4.内観療法とアロマセラピー


札幌太田病院 薬局
○ 山下 真理 太田秀造



 当院ではカウンセリングの一環としてアロマ回想法というべき方法を行っている。
 これはインドのラマシャンティアロマセラピー研究所のキャラクトロロジィ(精油の特徴を擬人化したもの)を基盤にイギリスのアロマセラピストが開発したメソッドを応用し筆者がアロマ回想法と名付けたものである。

アロマ回想法とは:
 ブレンドされた9種類の精油(植物の各部位毎に分類)を、一つずつ眼を閉じてその香りを聴きながら思い浮かんだ事を自由に話していただく。
この理論は、多種成分を含んだ複雑な匂いの刺激が大脳辺縁系において嗅覚中枢と隣接する記憶、感情などを司る海馬、扁桃体との関連によって自己の意識から埋もれ去っていた思いをひきだすという考えにもとずいてる。
このようにアロマ回想法は内観療法と同様、思い出しを主体とする方法である。そこに、思い出す対象、時代には規制がなく、本人すら忘れていた事がふと蘇ったり、イメージが広がったりするのである。
内観療法は幼年期から年代、対象、内容を限定して思い出しを進めていくかなりハードな作業である。このアロマ回想法を、内観療法を行なう前に思い出しを行ないやすくするための導入として試行したいと考えた。実際、アロマ回想法では個人によってその反応は様々であるが、多くは子供時代の記憶を蘇らせることが多いのも内観療法への導入法としての利点といえる。
 こういった記憶やイメージを語ることで潜在意識を引き出し、無意識の世界に追いやった自己と対面することは治療の展開上重要である。
トラウマなどのネガティブな感情、記憶は一旦、心の奥深くに取り込まれるが、持続した疲労感、心理的刺激などによって励起されると感情の最表面に突然浮上してくる。この状況はいわゆる個人の制御を超えており、その結果として肉体的、精神的症状となって現れてしまうのである。 己の正直な感情を素直に認識することは、自己及び他者への理解と愛情を深める契機になる。
この方法によってうつ状態などの改善への手引き、原因の見極めなどに役立てることができる。


 今回は二人の患者に内観療法導入前に、アロマ回想法を「思い出しをスムースにするための方法である」と説明し試行した。
 A氏は匂いに対して敏感で、病院の匂いそのものにも不快感を持ち匂いの無い状態を望んでいたが、内観後はアロマ回想法でのカウンセリングによって内観に入りやすかったこと、内観後のカウンセリングで内観の価値の再確認ができ、導入としての効果はあったことを話して頂いた。
又、B氏はハーブの精油をブレンドしたものをかいだ時に、青い草むらで自分が寝転がっている、友達と遊ばない、本を読むのが大好きな少年であったこと、犬と遊ぶのが大好きであったなど、子供時代の犬との関わりを思い出し、それが内観中に再び回想されたときに親への感謝の気持ちの気付きとなったと話された。アロマ回想法で取り止めもなく出てきた少年時代の思い出が、内観療法でテーマを与えられたときにしっかりと枠組みができ、意味をもったのである。
 B氏は記憶の取り出しのきっかけはまず、言葉であるという。
 アロマでの思い出しは動きの無い水面にこの言葉の一滴が落ち、波紋が広がる。
 内観ではその一滴は流れている川に落ち、より複雑で現象的であると話された。
 興味深い見解である。
 今後も内観効果をあげるための導入法としても積極的に応用して行きたいと考えている。


本稿の一部は日本アロマセラピー学会(H12年日本総会、H13年日韓学術大会)、
北海道精神神経学会(H12年、H13年例会)、日本保険医療行動科学学会(H13年国際会議)、市民公開講座(H13年札幌薬剤師会主催)等において発表した。


【参考文献】
1) ヴァレリィ・アン・ワーウッド、フレグラント・マインド、264−268、フレフランスジャーナル1998
2) 山鳥重、神経心理学入門、283−284、医学書院、1985
3) 嶋明彦、樋口輝彦、PTSDの生物学的背景、精神治療学、13(8),947−953,1998
4) 鮫島浩二ら、医療従事者のためのアロマセラピーハンドブック、メディカ出版、1999




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