* 札医通信増刊NO.231 第30回札幌市医師会医学会誌P239P240に掲載

 

内観療法と薬物療法の併用が著効した統合失調症の一例

 

札幌太田病院

久保 隆一、太田 耕平

 

はじめに

夫の退職後に家庭内で妄想を強めた50代の主婦に対して、入院後に病棟内・内観療法と薬物療法を行った結果、内観療法が薬物忠実度を促進し、薬物療法の効果が内観療法の有効性を高め、相乗的な効果を示した症例を報告する。

 

症例

患者は子供が成人して家を離れ、夫と二人暮しの五十代の専業主婦。主症状は幻聴、妄想に基づく迷惑行為。年齢にふさわしくない自己中心、他罰的、自閉的、失踪の反復など人格障害を疑わせた。既往歴に特記すべきことはなく、入院時検査はすべて正常範囲であった。

 

現症歴

夫が退職した平成X年4月頃より、竜神を装う男性様の口調、声などの憑依妄想、神の力を得るための修行などの宗教妄想を呈し、目的不明の夜間運転など奇異な危険行為があるため、夫と兄と姉の三人で手足を縛り某精神病院に運び医療保護入院となった。上記病院に約半年間の入院と約一年間の通院治療中、一貫して病識がなく、その後服薬と通院を中断した。平成X+2年11月頃から、『病気ではないのに人格を無視した運び方で入院させられた。』と、突然に拉致される形となった前医への入院について、家族を恨む発言が出てきた。夫とは別の部屋で生活し、誰かと会話しているかのような独語、幻聴があった。破壊的、否定的な発言や夫や子供の物を無断で隠す、捨てるなどの迷惑行為が現れ始めた。平成X+3年7月頃、夫の留守中に大量の夫の服をはさみで切り刻む、屋外へ捨てるなどの行為があり、帰宅した夫が当院受診を決意するとトイレに2時間立てこもったため、警官3名同伴の初診となり、医療保護入院となった。

 

治療経過

<十段階心理療法>

第 1段階 準備段階

第 2段階 入院生活に慣れ、心から落ち着く

第 3段階 なぜ入院する必要があったか

第 4段階 自分の病気と正しい治療のしかたを学ぶ

第 5段階 薬の必要性と副作用の対策を学ぶ

第 6段階 今までの自分はどんな人間であったか

第 7段階 これからどうすべきか

第 8段階 自信の回復

第 9段階 生活目標・人生目標の設定

第10段階 幸福な人生へ向かって歩みだそう

 

当院の原則的治療法である十段階心理療法に基づいた治療経過をまとめると以下のようになった。18日間を要した第1〜3段階では、完全な病識欠如、硬く冷たい表情、姿勢の継続、言葉による威嚇や提出用レポート用紙の破り捨てなどの問題行動があった。服薬拒否のため、デカン酸フルフェナジンを筋肉内注射し、第1回目内観療法を7日間行った。

第1回目内観療法を受ける理由は、

『夫婦喧嘩で病院に運ばれたため』。

母への気付きは、

『今の子供達は我慢強い私の子供時代を見習わなければならない』。

父への気付きは、

『深い愛情を与えてくれる存在感のある人だった』。夫への気付きは、

『無理強いして自由を奪ったが、前回入院の件以外は許したい』。

子供への気付きは、

『真っ直ぐに育ったことに感謝をしている』。

幸福の発見では、

『多くの人たちに囲まれてきた幸せな人生に気付かずに恥ずかしい』。

今後の決意として、

『様々なことに気付いたこの度の治療を忘れないように生きたい』などと表現された。

44日間を要した第4〜6段階では、病識が出現し、表情が明るく変化したが、病室に閉じこもり気味であった。持効薬を計3回投与し、第2回目内観療法を7日間行った。

第2回目内観療法を受ける理由は、

『過去にお世話になった人へ感謝するいい機会』

母への気付きは、

『愛情が強く辛抱強く、感謝でいっぱい』。

父への気付きは、

『強さと優しさをかねた最高の人』。

夫への気付きは、

『冷たい心と浅はかな行動が大変な恐怖心を伴う苦痛を与えたことに気付き愕然とした。申し訳ない気持ちでいっぱい』。

子供への気付きは、

『たくましく育ってくれたのに、巻き込んで騒ぎを起こし申し訳ない』。

幸福の発見、

『幸せがたくさんあることに気付かない浅はかな自分を発見した』。

これからの決意として、

『物事にとらわれない広い心で生きてゆく必要性に気付いた』などと表現された。

43日間を要した第7〜9段階では、深い反省、周りへの感謝、将来の目標を獲得し、目が明るく暖かみが出て、張りのある声へと変化、作業療法などに積極的に参加し問題行動が消失した。抗精神薬の服薬同意を獲得し、精神療法として内観日記を継続した。

退院後は月に2回の夫同伴の定期受診、リスぺリドン服薬、夫の家族会の間にデイケア通所、水泳教室に参加、日常内観日記の継続など第10段階である退院後の5原則を続けて約140日間経過している。

 

考察

本人の同意が困難でも注射により幻覚、妄想が減少し、医療に対する信頼を獲得し、精神療法を受けるための入院生活の安定につながったことが薬物療法の利点として考えられた。周囲の人に対する認知の歪みを多岐にわたって是正し得たことが内観を勧め指導した職員、組織、施設と共に家族に対する信頼を再度獲得し、入院そして外来通院生活の安定につながり、内観療法の利点として考えられた。薬物療法により精神安定を得たため精神療法の導入が可能となり、精神療法による病識獲得の結果、自発的な抗精神薬の経口投与が可能となる相乗効果があったことが両療法併用の利点として考えられた。導入の時期と方法を適切に選択し、病棟内内観療法と薬物療法を統合させることが早期に治療効果を発現させ、症状改善をより円滑にするために有効であると考えられた。

 

まとめ

同意に基づく治療がスムーズに開始できない病識欠如患者に対し、薬物療法と内観的精神療法を併用した。その導入時期と方法を症例に適切に選択したことにより、両療法への協力を促進し、治療効果発現までの時間を短縮させた例を報告した。

 

文献

太田耕平:「十段階心理療法」第10版2002年