一精神科病院に於ける未成年入院症例の調査

平成十六年度の66症例について

 

札幌太田病院

○久保 隆一、太田 健介、吉川 憲人、太田 秀造

 

 

はじめに

 今日の社会変化に併行して当院でも若年受診者・入院者が増加している。このような背景を受け、平成十六年度一年間の当院入院症例中、未成年66例について、年齢、性別、来院の契機、家庭環境、同胞、通院・通勤状況(不登校の有無)、転校歴、身体的障害、精神的障害、社会的障害、既往歴、入院時期などの種々の項目に関し調査した。これに加えて、心理テストの結果、診断名、各種の処遇、院内での学習、病棟内内観療法などの治療プログラムの効果、入院中の登校までの所要期間、入院期間などの項目において比較検討を行った。(本文における百分率は小数点以下を四捨五入した。)

 

性別と年齢分布

 男子18例、女子38例の66症例中、年齢(括弧内は中退者、職に就いた者を含む相当学年)別の症例数を図表1に示した。6才以下(就学前)が2例、11才以下(小学生)が3例、12才(中学1年)が1例、13才(中学1年)が6例、14才(中学3年)が11例、15才(高校1年)が7例、16才(高校1年)が14例、17才(高校3年)が9例、18才(大学1年)が6例、19才(大学1年)が7例となり、13歳以降に急に増え始め、中学生以降で61名と全体の91%を占めた。

 

来院の契機

 親戚、知人などの紹介によるものが17例(26%)、電話帳などの広告によるものが12例(18%)、紹介状など医師の紹介によるものが11例(17%)、インターネット上のホームページによるものが7例(11%)、その他7例(11%)、不明12例(18%)であった。知人等、人を介して得た当院の治療内容を来院前に詳細に確認する手段として、今後インターネット上のホームページの役割がより高まることが予想される。

 

家庭環境

 実父または実母の不在家庭は、両親の離婚が11例、単身赴任など父の長期不在が9例、父の死亡が1例、母の死亡が1例、夫婦仲の問題が11例で計45例(68%)と全体の3分の2以上を占めており、親の養育態度は未成年の問題に影響を与える大きな要因としてしっかり認識されるべきであると考えられた。

 

同胞

非常に複雑な同胞関係の症例がある中、比較的簡単な症例(同胞数0名または1名)は男子が20例、女子が32例の計52例(79%)であった。男女別に他の同胞との順位関係について調べてみたところ以下の結果であった。(それぞれの母数で率を求め頻度を求めた。)男子では、頻度の高い順に、上に同胞がいる例11例(39%)、下に同胞がいる例7例(25%)、同胞がいない例2例(7%)の順となったのに対し、女子では、同じく高い順に、同胞がいない例12例(32%)、下に同胞がいる例11例(29%)、上に同胞がいる例9例(24%)と、男子と女子で逆の順になることが認められた。このことより、この時期の男子においては放任の傾向が、女子においては過度の期待や干渉の傾向が、ストレスを発生させる方向に働く可能性が考えられた。

 

通学・通勤状況と転校歴

 66症例中、学校、職場に通うことのできた例は14例(21%)、一方、学校、職場に通うことのできなかった例は52例(79%)であり、その内訳は不登校41例、休学中1例、停学中1例、退学例4例、休職中5例であった。学校、職場に通うことのできた例、できなかった例のそれぞれに対し母数で率を求めて転校歴ありの出現頻度を調べると、通うことのできた14例中ではわずか1例(7%)であったのに対し、通うことのできなかった52例中では23例(44%)であった。転校は不登校等に拍車をかける無視できない要因と考えられ、転校の既往のある者は更にきめ細かい対応が必要になると考えられる。

 

身体的障害と精神的障害

 男女別にそれぞれの母数で率を求め、身体症状と精神症状の訴えやすさを調べ、図表2に示した。頭痛・腹痛などを訴えた例は男子10例(36%)に対して女子20例(53%)、不眠や昼夜逆転などの睡眠障害は男子10例(36%)に対して女子10例(53%)、リストカットなどの自傷行為は男子3例(11%)に対して女子18例(47%)、過食拒食などの摂食障害は男子2例(7%)に対して女子9例(24%)、アルコール依存は男子4例(14%)に対して女子8例(21%)、薬物依存は男子1例(4%)に対して女子10例(26%)であった。これらの数値から以下の特徴を認めた。身体症状と精神症状のすべてにおいて、男子に比べて女子がより症状を訴えやすい。そしてその中でも特に精神症状において女子は男子に比べて症状出現率が高いという特徴を認めた。(自傷行為は男子の11%に対して女子は47%、摂食障害は男子の7%に対して女子は24%、アルコール依存は男子の14%に対して女子は21%、薬物依存は男子の4%に対して女子は26%)このことより、女子ではその潜在化した心理的混乱状態が男子に比べこれらのような身体症状、そして更に精神症状として現れやすいと予想され、性差を意識して問題を理解し解決する必要性が示唆された。

 

社会的障害

 一方、非社会的行為の既往を図表3に示した。男女それぞれの母数で率を求めると、頻度の多い順に、対物破損行為があった例は男子14例(50%)に対し女子16例(42%)、他者への暴言は男子11例(39%)に対し女子13例(34%)、他者への暴力は男子9例(32%)に対し女子11例(29%)、警察官介入は男子4例(14%)に対し女子4例(11%)、万引きは男子3例(11%)に対し女子4例(11%)、その他の非行は男子2例(7%)に対し女子4例(11%)であった。女子が身体症状と精神症状として訴えやすい分、男子ではむしろ社会的障害としての症状を訴えやすい可能性があると予想していたが、これらの数値から以上の社会的障害としての症状においては男女差がほぼないことが認められた。医療機関での対応が困難な男子の症例が当院への任意、医療保護入院の手続きが取り辛かった可能性も考えられるが、今回の調査では判明しかねるため、可能性の言及にとどめ今後の調査を待ちたい。

 

既往歴

 内科、外科等の身体合併症の既往のある例は15例(23%)であり未成年全般における頻度に比べて高いことが予想された。当院初診までに精神科病院・医院の受診の既往のある例は35例(53%)、向精神薬服薬歴のある例は31例(47%)であった。当院初診の約半数の例がそれまでの治療、投薬等によって完治していなかったことはこれらの疾患に対する対応の難しさを窺わせる経過と考えられた。

 

入院時期

 入院時期は春(3.4.5月)に13例(35%)、夏(6.7.8月)に18例(17%)、秋(9.10.11月)に67例(11%)、冬(12.1.2月)に18例(17%)と春に多く、秋に少ない傾向が見られた。治療開始時期のきっかけとして新学期が関係している可能性が考えられた。

 

心理検査

 YG(谷田部—ギルフォード)性格検査において、男女それぞれの最多のタイプを母数で率を求めて調べると、男子ではE型(エキセントリック:変人型)が11例(39%)で最多であり、女子ではB型(ブラックリスト:非行型)が13例(34%)で最多であった。また、各例のエゴグラムの項目のうち最高得点を示す項目に着目すると、男子ではFC(フリーチャイルド:自由奔放型)が最高得点の例が8例(29%)と最多である特徴を認めたが、女子でははっきりとした差を認めなかった。

 

診断名

 診断名を例数上位の順に図表4に示した。家庭限局性行為障害(F91.0)が21例(32%)、非社会性行為障害(F91.3)が13例(20%)、分離不安障害(F93.0)が8例(12%)、抑うつ性行為障害(F92.0)が6例(9%)、中等度うつ病エピソード(F32.1)が4例(6%)、統合失調症(F20.0)が3例(5%)、その他が11例(17%)であり、上位6病名で全体の83%を占めた。

 

処遇

 入院形態において医療保護入院を要した例は16例(24%)、保護室隔離を要した例は12例(18%)、身体抑制を要した例は3例(5%)であった。進学希望のある40例中、大学生による指導を受けることのできる院内学級には37例(93%)と高い割合で参加することができた。また、遠隔地、春夏冬休み等を除く登校可能な32例中、入院中の登校に至った例は28例(88%)とこれも高率であった。

 

治療効果

 病棟内内観療法などの治療プログラムの効果として、入院して気付いた代表的な訴えを図表5に示した。例数の多い順から、反省と感謝、情緒の安定、問題行動消失、意欲の向上、対人関係改善、その他があげられた。男女別の特徴として、反省と感謝がそれぞれに高率に認められたものの、それ以外に男子では問題行動消失が9例(32%)と多く認められ、女子では情緒の安定が11例(31%)と多く認められた。治癒に高く関わる要因の男女差として、女子での精神的・身体的障害の消失、男子での社会的障害の消失という相違の可能性が、このことからも示唆された。

 

入院から登校まで所要日数

 登校可能な32例中の入院から登校まで所要日数は、男子の平均が7.1日、女子の平均が6.6日、全体の平均が6.9日間であり、ほとんどの症例で院内の滞在を余儀なくされる内観療法終了とともに通学可能となった。入院形態による差は認めず、内観療法有効例にまた、院内学習参加例に早く登校する傾向が認められた。

 

平均入院期間

 平均入院期間(男子の長期入院者1例を除く65例)は男子が32.7日、女子が16.6日、全例で22.9日間であった。約2倍の男女の入院期間の差も入院のきっかけとなった症状の男女差や入院後の気付きの男女差と関連あると考えられた。

 

まとめ

 平成十六年度一年間の未成年入院症例66例の種々の項目において比較検討を行った。年齢は多くが中学生以上であり、親の不在家庭、不登校歴のある例が多く、同胞、転校歴に一定の傾向を認めた。精神的・身体的・社会的症状のそれぞれに男女差があることがわかった。入院時期に季節差が見られ、心理検査と診断名に一定の傾向が認められた.各種の処遇、院内での学習、入院中の登校などが治療効果、入院から登校までの所要期間、入院期間などを早める可能性が示唆された。今日の社会変化に併行して、当院でも若年受診者・入院者が増加している。今後も、更なる項目に対して時期的・地域的・医療機関別の検討を行なうなど、効果ある治療と支援のため、多方面にわたる工夫、協力関係の形成に努めたい。