8.M君のいじめ体験と内観

札幌太田病院 内観療法課
斉藤 述史

 
・ M君の過去

 「先生でないですか、ここで何をしているのですか」「この病院で働いています。M君誰の見舞いに来たの?」「心の病気でここに入院しているのです」
私は久しぶりにあったM君の変わりように驚いた。実父に大変なついていたM君が6歳(妹が幼児)の時、母が離婚。間もなく再婚したが、義父にはなかなかなつかなかった。義父は小、中学校を通して子育てにあたって放任主義であり、M君はわがまま勝手に育ち、健全な成長はできなかった。
 このことは現在の家庭ではあまり珍しい事ではないが本人にとって深刻な結果をもたらす事となった。


・ 専門学校に入学して

 もともと厳しい集団生活に向かない性格なのに、家から離れたい一心で寄宿舎のある専門学校に入学した。適正にあった進路ではなく、規律の厳しい、強い体力の必要な学校生活になじめなく、すべての行動に消極的であり、先生、学友に大切にはされなかった。
 このような状況を彼は、いじめと受け取って不満の多い孤立した3年間を過ごした。思春期は自立に向けて自分探しをするものだが、M君にとっては暗く実りのない時期であった。

・ 就職してもうまくいかなかった

 心についた二つの傷(義父に対する陰性感情、専門学校での欲求不満)を、解決しないまま就職した。その結果、人間関係の未熟さや、わがままのために環境になじめないでストレスがたまり、イライラして、職場では上司や同僚に受け入れられず、どこの仕事も長続きしなかった。
  • アパートのみんなが僕の悪口を言っている。
  • M君を批判する声が聞こえてくる、盗聴器が仕掛けてある、見張られている。
  • バスに乗っていて女子学生が顔を見たと因縁をつけて殴り警察の取り調べをうけるなど−被害妄想の症状があらわれた。
 これらのことは、自分の悩みをどこにもっていけばよいのか分からなくなって、問題行動のサインを出すことによって訴えるしか出来なかったわけである。


・ 内観をして

 心が正常に発達していない、心に傷がついている場合、原因を診断し治療をする必要がある事は言うまでもありません。
 「先生、内観をしたら本当に新しい自分が見つかりますか。本当に心がわりは起こりますか」、
 M君は真剣になって質問した。
 人の性格は親から遺伝子を通して受け継いだものであるけれど、おおかたは生まれてから今日に至る生活体験や経験、環境に左右されていると言われている。自分の考えは簡単に変わらないけれどきっかけや環境が整えばかなり変わり得る。
 これらの問題を解決する一つの方法が心理療法としての内観法である。一週間の体験で日常生活から離れて父母、祖父母、兄弟姉妹、友人、先生など身近な人との関係を、産まれてから今日までの細部に亙っての自分の歴史を追体験することです。その結果今までとは違った自分を発見し、それは自分から立ち上がる方法がわかるのです。
  • 今までに与えてくれたお母さんの愛情が分かった。
  • 養育費の計算を通して義父がしてくれた恩に感謝の気持ちが沸いてきた。
  • 友人、先生にお世話になった事ばかりで、僕は何もしなかったし、進んでみんなと仲良くしたり、協力しようという気持ちも無かったし、実行しなかった。
  • 今後の生き方がはっきりした。

・ M君の今後

 「僕はこの病院に入院して大きな成長をしたと思います、多くの患者の方が困難と闘って生きようと努力している姿を見て、僕一人が苦しんでいるのではないという現実を見て、勇気が沸いてきた。内観をして耐え抜くこと、鍛えること、我慢すること、自信を持って率先して何でもすること、自分の意見をはっきり主張することの大切さが分かった。退院したらこのような考えで仕事をしたい。それから、父母、先生、友人、周りの人に感謝しこれからはお返しをしたい」と、内観後今後の決意で述べている。


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