8.母への誤解が解消した摂食障害症例


札幌太田病院
○宮本 舞・根本 忠典・篠田 崇次・佐藤 剛介・上野ミユキ・太田 耕平



1. はじめに:

 母に対する恨みが強く、成人後過食嘔吐、自殺未遂、家庭内暴力を呈した30代女性に内観療法を行った。現在、自宅にて療養中の段階ではあるが、良好な経過を得られたので、若干の考察を加え報告する。


2. 症例紹介:

 Y子。30代女性。無職。診断名は抑うつ、摂食障害。幼少期は同居していた父方祖母に可愛がられて育った。小、中学時代は仲間外れなどのいじめを受けた。祖母の死後「自分の居場所がなくなった」、「妹の方が両親に大事にされている」、「私はひとりぼっちだ」と思い込むようになった。
 成人後、過食嘔吐を繰り返し、Aクリニックを受診した。翌年B病院に入院するが症状の改善は見られなかった。結婚したが、夫の暴力に悩み、Y子の飲酒の量も増え離婚した。2年後、別の男性と再婚するが、自分の思い通りにならないと夫や母に暴力を振るい2度目の離婚となった。離婚後も母への暴力は続き、道路に飛び出したり、多量服薬をするなど自殺未遂を繰り返し、C病院で措置入院となった。その後数件の病院を転々とした。悩んだ母がまず当院で内観治療を受け、Y子自身も受診し、入院となった。


3. 内観療法の導入と自覚・気付きへの経過:


 入院翌日に内観療法導入となったが、内観1〜3日目「頭がボーッとする。体がだるい」などの不調を訴えたため、自室内にて1日4〜5回の面接を行う「ゆったり内観」に変更した。母への恨みが強いため、楽しかったこと、嬉しかったことのみを想起する「幸福の発見」を導入テーマに用いたが、面接中は自発的な発言は少なく、表情もうつろであった。内観4日目、「母に対する認識を変えたい」と本人の希望があり、内観室での集中内観を再開した。テーマ「母に対する自分」では、恨みを抱きながらも、内観3問に対し、添い寝をしてもらったこと、わがままを言って困らせたことなどを具体的に思い出した。祖母が亡くなった時期の面接時、「自分はひとりぼっちだと自分の部屋に閉じこもり、祖母の死にしがみついていた。そんな自分を見ていた母の気持ちはどんなものであっただろうか」と母の立場になって考え、自己客観視が可能となった。内観5 日目、「母に対する自分」の後半では「病気を親のせいにして恨んでいた。『死にたい』と本心ではないことを言って困らせ、母に申し訳なかった。私の『死にたい』は『心配してほしい』の意味であったことに気付いた。もう母を恨むという行為に逃げ場を作るのはやめる」と自己反省、気付きを述べ、長年の恨みつらみは解消した。
 父に対しては、躾の厳しさに反感を持っていたが「社会に出ても恥ずかしくないように、私のために厳しくしたのだと思う」と認識を変えた。「妹に対する自分」では、「母は病気がちな妹に、可愛い服を着せて病院に連れて行くのをいつも見ていた。私も病気になったら母に優しくしてもらい、可愛い服も着せてもらえると思った。その結果、病気を自分で招いてしまった」と述べた。
 「祖母に対する自分」では、「成人後も祖母に可愛がられていた頃のままでいたかったのだと思う。過食嘔吐を始めたのも、大人になりたくなかったから」と自分の甘えに気付いた。「口に対する自分」では、「隠れて物を食べたり過食嘔吐をしたり、不平不満、わがままを言うことに使ってしまった」と述べ、「これからはきちんと食事を味わい、人を傷付けるような言葉ではなく、今まで言えなかった『ありがとう。ごめんなさい』を口に出したい」と述べた。
その後、養育費の計算、再度母に対する自分を調べ終了とした。「再度母に対する自分」では、「自分のストレスや満たされない感情を母にぶつけ、殴る、蹴るなどの暴力を振るった。母はそのために手が震えて字が書けなくなった時もあった。ひどいことをした」と素直に詫びた。
 集中内観終了後、家族療法として家族内観を行った。Y子は「私だけでなく、父も母もつらかった。今までごめんなさい。ありがとう」と父母に詫びた。父母は涙を流していた。この時、Y子は久しぶりに両親の温かさを実感していた。
 内観後、Y子は内観者の朝、昼、夜の食事の配膳を手伝い、職員の力になってくれた。また、退院前の3日内観では、集中内観の時に拒んだ「前夫に対する自分」を調べてみたいと希望され、今までの逃げる姿勢を改善しようと意欲の向上が見られた。入院期間2カ月で退院となった。


4. 考察:

 Y子は、自分を可愛がってくれた祖母の死をきっかけに、母に対し「妹のほうが可愛かったので私を祖母に任せていたんだ」など、歪んだ認識を持つようになり、母へのあてつけから過食嘔吐をはじめた。内観により、母の恩恵を素直に受け入れ、妹と同様に愛されていたことを認識した。母への恨みが解消すると、父に対しても感謝の気持ちを述べるようになった。母への認知の変化が内観効果を深める上で円滑剤となった。配膳のボランティアや作業療法を通し、社会的な役割への意欲を見出したのである。
 摂食障害の治療期間は長期を要すると考えられる。本例では、現在自宅療養中の段階であり、今回の入院では完治するまでには至らなかったが、Y子の今まで転々とした入院生活より充実した印象を受けた。内観療法は、症状改善への契機になったと思われ、今後の経過を見守りたい。


【参考文献】
1) 太田 耕平:薬物依存と病棟内・集中内観療法、日本神経精神薬理学雑誌、20:249-252、2000
2) 小比木 啓吾:心の臨床家のための 必携 精神医学ハンドブック、2000
3) 日本アノレキシア・ブリミア協会(NABA):いいかげんに生きよう 過食・拒食は私たちのメッセージだった、1996
4) 宮本 舞:いじめとてんかん(小発作)が背景に見つかった摂食障害症例、医療法人耕仁会 学術研究論文集 30〜31、2001




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