16.そう状態を呈した一例 〜自己を振り返る〜

札幌太田病院 地域福祉部
金谷 沙奈美


1,はじめに
 本例は、心的外傷から不登校、そう状態を呈した中学生が、内観療法によって、自己像の改善に努める契機となり、学校に登校した症例を報告いたします。

2,症例
 10代半ば、男性。1歳の時に両親が離婚し、以後母子家庭で育ちます。小学生の頃は、活発で友人も多く、成績上位で優等生でした。しかし、中学1年の時に、仲の良かった同級生からいじめを受けたことがきっかけとなり、対人関係をうまく築くことができず、以後学校を休むことが多くなりました。中学3年の受験期の頃からは、自分の思い通りにならないと、母や物に当たり、また落ち着きがなく、衝動的に家を飛び出し、一つのことに集中することができなくなりました。そのため他院を受診し、「躁状態」と診断され、その後、服薬を継続し、症状が落ち着いたため、通学を再開しました。しかし、学校へ行くと「死ね」という幻聴が出現し、1週間で学校に通えなくなり、一時落ち着いていた症状が再燃し、希死念慮も出現したため、前医の紹介により当院入院となりました。

3, 内観療法とその経過
 入院当初は、自分の要求が通らないと興奮し、物に当たるなど攻撃的でした。薬の処方により、症状も安定したため、入院4日目より集中内観を導入しました。始めは集中して内観に取り組むことができませんでした。しかし、徐々に内観が進むにつれ、「これまで、言葉が荒く、物を壊し多くの人に迷惑をかけてきた。」と自己の言動を反省しています。さらに、「自分はわがままだった。」、「自分の気持ちを誰も理解してくれていないと思っていたが、皆が自分のことを心配してくれている事に気付いた。」と母や先生、友人に感謝の気持ちを表しています。その後「早く学校へ行きたい」と通学の意志を語り、症状も安定したため短期間で退院となりました。退院後は、服薬によりそう状態や幻聴は消失し、中学校を無事卒業しました。退院後約1年間経た現在は、通院を継続し、高校に安定して通学しています。

4, 考察
本例は入院当初、そう状態を呈しており、内観に拒否的でした。しかし、内観による周囲への気付きから対人関係が好転し,学校に通学できるようになっています。内観後には表情が明るくなり、素直な気持ちを言葉にして表すことができるようになっていました。また、いじめの体験を過去のものとし、良い友人関係を築き、その中で、向上心や意欲の高まりがみられ、大学進学という将来の目標を持てるようになりました。今後,彼が内観での体験を生かし、次なる目標が果たせるよう期待し、症例報告とします。


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