いじめられ体験の後遺症に幻覚・妄想状態を合併した
10代女性への内観療法と音楽療法の展開



札幌太田病院 音楽療法アシスタント・内観指導員   飯田 糧子
札幌太田病院 医師    太田 健介
第4回北海道いじめ・暴力・ひきこもり治療研究会抄録集:4,2002


 
【はじめに】
 近年、環境の変化に伴い、子どもの心の問題は深刻化し、当院では、いじめ、不登校、家庭内暴力等で入院治療を要する症例が増加している。いじめられ体験の後遺症に加え、幻覚、妄想状態を合併した入院症例に対し、内観療法、音楽療法などを行い、良好な経過を得たので報告する。

【症例紹介】
 A子 女性10代後半。父、母、妹、弟の5人家族。診断名は幻覚、妄想状態。小学5年時から中学時代を含め、同級生に悪口を言われる等のいじめにあい、父母へ「引っ越ししよう」、「死んでやる」との言動があった。高校入学後、友達は出来ず「悪口が聞こえる」と幻聴を訴え、数ヶ月で中退した。着替え中に動作が止まり、反復行動が見られ、B精神科にて統合失調症と診断され、二ヶ月間の入院となった。その後も服薬せず独語、独笑がみられ、母に「なぜ高校中退を止めてくれなかったの」と暴力を振るった。また、父を憧れの芸能人であると妄想し「愛してる」と抱きつく行動がみられ、不眠も続き、両親と来院し入院となった。  

【入院中の経過】

 入院時、服薬を拒否し職員にコップの水を掛け、大声を出し、泣き出す状態であった。入院4日目に離院行為があり、保護室使用を余儀なくされ、1日4回程面接を行うゆったり内観を始めた。テーマ『父に対する自分』の面接時、「父から愛されているのか、確かめたくて家を飛び出した」と述べ、「家族に会いたい」と布団をかぶり面接に消極的であった。一方、面接時「カラオケしたい」「父にギターを教えてもらった」「トライアングル、木琴を買ってもらった」と述べ、音楽との関わりの多さが伺えた。入院3週間後、症状が安定したため、一般病室に移り、作業療法、音楽療法に導入した。音楽療法では、集団の中での自己表現や自信回復を目的として、独唱、ソロ楽器演奏へ導いた。1回目の音楽療法では、楽器演奏の促しに応じたが伏目がちで、3回目には「眠い」と途中退席し、不安な様子が見られた。入院2ヶ月目、内観室で集中内観療法を行った。「苦しい時、家族が悩みを聞いてくれた」、「父に抱きつき申し訳なかった。恋人、友人をつくる」と被愛体験を認識し、自分の行動を反省し、目標を掲げた。集中内観終了後の音楽療法では、一番前の席に座り、自ら独唱やトーンチャイム演奏に参加し、笑顔も多く見られた。退院間近に開放病棟に移り、家族システムの回復のため家族内観療法を行った。A子は、母へ暴力をふるったこと、父に抱きついたことを詫び、両親はA子を励まし、コミュニケーションの少なさを反省し、入院3ヶ月目で退院となった。退院3ヶ月経過時点では、通院、服薬を継続し、幻覚、妄想は消失し、自ら友人をつくり、積極的にホームヘルパー資格取得の勉強をしている。

【考察】
 統合失調症発病以前の、いじめられ体験による人間不信と、病的状態に起因する両親との葛藤を治療者に転移し、当初は治療者に拒否的であった。薬物療法で幻覚、妄想状態を鎮静しつつ、面接時の礼節を継続し、尊重かつ受容的に関わることでA子に安心感が生まれたと思われる。内観療法で父母を介しての音楽の喜びを回想し、音楽療法では演奏後に拍手をもらい、職員のねぎらいの言葉を受け、共感、幸福感を味わい、自信回復へとつながったと思われる。集中内観療法では「いじめにあった時、家族が支えてくれた」と被愛体験を認識したことで心的外傷が癒され、「落ち込まない。友人を作る」と前向きな発想に至った。家族内観ではA子が両親に詫び、感謝の気持ちを述べることで、家族システムが回復したと思われる。また、集団音楽療法で役割を持ち、他者との情緒的交流によって、自己と周囲との協力、リーダーについて従う社会性を養ったと考えられる。本例は、ゆったり内観療法で人間不信が取り除かれ、そこから得た音楽的情報を、音楽療法で活用することで自信回復に寄与し、集中内観で反省、前向きな発想へと導かれた。音楽療法により、内観療法の効果が高められ、さらに内観療法が音楽療法を有効にする相乗効果が得られたように思われる。




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