内観後のサポートの重要性
−家庭内暴力を呈した思春期不適応の一例−


札幌太田病院  篠田崇次、 根本忠典、 杉山善朗
太田秀造、 響   徹、 太田耕平

第4回内観医学会、2001



はじめに:

 近年増加している家庭内暴力の定義、原因背景、理解及び治療法は多様である。当院では、昭和49年から各種の思春期不適応に内観療法を行ない有効であった。家庭内暴力を主訴とする思春期不適応の一例を紹介する。


症例:

 中学生男子。父母・弟との4人家族。母は不安傾向強く、父は母に対して威圧的で、子供の前で母に暴力を振るうこともあった。本人幼少時より、衝動的、対人関係が希薄などの特徴があった。WISC−Rの結果、全体106と平均知能であった。ただ、社会慣習での適切な行動に劣り、注意散漫さが目立ち、何らかの発達障害が疑われた。受診3ヵ月ほど前より、家庭内で家具を壊すなどの暴力、「殺してやる」などの暴言、筋肉への異常な執着が出現。学校では友人は少ないが、成績も普通で休まず登校。受診日に入院を告げると、怒りによる発作(体を前屈させ手をワシ状にして震わせる、著しい流涎)が見られた。


内観の経過:

 落ち着いた段階で内観療法を導入。想起する内容は了解可能で豊か。ただ「たくさん思い出さなければならない」という強迫的な面も見られ、また落ち着きなく歩くなどの行動があった。内観のレポートには、初日「(内観を)やりたくないけど、暴れてしまったので仕方ない」、二日目「母には色々なことをしてもらった」、「父は少し嫌いだったが、今は嫌いではない」、三日目「弟にはしてあげたことの方が多いと思ったが、してもらったことも多かった」、四日目「友人と付き合いが悪いというのも、暴れた原因なのかもしれない」、といったように認知の変化及び自己洞察が進んでいる様子がうかがわれた。そして内観終了後の感想には「自分は不幸だと思っていたが、実は幸せだった」という内容があり、安心感が得られたようだった。同時に内省を繰り返すことでより適応的な自我を強化できた。


結果:


 一方で両親はまだ本人を退院させることに不安を抱いていた。その不安を解消させる為に両親と本人を院内で一泊させたところ、両親も本人の落ち着いた様子に安心した。また入院中に、学校生活でいじめを受けていたことが判明し、学校と連絡を取り、登校しやすい環境も整えた。内観終了後2週間は当院から登校し、その後退院となった。退院後2ヵ月が経過した時点では、通院、内観日記を継続し、対人関係の希薄さはあるが、家庭内暴力は消失し、学校も休まず登校。この間心理士は、母親との面接による両親の負担の軽減、本人との運動療法によるストレスの軽減、さらに登校に向けた学校との調整などの役割を担った。
考察:今回紹介した事例では、認知の変化や情緒の安定などの内観で得た効果を持続させ、安心できる環境(主に家庭・学校)作りが功を奏した思われる。このような症例には、本人の変化のみならず取り巻く環境も変化しなければならない。その環境を築く為には、関係機関と情報を密にし強い連携をとって適切な援助をすることが大切である。 

 ※本文は、プライバシー保護の目的により、原文に一部変更を加えております。御了承下さい。

<参考文献>

・太田 耕平:幼児から高齢者までの心の発達十段階心理療法 第8版 医療法人耕仁会 札幌太田病院 2000
・島薗 安雄ら編:図説臨床精神医学講座−第4巻 青年精神医学 メジカルビュー社 1987
・上野 ミユキら:不登校・家庭内暴力に著効した内観療法 日本精神科看護学会誌 Vol.42 No.4 p39 1999