日本臨床衛星検査技師会誌 医学検査 20062月号 vol.55 No.2

 

当院におけるインフルエンザ施設内感染経験の報告

札幌太田病院 

杉村 陽子  堀岡 真由美 

 

わが国のインフルエンザは,毎年11月下旬から12月上旬頃に発生が始まる.翌年の13月頃に多くの人が罹患し,流行のピークとなり,45月にかけて減少していくというパターンである.しかし,流行の程度とピークの時期はその年によって異なる.65歳以上の高齢者や,呼吸器や心臓などに基礎疾患を有する人は,インフルエンザが重症化し,合併症により死に至ることもある.また,乳幼児や小児は,インフルエンザ脳症を起こす場合もある.

1997年には,香港でトリ型のインフルエンザA/H5N1が初めて人から分離された.世界では,A型インフルエンザウイルスH3N230,H1N120年連続している.このため,いつ新型インフルエンザウイルスが出現してもおかしくない状況である1)

当院は,「厚生労働省健康局結核感染症課・日本医師会感染症危機管理対策室:インフルエンザ施設内感染予防の手引き」2)に準じ,2002年からインフルエンザ流行期間に,施設内感染予防策を実施してきたが,20052月下旬に,初めて入院患者にインフルエンザが発生し,インフルエンザがまん延した.当院におけるインフルエンザ施設内感染発生から終息までの経過と,実施したまん延防止策を,ここに報告する.

 

T対象と方法

1,インフルエンザ施設内感発生からまん延防止策実施までの経過

当院では,院内サーベイとして38℃以上の発熱者(入院患者とデイケアまたはナイトケア通所者,職員)が発生した場合,また,他医療機関でインフルエンザと診断された場合,所定用紙を用いFAX等で検査室に報告するよう職員に協力要請し,38℃以上の発熱者を報告する所定用紙を設けている.(図1一方,検査室は定期的に札幌市や北海道の衛生研究所等のホームページから地域のインフルエンザ流行情報を収集して,地域のインフルエンザ流行情報と院内の38℃以上の発熱者を,院内local area network(LAN)で週に1回,院内全部署に配信している.

札幌市や北海道のインフルエンザ流行情報は,暦年で毎年1月から第1週として,定点からの週間の患者報告数が公開されている.

院内サーベイ38℃以上の発熱者報告数も札幌市や北海道のインフルエンザ流行情報に準じ,暦年で毎年1月から第1週として,週間の発熱者告数を記録し,院内に公開している.

2005年の院内サーベイ38℃以上の発熱者報告数は,患者(入院者・デイケアやナイトケアの通所者)と職員で,2月中旬から増加し,第9週にピークとなり,その後減少した.

院内サーベイ38℃以上の発熱者報告数の中で,当院または他院でインフルエンザと診断された患者と職員数の推移をみると,2月中旬から増加し,第9週にピークとなり,その後減少した.

当院は一部4階建てであり,1階と2階にそれぞれ2病棟,3階に1病棟,合計5病棟がある.病床の内わけは,1階に介護療養型として32床,これ以外はすべて精神科の病床である.病床総数は234床である.また,

精神科デイケアを3単位,精神科ナイトケアを2単位開設している.

224日に,介護病棟の入院者1名が,検査室で実施したインフルエンザ抗原迅速検査陽性で,インフルエンザと診断された.

インフルエンザ抗原迅速検査陽性でインフルエンザと診断された入院患者発生経過をまとめると,1階介護病棟入院者32名中8名,1階精神科病棟入院者54名中5名,2階の二つの病棟では3名,3階病棟では2名がインフルエンザと診断された.

また,職員は14名がインフルエンザと診断された.インフルエンザと診断された職員は,ほとんどすべての職種であった.

228に臨時の院内感染対策委員会を開催し,病院長から保健所に現状を電話報告,まん延防止策を,228から313日まで実施した.

 

2,実施したまん延防止策

1)施設内感染発生前の主な対策

(1)地域におけるインフルエンザ流行情報

   の把握

(2)院内における発生動向(患者と職員において38℃以上の発熱患者)の把握

(3)インフルエンザワクチン接種

希望する入院者・職員に12月中旬までに接種を行う(職員の43%が接種を行った).

2)施設内感染発生後のまん延防止対策

(1)多くの人を集める活動を一時停止した

インフルエンザと診断された入院患者が多い1階の二つの病棟での作業療法を中止した.また,病棟合同での作業療法,全職員対象の研修会も中止した.

(2)関係者以外の出入りを厳格にした

入院患者のデイケア試験通所と1階食堂で共同住居入所者の食事配布を中止した.また,インフルエンザがまん延している1階の二つの病棟から他病棟への患者移動(転出・転入・入院)を中止した.さらに,12階の病棟を扉で仕切った.

(3)インフルエンザがまん延している1階の二つのの病棟に入るすべての人は,マスクを着用

(4)インフルエンザ症状のある人が,病棟に入ることを禁止

(5)職員に感染予防の指導

                                  就業前後に手洗いとうがいの励行

                                  マスクの着用

                                  十分な栄養と休養

                                  インフルエンザに罹患した場合,症状が改善するまで就業しない

(6)インフルエンザの患者に可能な限り個室を提供し,隔離対応

(7)適切な医療を提供

                                  早期診断,抗インフルエンザ薬投与

                                  十分な全身管理

                                  必要に応じ,専門医療機関へ転院

(8)38℃以上の発熱者(患者と職員)が発生した場合,また,他医療機関でインフルエンザと診断された場合,所定用紙を用いFAX等で検査室に報告するよう協力を要請

 

U 結果

 228日に,インフルエンザ抗原迅速検査陽性の入院患者が4名になったことと,38℃以上の発熱者報告数の増加を理由に,病院長の要請で院内感染対策委員会を臨時開催した.インフルエンザまん延防止策を策定し,228日から313日まで実施した.

その後,患者の発生動向を監視した.37日から21日までの15日間,インフルエンザ抗原迅速検査陽性の入院患者は0であった.アウトブレイクの終息は,最後の症例の感染性が消失してから,その疾患の潜伏期間の2 倍が経過した時点を目安とすべき報告がある3).(インフルエンザの罹病期間7日・潜伏期間3日)このため,321日に,当院のインフルエンザ施設内感染は終息したと判断した.

 

V考察

インフルエンザと診断された患者は,入院者全員がインフルエンザ感染ハイリスク患者である1階の介護病棟に集中していた.次いで1階精神療養病棟が多かった.

札幌市の各区定点で,2005年第810週にはインフルエンザ患者報告数が連続し最多であった.また,札幌市保健所は第6週にインフルエンザ流行発生注意報を発令し,第8週にはインフルエンザ流行発生警報を発令した.札幌市の各区定点のインフルエンザ患者報告数は,第9週をピ−クに減少に転じ,第13週にはインフルエンザ流行発生警報が解除された.

インフルエンザ警報・注意報発生システムでは,注意報は流行の発生前であれば今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があることを,流行発生後であればその流行がまだ終わっていない可能性があることを示す4)

このため,インフルエンザ注意報発令中に院内の38℃以上の発熱者サーベイを強化し,インフルエンザ施設内感染が疑われたため,

病院全体でインフルエンザまん延防止策を実行したことが,有用であった.

 

Wまとめ

 20052月下旬に,インフルエンザ施設内感染が発生した.インフルエンザ施設内感染予防の手引き平成16年度版に準じてまん延防止策を実施し.施設内感染は終息した.まん延防止策は有効で適切であった.

 

 

文献

1)           岡部信彦:疾患別情報 インフルエンザ総説,国立感染症情報センター,2004

2)           厚生労働省健康局結核感染症課・日本医師会感染症危機管理対策室:インフルエンザ施設内感染予防の手引き平成16年度版(平成1610月),2004

3)           主任研究者:小林寛伊・NTT東日本関東病院名誉院長,平成15年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)による「国、自治体を含めた院内感染対策全体の制度設計に関する緊急特別研究」「医療施設における院内感染(病院感染)の防止について」,2005

4)           インフルエンザ流行レベルマップ 警報・注意報発生システム,国立感染症情報センター,2004