父と弟による暴力から自信を喪失した40代女性の内観療法での気付き
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1.はじめに:
機能不全な家庭に育ち、パニック障害、うつ症状、希死念慮により来院した40代女性に内観療法を用いた入院治療を行った。良好な経過を得たので報告する。 2.症例: A子。40代女性。主婦。診断名は抑うつ、パニック障害。問題行動としてリストカット。父・母・弟の4人家族で育つ。父は短気で、怒ると物を壊し、A子の弟には鼓膜を破るほどの暴力もあり、家族全員が父の機嫌を常にうかがう状態であった。父の留守中は、弟から母とA子に家庭内暴力が向けられた。20代後半から、パニック発作が出現し、不安感から地下鉄に乗れず、職を失った。30代で結婚し、結婚後は夫、長女の3人家族。隣に住む姑からの子育てへの干渉に対し何も言えず、夫に相談するも協力が得られなかった。長女が病弱なのはA子のせいだと姑に言われたことを契機に、情緒が不安定となり、希死念慮により当院へ任意入院となった。内観療法と薬物治療を受け、症状やや改善し1ヶ月程で退院となった。外来での服薬を継続したが、姑との関係に変化がなく、退院1ヶ月半後「子育てへの自信がなく、生きていてもしかたがない」とリストカットを行い、夜間救急外来にて当院に再入院となった。 3.内観療法の経過: 「前回の内観は自分が大嫌いで辛かった。今回最後までやり遂げられる自信がないけれど、前に進みたい」と述べ、入院2日目から内観室での集中内観導入となった。「辛かったことも話したい」との希望あり、内観三問の後に父のスパルタ教育、弟の家庭内暴力、母の家出について拝聴した。シンナー、喫煙、無断外泊は家族に反抗するためにしていたことに気付き、「本当は自分が遊びたかっただけだった」と反省を述べた。また、テーマ「周囲にかけた迷惑」で、「なぜこんなに私をいじめるの?もうやめたい」と激しい感情がともなう抵抗があったが、カウンセリング技法を用いて受容的に関わり「これだけ迷惑をかけてきた方々が、それでも私を心配し、生かしてくださっている。心のしこりが解けた。」と述べ、予定通り一週間で終了した。終了後、「自分は皆に生かされ、今まで生きてきた。自傷行為は自分だけではなく、他者を傷つけていたことに気付いた。自分は生きていて良いのだと思えた。もう自傷行為はしない。」と語り、その後各種作業療法、十段階心理療法(太田耕平著)の学習会などに参加して、入院21日目で退院となった。 4.考察: 父や弟の暴力が心的外傷となり、自己肯定感を低下させ、対人関係に自信がなかったA子に対し、内観面接時にカウンセリング技法を用いた。一度目の内観療法により、恩愛体験を正しく認識し、他者認知の変容が得られ、2度目の内観療法では、より深い恩愛体験から、自己認知の変容が得られた。その結果、ありのままの自分を受け入れることが可能となった。退院4ヶ月経過し、予後は自傷行為なく、外来通院を継続している。 5.今後の課題: A子は「周囲はなかなか変わらないので、自分が変わるか、我慢するしかないと分かりました」と自我が強化された様子だが、姑との関係改善も困難で、夫の理解も不十分であり、不安感は継続している。今後、自傷行為を目撃している子どもへの継続的ケアや、夫の父性性強化、姑との関係改善のための家族療法的な関わりが重要であると思われる。 |