13.家族と離れて 〜自信の回復への過程〜

札幌太田病院 地域福祉部
馬場 潤

 
 20年間に数回に及ぶ長期入院をある地方で繰り返していた精神分裂病の症例に、内観療法を行うことで自己の問題の整理と自覚を促した。そして、陰性感情の多い故郷と依存していた母から距離をおくことで自信を回復し退院となった症例を報告する。

1.症例
 30代、男性。飲酒し暴力を振るう父と、過保護な母に育てられる。小学生の頃よりいじめにあい、中学生から不登校となる心的外傷があった。20代の頃、幻覚、妄想を呈し、精神科に初回入院となる。以後、妄想や暴力行為が出現し、入退院を繰り返した。入院が長期に及ぶにつれ、いじめられた体験を思い出し、病院職員に対する被害妄想が出現、病棟内での粗暴、逸脱行動が著しく、そのため入院が長期化していた。精神科医の紹介にて、環境の変化と内観療法を目的とし他の町から当院へ転院となる。

2.治療目標

  
  @本人の長所を伸ばすことを手伝う
  A自己の尊厳に気付く
  B自分の手足、目、鼻、口の尊さに気付く
  C新しい土地で新しい仲間と生きることを目標とする
 
  以上を治療目標とし、十段階療法(内観療法を含む)を行った。

3.内観療法による気付きとその経過

 集中内観は入院初期に抵抗なく導入された。内容は浅かったが次第に、「自分は病気であるから、してもらって当たり前であると思っていたことが間違いであり、甘えていた自分がいた」と気付いた。また、両親に対し「今まで面会に来てくれて、ありがたいと思ったことがなかったが、今日初めてありがたいと思うことができた」と感謝し、自己の存在に気付き、安心感を得た。
 内観中も時折、イライラ感があり表情が硬く、妄想を語る場面もみられたが、内観を続けるうちに、本人は「妄想から両親を振り回し困らせていた自分」に気付いた。
 また、「相手の立場で考えられるようになった」と本人が語るように視野の拡大がみられ、妄想や幻聴も軽減し退院したいと前向きの考えが生まれた。そして、退院後は両親とは同居せず一人で自立した生活をするという目標を設定することができた。その後、一人暮らしへの不安が時折みられたが、その都度、内観的関わり−感謝すること、自信を持つこと−を重ねることで安心感を得て、10年ぶりに新しい地域社会へ退院となった。退院後、3ヶ月を経た現在は友人も増え穏やかな表情で通院している。

4.考察
 妄想に左右され粗暴、逸脱行為が著明であった症例が十段階療法(内観療法を含む)により症状が軽減され、退院可能となった。その後も時折、粗暴な行為はみられたが、反省を言葉で表現できるようになった。これは、他者に自己を開示することで問題を整理し、自分の行動を修正することが可能になったと思われる。
 「自分の病気が180度変わった」と語るように、内観療法を行うことで自己と病気を見つめ、心的外傷体験をも振り返ることができた。
 また、家族は転院する事への不安を訴えていたが、内観終了後、本人の笑顔を何年かぶりに見たことで、うれしさと安心感が生まれ、家族自身も周囲への感謝の気持ちを持てるようになった。さらに、本人の妄想や電話に一喜一憂することも少なくなり、適度な距離を保ち接することができるようなった。
 本例は、家族と離れたことで本人の自立心を芽生えさせ、好ましい親子関係の再修正と再構築につながったと思われる。


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