16.妹をいじめていた不登校中学生への家族同時内観


医療法人 耕仁会 訪問看護ステ−ションやまのて
谷藤 伸恵


 
<はじめに>

 家庭内暴力を呈する症例では、本人を治療するだけでは解決は困難であり、家族全体をシステムと捉えて関わることが重要であると言われている。長期間にわたり不登校であった患児が妹をいじめるようになり、徐々にエスカレートし両親が対応に困り、O病院にて内観療法と家族同時内観療法を併用し、7日間という短期入院治療を行った。そこで家族自らが機能不全に陥っていることに気が付き、特に父親の自己洞察が深まり、家族機能の改善をはかることができた。家族同時内観療法の効果と今後の活用への課題を考えたい。


<事例紹介>

 T君 10代前半 男性 中学○年生 S市
 診断名 不登校、家庭内暴力
 T君が2歳の時に妹が生まれ、しつけの厳しい父と難病に罹患している母のもとで充分に甘えることができず、自らの意志を表現するのが不得意なまま成長する。小学校低学年より不登校が始まり、T君14歳時の夏休み明けより、妹へのいじめが始まり母が止めても徐々にエスカレートしていった。父は不在が多く、主に母が対応しており、家庭での対応が困難になりO病院受診し、内観療法を目的に当日入院となった。


<内観療法と同時家族内観療法の経過>


 T君には、○年10月入院当日から内観療法が開始された。開始当初退院欲求が強く、内観も深まらなかった。内観3日目から徐々にではあるが、精神的にも落ち着き面接者の問いにも、自ら考え、回答ができるなど内観に導入されていった。
 家族同時内観療法は、第1日は母、第4日は父と兄、第5日は母と妹が参加して行われた。そこで、今まで機能不全家族の中でT君が担ってきた「母を守る」という役割が明らかになった。父は、家庭を省みず自己中心的な生活を送ってきたことを反省し、母は父の謙虚な姿勢と患児が成長したことを実感し元気を取り戻した。
 最終日のボデイワークを含む家族内観では、これまでの気づきと今後の家族内でのコミュニケーションの取り方や登校など具体的な生活上の取り組みについて話し合われた。特に家族内のコミュニケーションについては、実際に親子で相撲をとる、背中合わせで一緒に動くなどのボデイワークを実施する中で、これまでの家族交流の不足に気づき、家庭内での望ましい意志感情伝達の方法を学んだ。
 ○+1年4月(退院後約6ヶ月)、母親によると、S君は、2日に1度のペースで相談指導学級に通学し、徐々に地域の学校(空き教室)への通学を始めている。妹へのいじめはなくなり、仲良く遊んでいるということである。


<考察>


 T君は、幼児期に家庭内で、充分甘えることができず、自分の言いたいことを積極的に表現できない状況で育ち、これが子供らしい活発さや自我の形成を不充分にし、小学校低学年で不登校になった。そこで、さらに仲間集団や学校生活での知識や経験が乏しく他者からの適切な影響を受けることができず自己確立をはかることができなかった。
 そして、中学時に、思春期特有の心身の不安定さと、両親の不仲などを契機に、妹をいじめるという行動を呈したと考える。T君家族の皆が内観体験することにより、家族全体が好ましく変化したのは、患児が担ってきた役割を家族全体の問題として捉えることができたことと、特に父が自分が家族へとってきた行動を振り返り、罪を自覚し涙を流しT君や妻に詫びることができたためと考える。家族講成員が各々に反省し謙虚になり、患児の問題を通して家族が1つになって問題を解決していくという姿勢になり家族機能が良好に回復したと考える。このような機能不全家族の中で個人が症状を顕わしている場合は家族同時内観との併用が有効であったと考える。
 本事例の関わりをもとに、家族同時内観療法をさらに有効なものとするために、本人だけでなく家族の同意を得るための説明、就労中であったり遠方であっても積極的に参加を促進のための工夫が必要である。また、自宅へ戻ってからの内観体験の効果の持続の為の内観日記などの支援システムの活用が望まれる。



【参考文献】
1) 太田 耕平:幼児期から高齢者までの心の発達十段階心理療法−自信の回復と幸せな人生のために−,第8版,医療法人耕仁会札幌太田病院,2000.
2) 金子 道子:ヘンダ−ソン、ロイ、ペプロウの看護論と看護過程の展開,第1版,照林社,1999.
3) 遊佐 安一郎:家族療法入門−システムズ・アプロ−チの理論と実際−,第版,星和書店,
4) 金城 祥教 他:精神科看護の専門性をめざして−専門編−,第4版,中央法規株式会社,1998.
5) 太田 耕平:内観療法と奏効機序,第14回日本内観学会論文集,P21〜31,1991.
6) 上野 ミユキ:内観療法の試み −看護者としての役割−,月刊ナ−スデ−タ,14(6),P98〜109,1933.
7) 森山 美知子:ファミリ−ナ−シングプラクティス−家族看護の理論と実践−,第1版,株式会社医学書院,2001





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