著しく減薬できた覚醒剤精神病の一例
−薬剤師自身の内観体験から減薬理由を了解した症例−


札幌太田病院   船越陽子 小林貴幸 岩瀬友哉 太田耕平

日本心身医学会北海道支部第26回例会抄録、2001
同会(平成13年2月25日)にて発表

1.はじめに:
 アルコールなどの依存症や不登校・家庭内暴力など、薬物療法では改善し難い症例に内観療法が有効性を示す報告が多数ある。自分の内観体験を通して、覚醒剤精神病の一例が内観療法後に減薬可能となった理由を了解し得たので紹介する。


2.自分の内観体験:
 五十嵐内観道場にて1週間の集中内観を体験した。初めに呼吸瞑想法により心を落ち着け、楽な姿勢で坐り、母に対する自分を@お世話になったことAして返したことB迷惑かけたこと、の三問について具体的な事実を年代順に区切って調べた。継いで父、夫、子供、友人、周りの人々に対する自分を調べ、自分自身を見つめることができた。して頂いたことの多さに比べ、して返したことがどんなに少ないことか、一生かかっても返しきれない深い愛情と恩恵をうけていたことに改めて驚き、周囲の人に守られているという安心感、信頼感を持つことが出来た。


3.症例紹介:
 20代前半の女性。幻覚妄想状態を呈し前医は精神分裂病と診断し、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、下剤など計13種類が処方された。その後、幻覚妄想等の異常体験は消失したが、同室者とのトラブルも多く、暴言等もみられ、両親は自宅への引き取りに不安を示し、内観療法の目的で当院に転院した。当院入院時、@不規則な生活、昼夜逆転状態A粗暴な性格、態度、乱暴な言葉遣いB意欲低下、目標欠如C不規則な食生活D家族との不和E退院後の生活基盤の欠如など、が問題点としてあげられた。さらに、生活史を改めて聴取すると10代後半でヤクザに覚醒剤を飲まされていたことが明らかになり覚醒剤精神病、残遺症候群、と診断された。内観終了後、情動の安定が見られ表情も一変した。服用薬も5種類まで減薬することが可能となった。入院後3ヶ月で退院し、退院後半年以上経った現在では3種類となり、明るく元気にデイケアに通っている。下に処方薬の推移を報告する。



【内観終了後に書いた反省レポート】
○ 母に対する自分を調べてわかったこと:「まず、人は信じていいんだなということがわかりました。でもそのサジ加減が難しいです。あと、ぬくもりが人として伝わり始めました。でも、少し人を疑うってのがあって、母もましては他人をも疑ってます。でも、子として人間として生まれてきたからには使命を持つべきだと思うのです。でも、その使命が見つからないからこうやって路頭に迷ってるのです。何が心を満たしてくれるのか?今、思いつきました。母です。母。母が喜ぶことをすればいいのです。それは私が健康で、幸せになることです。今、私は少しづつ幸せになってきてます。母の存在があり愛情を注がれてるのがわかってきました。こうやって生い立ちを探ってゆくと愛されてるんだと心がときめきます。うれしいです。何年ぶりだろう?こうやって母の愛情を受け入れることなんて出来たのが・・・・」
○ 家族へのお礼とお詫び:「今まで迷惑、心配かけて本当にごめんなさい。でも、この1週間で、いろんなものをgetしたから、過去の痛手はもう二度と繰り返したくないから、心配しないで安心してください。人間的に少し変わったかもしれない。これからは期待しなくていいから。自分の人生を大切にするってのを心がけて生活してこうと思います。それが私の目標なのかもしれない。とにかく人と人とのつながりはルールが必要なのがわかんなかったのでは?―というより「常識をもつこと」と自分に訴えてます。とにかく人に迷惑をかけないようにしようと思いました」


4.おわりに:
 彼女の内観日記には、「家族への感謝の気持ち」、「心配や迷惑をかけたことへの反省」、「人とのつきあいにはルールが必要」、「私は一人じゃない」、「もっと自分の人生を大切にし、目標をもって暮らしたい」といった前向きな心情が綿々と綴られていた。彼女は内観療法により1週間という短期間で、心の葛藤を解決し、心的転換がなされた。そして安心感、信頼感を得て、心に支えができ希望と自信、情動の安定につながったと思われる。この安心感、情動の安定が服用薬の減量を可能にしたと考えられた。演者自身自分の内観体験を通して初めてその理由が理解できたように思う。これからも周りの人々に感謝しながら心に余裕を持って仕事をしていきたいと願っている。



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