9.いじめを背景にした摂食障害の一例


札幌太田病院
○下田 妙子・上野 ミユキ・宮本  舞・太田 耕平



【はじめに】
 いじめにより、不登校・摂食障害・希死念慮が表出した症例に対し、内観療法を中心とした入院治療を行った。退院後7ヶ月を経過した現在、症状が改善され、家族関係の見直しと自尊心の向上を促し、毎日の登校に至ったため、この症例を報告する。

【症例】 A子 高校生女子
 〈生活歴・病歴〉 両親・妹の4人家族。幼少時より「楽しいことがあるとそれが長く続くわけがない」と思い、自家中毒による嘔吐がみられた。小学校入学時には体格もよく、男子と取っ組み合いの喧嘩をするほど活発であった。小学校高学年時、体重50kg未満(身長140cm台)から約10sダイエットをし、それ以後、体重を過剰に意識するようになった。
 女子中学に入学後、成績の伸びた時期より友人の陰口が気になり、食欲減退・不眠症となる。その後、公立中学に転校するが、仲間はずれにあった。高校受験が迫ると過食し、家庭内暴力も出現した。3つのクリニックを受診するが改善せず、通院しなくなった。高校入学後、過食・嘔吐し、罪悪感と不安感に苛まれて興奮状態となった。部屋を荒らす、ぬいぐるみの首を包丁で切り裂く行為が表出し、希死念慮がみられる。また、下剤による下痢が続き、新たにSクリニックを受診した。希死念慮は消失したが、食欲減退は改善されず、身体的にも危険な状態が予測されたため、当院に転院となった。
〈治療経過〉 入院後、精神的診断を行い、集中内観を開始した。内観の深まりを促すために身体内観(足・手・目)から始めた。内観三問を具体的に回答するようになってきたため、3日目からテーマを母、父、姉、養育費の計算、周りにかけた迷惑、と進め、最後に再び母に対しての内観を行った。テーマ「母に対する自分」を調べ終わり、@自分は母親によく似ていること、A今の自分が嫌いであり、そのために似ている母親に対しても反発していたこと、B「本来の自分」を好きになることが幸せにつながることを理解した、などの気付きがあった。同様に父・姉に対しても感謝の気持ちが述べられた。集中内観終了後、両親と共に家族内観を行った。A子は、「家族や病気に甘えていた」「自己中心的であった」と詫び、一方、母親からも「娘に対して完璧を求めていたことに気付かされた」との反省があった。
 退院してから2ヵ月後、母親と電話で話した際、「近隣のクリニックにて通院治療を行いながら通学し、新しい友人ができ、食行動も改善されて自信を持てるようになってきた」とのことであった。しかし、その5ヵ月後に再度母親と連絡を取った際には、「2ヶ月前より再びいじめにあったことがきっかけで不登校、過食・嘔吐が再発した」とのことであった。一時は不眠が続いていたものの、「このままでは以前の繰り返しになる」と本人が思い、何かを変えようという気持ちから幼少より興味のあった芸能関係のオーディションを受けた。そこでの経験や人との出会いに刺激を受け、徐々に自分の可能性に視野を当てられるようになった。また、自分の世界をどんどん広げていきたい、と英会話にも進んで通い始めた。そして、連絡を取った1ヶ月前より「過食・嘔吐の自己抑制が可能になった」とのことであった。また、「信頼できる先生と3人の友人の存在が、現在、休まず登校することにつながっている」と話されていた。

【考察】
 本例では、いじめが引き金となり、不登校・摂食障害・希死念慮の問題を呈し、さらに母子分離不安が症状を促進させたと考えられる。内観時のレポートでは「母に甘えるのではなく、自分に自信を持つことが幸せにつながる」と書かれ、母子分離への兆しが見られた。退院後に新しく友人ができたことは母子分離への孤独感や不安感を乗り越える手助けになったと思われる。この母子関係の見直しが家族関係を改善させたと考えられる。また、いじめにより対人恐怖感が増幅した自分にとって、自信を持つことが重要であると気付いたのである。
 退院後数ヶ月してから再度、過食・嘔吐が再発していたが、現在では自己抑制が可能になった。その背景には、家族の支えと新たな友人関係、そして学校だけではない他の世界に自分を見出した自尊心の向上があると考えられる。今回、A子にとって芸能界オーディションを受けることが自分の価値を再認する方法として見つけた場であり、そこで出会った人たちに自分を承認されたことで改めて自信を持つことができた。そして自尊心が生まれ、摂食障害の再度抑制につながったと考えられる。食行動異常が自己抑制ではなく、自然消失するまでには今後まだ時間を要すると考えられるが、内観後に得られた共感的な家族関係(特に母子関係)が食行動異常を改善させたと考えられる。
 内観により、食行動のみに注目するのではなく、生活全般の安定の形成に目標をおくことで、現在は摂食を自己コントロールするまでに至った。今後も経過を学んでいきたいと考えている。


【参考文献】
1) 後藤雅博(編):摂食障害の家族心理教育,2000.
2) 森山美知子:家族看護モデルのアセスメントと援助の手引き,1995.
3) 太田耕平:交流分析と内観療法 交流分析研究,第24巻,第2号(通巻54号),125〜132,1999.
4) 大西祥子・友田龍多:摂食障害男子への集中内観療法―その有効性の機序―、第19回日本内観学会大会発表論文集,62〜63.




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