幻聴・妄想と暴力・不登校を呈した高校生の治療経験
― 内観療法経過・・・内観指導者の視点から ―


札幌太田病院  根本忠典、千葉信行、池田明穂
太田 秀造、響 徹、太田 耕平

第4回内観医学会、2001



1・一回目入院と内観療法:

 入院に納得せず大声を出す興奮状態のため保護室内に収容し、薬物療法中心に鎮静をはかりつつ、0から6歳時の母への回想から開始した。具体的事実の回想が可能であり鎮静的に作用した。時に暴言や自殺をほのめかしたが、受容的態度と薬物で対応し得た。内観テーマは母→父→先生→幸福の発見、と進め内観後には「包丁を持ち出した時の父さんの気持ちを考えると、悲しかったと思う」と反省を記した。内観終了時、@A君の労をねぎらう、A家族との信頼関係の回復、B両親に本人の成長を知らせる、ために両親と院内で家族内観を行った。以前より落ち着ついたが、父親に注意されると暴言を吐き、母親の顔にキスや膝枕を求める児的態度は残っていた。しかし表面的反省と登校意欲が出て、父の送迎で当院より7日間通学し退院し、自宅から通学したが授業中不穏で大声を出し10数日後再入院した。


2・二回目入院と内観療法:

 保護室内で導入時は不穏で、主治医との面会を一方的に要求し内観は浅かった。中期に入り真剣になり、テーマ「病院職員に対する自分」では「自分の要求が通らないと暴言を吐いた」などの反省を述べた。また、行動内観5問がより深い反省、自己洞察を可能とした。内観終了後、各種作業療法に参加し通学も可能となり、問題行動が改善され入院期間約1ヵ月で退院となった。


3・三回目入院と内観療法:


 「人を殺してしまいそうだ、注射を打って欲しい」などと外来で訴えるも、通学(時に保健室)を続け2年生に進級しえた。かなり安定し、内観日記を自宅で記入し外来に持参させた。母に対して「ババー」と言い、父に注意されると包丁を持つ動作が2〜3回あったため、前回退院後5ヶ月を経て3回目の入院となり3回目の内観療法を受け入院10数日で退院した。退院後12ヶ月を経た現時点で、高校の教師は@毎日通学し、A教室に普通に参加し、B目立つことなく彼なりにやっている、C時に自分だけの思いでしゃべることあり、とのことであった。


4・考察:

 
 本例は児的万能感で入院中も暴言、不穏、わがままを呈したが、内観中の無理な要求に対して治療者側は「それは出来ない」と厳しく関わった。一方、面接時に合掌と礼拝によりA君を尊重し、病の治癒を祈る温い心を態度で表現し、精神状態に合わせ面接回数や方法を臨機応変に変更する工夫をした。この父性的な厳しさと受容的な母性的治療態度の継続が、反省と自覚、行動の改善を促したと考えられた。内観初期は反抗、攻撃的であったA君が、まず家族、周囲への暴力を詫び、ついで親や周囲から受けた多くの愛に感謝し、さらに「学校へ通う」と決意を表明し、きちんと通学している。集中内観は単に不登校・家庭内暴力などの問題行動を改善したのではなく、自己を客観的に見つめ、深い反省から認知や行動を修正する契機になったと思われた。薬物療法も継続し幻覚妄想も消失し、より現実的な思考、立場、役割に定位し通学を続けている。


 ※本文は、プライバシー保護の目的により、原文に一部変更を加えております。御了承下さい。

(文献)

・太田 耕平「薬物依存と病棟内・集中内観療法−適応と有効性を高めるための導入などの工夫−」 日本神経精神薬理学雑誌(Jpn.J.Neuropsychopharmacol.)20:249−252(2000)
・太田 耕平「精神分裂病に対する集中内観療法−開始理由と効果をあげる試みー」内観療法の臨床−理論とその応用−(川原隆造編)133―145(1998)叶V興医学出版
・太田 耕平ら「精神分裂病者の集中内観療法の有効性―奏効性を高めるための工夫と経過−」精神科治療学 第13巻 第10号 1215−1223(1998)