登校の治療に有効であることを示唆する。
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 長年にわたり病棟内・内観療法を受けている患者の個々のニーズに合わせて、導入法、導入時期、内観場所、指導者、内観療法ケアプラン、などに工夫を重ねてきた。その技法は多様化し細分化し、今日のシステム体系になったが、いまだに成長を続け、適応対象も拡大しつつある。
 この分化し多様化して成長する状況は著者らにも喜びとともに、不思議でもあった。これは一種の生命システムであり、オートポイエーシスであると考えるに至った。オートポイエーシスについては「生命システムは認知のシステムであり、プロセスとしての生命は認知のプロセスである」。また「自律的、自己言及、自己構成的な閉鎖系である」であるとか「認知領域の拡大の可能性に制限はなく、それは歴史的プロセスである」などの解釈があるが成書に譲りたい。
 病棟内・内観療法により、個々人の認知形成過程さらに人格形成過程を経時的に解明しうる。病的認知形成の背後に心的外傷、とくに、身近な家族との葛藤・遺棄・虐待などが未解決のまま記憶の底部に沈殿していることを発見するのである。人の認知領域はどんどん拡大するものであり、その経過を観察分析する病棟内・内観療法システムも当然成長し続ける必要があるのであろう。
 極めて単純な内観3〜5問による回想が、著しい治療効果を発揮することが不思議である。たぶん、人間の生存に関係する基本的感情「好き嫌い」や「善悪」の認知形成は、してもらった安心感、不安や危険から守ってくれた安心感、もしくは逆の不安や危機感などを基になされ、これが、フラクタルまたはマンデブロー図形的に拡大し、曼陀羅図様のイメージの心像を無意識に形成されると思われる。
 ユングの曼荼羅図に深い関心を持ち、自ら描いたことは有名である。当院では病棟内・内観療法終了後に18枚の曼荼羅図を描いた統合失調症者があり、その後、症状の著しい改善を認めている。
 人脳の胎生学的・組織学的発達にもフラクタルが認められ、さらに人の心・認知・性格の形成にも、病的認知形成にも、最初の刺激への認知や反応がフラクタル的に発展することを病棟内・内観療法は教えてくれるのである。

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・患者に関して
@ 適応する病態・疾病のはばが広い
A 平均在院期間を短縮(107.2日、除介護医療病棟)
B 神経症・心身症圏では薬物なしに移行しうる
C 抗精神病薬を内観療法後に減量可能となる
D 家族療法的意味が強く、家族関係を回復する
E デイケアへの適応がよくなり、再発を抑制する傾向を認める。深い内観体験は長く持続する
F 導入に不安や抵抗を示す患者・家族には時間をかけて説明し、ゆったり内観から始める

・職員に関して
@ ほぼ全員の職員が集中内観を体験しており、自分の心的葛藤を解決しており医療者として人間的に成長する
A 医療職が内観療法の効果・転迷開悟を体験しているので指導を共感的に勧めうる
B 患者を生下時から現在まで成長、発達する貴重な全存在であると職員が理解でき、その中で病気の意味や、治療的働きかけを工夫できる
C 病や病的人格形成に関して、その背景因子、準備因子、引き金因子が明らかになることが多く、患者・治療者共に納得しつつ症状が改善する。

 近年、カウンセリングや薬物の無効な症例が増加しており、今後、病棟内・内観療法が普及することを祈りたい。


(※サイト管理者注:プライバシー保護のため、原文より一部変更しております。ご了承下さい)

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[参考文献]

1) 吉本伊信:内観の道、内観研修所、奈良、1997
2) 奥村二吉、他:内観療法、医学書院、東京、1972
3) 太田耕平:アルコール症の十段階精神療法、アルコール研究12:163-164、1977
4) 大熊輝雄:感覚遮断-その生理学的−精神医学4:687、1962
5) マクマリンRE(岩本隆茂 訳):認知行動療法入門、川島書店、東京、1990
6) 森定 諦:精神分裂病群に対する内観療法、第3回日本内観学会論文集:17-19、1980
7) 太田耕平:内観療法の奏効機序、第14回日本内観学会大会論文集:23-31,1991
8) 太田耕平、他:病院内での集中内観、日本保健医療行動科学年報 12:39-50、1997
9) 太田耕平、他:精神分裂病の集中内観療法の有効性、精神治療学 13:1215-1223、1998
10) 太田耕平:交流分析と内観療法、交流分析研究 24:125-132、1999
11) 上野ミユキ、他:家族個々の内観療法と家族同時内観療法−夫婦不仲が子達の問題行動の原因と気付く−、第40回日本児童青年精神医学会総会抄録集、141、1999
12) フランシスコ・ウァレラ、他:オートポイエーシスと現象学、現代思想 27(4):80-93、1999
13) 太田耕平:薬物依存と病棟内・集中内観法、日本神経精神薬理学雑誌 20:249-252、2000
14) 鈴木美香、他:急性精神分裂病者に内観的看護を試みて、第25回日本精神科看護学会誌 43:91-93、2000
15) 太田耕平:病棟内・内観療法の有効性を高める工夫、第25回日本内観学会抄録集:24-25、 2002
16) 篠田崇次:内観療法の奏効機序に関する一考察 −統合失調症例に対して−、第5回日本内観医学会抄録;26,2002
17) 根本忠典、他:統合失調症に対する病棟内・内観療法の試み、第26回日本内観学会大会抄録集:49-50、2003
18) 高橋 正:構造改革をした新しい内観研修法−行動内観法の全容と特質、第25回日本内観学会大会抄録集:42-43、2002
19) 林 道義:ユング.人と思想59、法規書籍出版、東京、1980
20) 品川嘉也、他:医学・生物学とフラクタル解析、東京書籍、東京、1992