リストカット・ひきこもり等の30代女性の治療経験

 

医療法人耕仁会札幌太田病院 臨床心理課

〇石川正人 根本忠典 篠田崇次 奥村弓恵 宮前弥子 小竹裕美 太田健介 太田耕平

 

1.はじめに

感情障害、不安障害などの不適応には、深刻な心的外傷体験を包含する場合が少なくない。治療を円滑に展開するには、その対応が重要となる。

外傷体験の受容、他者への信頼感の回復、治療の動機付けなどが治療過程で自己洞察を促進させることに有効である。今回、外来カウンセリング、病棟内・内観療法などにより、家族とのコミュニケーションが回復するなど短期間の入院で良好な経過を得た症例を報告する。

 

2.症例紹介

 30代女性A子。中等症うつ病エピソード、パニック障害。小学生の頃にいじめを体験した後、学校や家庭で気を使う生活が続いていた。短大卒業後のX-7年に結婚し家業の農家を継いだ頃からひきこもり状態となり、抑うつ気分、イライラ感、リストカットなどが出現した。X-1年4月頃より、過呼吸、感情失禁、不眠、手の震え、動悸など症状が悪化した為、B病院受診。その後、B病院から当院を紹介され外来受診となった。

 

3.治療経過@ 外来カウンセリング

 初回面接では“人と楽しく話したい”“気を使わないでいたい”“夫との関係を修復したい”“農家をやめたい”などの訴えがあった。その後、面接を重ね、「肝心な時に私を助けてくれた人がいなかった」「自分が辛いのに母の愚痴ばかり聞かされていた」「毎日泣き疲れて寝ていた」などA子の心的現実に受容的に関わった。“いじめによる傷つき”“孤独感”“被愛体験の希薄さ”“他者への不信感”などの問題が否定的自己像の形成、身体症状や問題行動化の前景にあることが窺われた。

 

4.治療経過A 病棟内・内観療法

 “否定的自動思考の修正”、“客観的事実をA子自らが確認すること”などを目的として、病棟内・内観療法へ導入。集中内観では「父は私がいじめられていることを知らなかった」「母の立場を考えると頑張ってくれていたと思う」「私は誰からも愛されていないと思っていたけどそうではなかった」「リストカットをすれば心配して貰えると思っていた」などの誤った認知が修正され、家族に対する陰性感情も変容し、入院7日間で退院となった。

 

5.治療経過B 病棟内・内観療法後のFollow Up

 病棟内・内観療法後のカウンセリングでは、「現実から逃げ出したかっただけ。仕事のことや夫とのことは別問題だった。」「自分からは何もしていないけど、姉や友達が働きかけてくれていたことを感謝しなければいけない。」など現実に即した発言が多く見られるようになり、身体症状は軽減し、問題行動化も見られていない。

 

6.考察

 外来カウンセリングでは@外傷体験の受容的関与、A治療関係の構築、B病棟内・内観療法導入への動機付けに重点をおいた。その結果、明確な目的意識を維持し、病棟内・内観療法へ導入されたことが、短期入院で治療効果を促し、症状改善に大きく寄与したものと考えた。また、退院後の外来での継続した心理臨床的援助が治療効果を維持しているものと思われる。