11.幻覚・妄想状態を呈した大学生に対する集中内観療法


札幌太田病院
○坂上 孝幸・磯野 章・種畑 美紀(看護師)・太田 耕平



T.はじめに

 一般的に、精神分裂病の治療は薬物療法、精神療法、生活療法を中心に進められてきた。当院では内観療法を、様々な症例に様々な方法で導入してきたが、その中で精神分裂病への集中内観の導入は、妄想などの内的体験の異常があり、当初は内観は困難とされていた。しかし、従来から内観を病棟内で一例一例にふさわしい方法で柔軟に提供する工夫を重ねこの数年は精神分裂病にも適用範囲が広がり、改善率が高まった事実を当院から報告してきた。今回提示する症例は、幻覚妄想のある頃からゆったり内観に導入し、幻覚妄想が消褪した後に自分から進んで集中内観療法を希望した。その後の集中内観で、内観体験を通して妄想と現実の区別を明確に認識し、妄想状態が改善され将来の目標設定がされ復学できた。


U.症例紹介

 A氏 20歳 男性 大学生 S市
<生活歴・病歴>
 両親健在、弟1人。成績優秀。公務員になる事を希望し、A大学法学部に入学。入学後、プロスポーツ選手を目指しトレーニングをていた。しかし、友人よりプロは無理といわれ目標が消失した。平成X年1月末より母の後をついて歩き、過去のことを話す奇異行為がみられた。登校中、カバンや靴を投げ出し、裸足で通行人に「戦争をどう思うか」、「絆をどう思うか」などと尋ね、通報を受け警察に保護された。その後、応答せず、過去の事を被害的に一方的に語り、さらに連日不眠状態で入院となった。


V.入院からゆったり内観までの経過

 入院時「何かに動かされている」と話し。食事も全く摂取せず表情は硬かった。オリエンテーションを行っても、会話にならず理解したか否かも不明であった。薬物療法を開始するが落ち着かず徘徊を伴った。退院要求が強く離院行為も見られた。抗精神薬の増量によりふらつきと傾眠状態を生じ、精神面と身体面のケアプランを実施した。このような状態においても可能な範囲で母の記憶回想(ゆったり内観)をすすめたが、回想は断片的であった。常に内観的環境にいられるよう、病室の壁に内観的標語を貼った。一時、覚醒レベルが低下し、食事も摂取困難であったが、流動食を摂取できるまで回復した。食事介助中、負担にならぬ範囲で「食材は誰が栽培し、調理し、運んできたか」と回想療法を継続した。「ありがたいことだよね」と食事に対する感謝の言葉が聞かれた。しかし、不安感は残り落ち着きもなく、「落ち着かないので何かさせてください」と進んでボランティアを希望し参加した。始めは慣れない様子であったが、徐々に規則正しい生活の一部となった。幻覚・妄想の訴えは消失した。また、入院生活を振り返り「自己責任と危機管理の能力の低さに気が付きました」と記入し集団療法、内観日記療法、運動療法、作業療法などの治療プログラムに参加可能となった。


W.集中内観療法の経過

 医師に「自分が変われるような気がしますので希望します」と進んで集中内観療法を望んだ。内観は熱心に三問について調べ、幻覚妄想の言動はなく不安感も消失し、両親、周囲への感謝を述べるようになった。内観最終日、両親が来院し家族内観を実施した。Aは集中内観を通して「母は私にとって大きな存在だと改めて気づきました」、「父は日常物静かですが、冷静に判断し、いろいろなアドバイスをしてくれ頼りがいのある父です」と話した。また「今回入院して、家族にとても心配をかけました。御見舞いに来てもらい、外泊した時は温かく迎えてくれて、とても嬉しく思います。退院後は大学に通い、一生懸命生きたいと思っています」と述べた。父母からは「子供の頃から几帳面で真面目な性格で大学生になっても飲酒・タバコは吸うことがなく小遣いもアルバイトで稼いでいた」、「今回、登校する途中に警察に補導され家に通報が時はショックだった。今日集中内観を終了し、Aの決意を聞いて安心した」、「まさかこんなに変わるとは?」と話された。その後、外泊訓練を二回行い退院し、無事に復学をしている。


X.考察

 20代青年期のA氏は友人からプロスポーツ選手の目標を困難と言われ目標を喪失し、身体面・精神面のバランスが崩れ不安が生じたことが幻覚妄想状態の背景にあった。
 急性期状態では薬物療法を中心に幻覚妄想不安を抑え安心感を与えつつ、内観的な記憶回想(ゆったり内観)の援助を行った。これにより次第に職員との会話、疎通が成立し徐々に周囲に対する感謝の言葉が聞かれた。これは精神・身体共に重篤な状態にあったが日常生活援助に加えて記憶回想的な声かけを行い、否定的自己像を新たな視点から見直し、崩れていた内面の自己イメージが修正されたものと思われる。


Y.結論

 重症患者へまずゆったり内観、ついで内観日記でかかわり、症状の改善後に本人から集中内観を希望し、これに容易に導入され実践できた。病棟では集中内観導入に向けて日常すべてをゆるやかに内観導入的視点から関わりを行い効果を得ている。
 精神科看護を実践する上で、内観導入と集中内観療法の過程をシステム化することにより多くのコメディカルスタッフが協力しその効果を高めることに寄与する点が大きいと考える。


【参考文献】
1) 太田耕平:薬物依存と病棟内・集中内観療法 ―とくに適応と有効性を高める導入などの工夫― 日本神経精神薬理学雑誌 20:249-252,2000.
2) 鈴木美香・坂上孝幸:急性期精神分裂患者に内観的看護を試みて、第25日本精神科看護学会誌43:91〜93,2000.




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