6.いじめが背景の不適応
札幌太田病院 内観療法課
篠田 崇次

 
じめに:

 いじめの問題を考える時、@現在起こっているいじめをどのように解決するか、A今後起こりうるいじめをどのように予防するか、B過去にいじめを受け不適応に陥っている人に対してどのように援助するか、の大きく3つの側面があると考えられる。今回はBの観点から、症例を中心に報告をする。


症例:

 T氏 男性20代前半、無職、高卒。AL症、人格形成障害、精神遅滞(保健センターにて知能検査した結果、健常と障害との境界だったとの事)。父母・T氏・妹2人・祖母の6人家族。中学1年時、いじめを契機に不登校状態となり、進級後、全寮制の学校に転校し高校まで卒業。しかしそこでも集団からリンチまがいのいじめを受け、寮から脱走する事もあった。その後飲酒開始、次第に酒量増え、父の会社で働くも不定期で身が入らない。また飲酒酩酊による暴力行為(物に当るなど)が見られ、飲酒酩酊の上父とトラブルを起こし、警察通報され地元の病院に措置入院している。退院後も精神科受診しているが、両親が自宅から離れた医療機関で
の治療を希望し、当院受診し入院となる。


入院中の経過:

 入院後すぐ内観療法を導入。想起する内容は貧困で、同じ事を繰り返す傾向もあった。まとめのレポートには「今まではしてもらうことが当たり前だった」という感謝の芽生えをうかがわせる内容もあったが、それ以上深い気づきは得られぬまま終了となった。その後学習会、作業療法など入院プログラムに参加し、3ヶ月経過した時点で再度集中内観を施行した。その目的は、閉鎖病棟から解放病棟への転棟に向けて自己洞察を深め、自立する意識を持たせる事である。その結果、内観終了後の感想として「前回は言われるままに行っていたが、今回は細かい所から大きな所まで内観する事ができました」と語った。今後については「自分一人で生活できるようにがんばりたい、親に頼るのではなく自分の力で生きていけるようになりたい」と語り、目的である自己洞察の深化、自立心を高めることに成功したようである。またこれに関連し、家族内観では母親が「今まではT氏との結びつきが強すぎた。親子ではあっても違う人間なのだから、距離を置いた方が良い」と語っていたのに対し、T氏も「自分もそう思っていた」と話している。現在はホームヘルパーの資格を取りたい、勉強をやり直したいと意欲を持って生活している。


考察

@いじめられ体験の癒しに効果的な内観療法: T氏が書いたアンケートの中に飲酒の理由として「友人に嫌われてい
のではと不安だった、嫌な事から逃げていた」とある。さらに担当ケースワーカーに「高校時代に嫌な事あり、それから自分は変わってしまった」と語っており、これらより推測して本症例はいじめられ体験が引き金となり、対人不安が生じ、AL依存などの不適応を引き起こしたと考えられる。内観療法ではそのような対人不安を、被愛体験の再確認と自己洞察を深める事で解消する事ができる。またそれまでの自分の甘えにも気づく事ができ、自立心を高める上でも有効である。

A内観後のフォロー:T氏はいじめられ体験が不適応の背景にあったと考えられるが、さらにその背景には発達的問題が潜んでいるようである。つまり発達段階に沿った社会的スキルが身に付けられず、対人関係が上手くいかなかったように思われる。今後自立した生活を送る上でも、対人関係を円滑にする援助が必要であろう。



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