四半的弓道の新たな展開と

()弓道、障がい者弓道の普及を

 

    太田耕平  (札幌太田病院)    

      

 四半的の歴史は古い。永禄11年(1568年)、まさに戦国時代のさなか、当時島津藩の統治下にあった飫肥城を攻略すべく、浮舟城主伊東義祐と、島津藩が「小越の合戦」で激突した。この戦に、農民は自家製の竹の弓矢を持って参戦し、気勢を挙げて島津藩を圧倒し勝戦に大いに寄与した。その後、島津藩に破れるも、豊臣秀吉に仕えた伊東祐兵が飫肥城を賜り、「小越し合戦」において武功のあった老将山田が国境防衛策として弓術を奨励し、農民のための射場を設け、気勢を挙げさせ、防備に役立たせたという。

 四半的とは伊東飫肥が農民武道つまり娯楽として「的射の定め」により、弓矢の所持を許可した。その定めは、「 射程;4間半、弓の長さ;4尺5寸、的の直径;4寸5分 」。全てが「4・半」であるため「4半的」といわれた。この地方の娯楽として広く老若男女に愛され、近年は弓技として心身の練磨に有効であるスポーツとして評価されている。

 平成17年8月にNHK-TVが日南地方の4半的を紹介。『これだ!』と膝を叩いた。何故かというと、学生時代に少々弓の醍醐味を知り、日ごろから孫たちに弓の知恵を教えたいと願っていた。しかし、和弓は長く、弦も硬く、引分けに力を要し、巻き藁も大きく重く、急道場も数少ないため、小学校高学年まで待たねばと思っていた。しかし、この四半的、四半弓であれば孫世代にも可能であろうと想像した。

 宮崎市からJR日南線を鈍行で1時間、飫肥(おび)駅に降り立った。格式のある城下町を歩き飫肥城内にある四半的射場を訪ね、心地よい夏の朝日を浴びながら親切な指導を受けつつ20射ほど体験した。型式・儀礼にこだわらない気安さと、試射記念として木製の「名誉初段認定証」が嬉かった。

 日本弓道との違いは:弓道諸流派を統合した日本弓道連盟方式より古く実践的である。

@弓の長さが4・5尺(165cm)で扱いやすく、弓の強さも3.7kgからあり弱く子供や  

 高齢者でも操作可能である。

A矢の長さは152cmと和弓の矢よりかなり長いことが身近で指導するには安全で扱いや  

 すい。  

B射程距離も8.1mと短く安全を確認すれば家庭・庭先でも練習可能であり、射程距離も 

 変更できる。

C坐射・椅子射・立射に応じて、さらに子供の身長、障がい者の特性に応じて巻き藁(的) 

 の高さも任意に変更が可能である。 

D引分けた右手を顎の下に收さめ、引いた弦が右小鼻に付けるので引く距離が安定性する。E的と矢と弦が右眼前に一直線上に並び照準が容易かつ確実なことが日本弓道より優れて    

 いる。

F引き分けが顎下までの短距離であり、弦で耳・頬・胸・前腕内側などを打つ恐れがない。G離れは、右手指だけの「開き・返し」である。前腕を後方に開かないため単純で安定する。

H右手に弓懸けを着けないため、弦と矢の感触が明瞭に伝わり、離れも単純な動きで済む。

I押し手はひねりを加えず真っ直ぐに押し、弓返りさせないことが矢の方向性を安定させ

 る。

J小児には短い日本弓道の矢が適し、近距離の巻き藁射から始め、背後から両手の動きの

 指導が便利である。

K礼者以外では服装・履物・射場が自由であり、庶民的な気楽さ、融和的雰囲気が嬉しい。

 これらの諸条件は、子供でも主婦でも、高齢者、身障者(下半身)、にも気楽に弓矢を手にし、その醍醐味を経験するには優れている。

 小(児)弓道:和弓は13〜15kgの強さがある。しかし小児にはその身長・体力に応じた弓と矢、巻き藁の高さ、さらに射程距離も安全確保して随意に変えるべきである。

大人の介助・指導下では小児でも四半的弓(3.7kgから4.4kgの幅がある)の操作が可能であり、意外なほどの好奇心を興してくれるので、こちらも嬉しくなってしまう。

 我が国の伝統的武道がすたれつつある今日、子供達が将来において、正式の四半的弓、日本弓道、アーチュリーなどに関心を向け、これらの愛好家や競技人口を増や目的には適していると思った。

 昨年10月からJR琴似駅近くの当院会議室において、不登校とその合併症で当院に入院中の小・中学・高校生を対象に看護師同伴で、四半的弓の巻き藁射の指導を始めた。この場所では、本年4月、宮崎県四半的弓道連盟の飯島邦彦事務局長を個人的にお招きし、四半的弓道のご指導をいただいた。2人で室内での巻き藁7m射、さらに廊下を用いた14m射を比較しつつ実射し手見た。昔懐かしい感触を味わいつつ、安全管理を厳密に考慮しながら多様な場所での小弓道の実践の可能性を工夫してみた。

 平成18年2月から、十分の安全管理のもと病院内の2ヶ所で小弓道の試行を始めた。

不登校の小・中・高校生数名に巻き藁射を上記3ヶ所にて指導し、四半的弓道(教本)などを教材に歴史・作法などを学習した。

 あわせて、弓・矢のつく漢字(引、弔、弘、弛、彌、弗、沸、佛、弱、強、張、弾など)、(知、短、失、医、旧漢字の医、矯、)、などの字源の意味を伝えた。古代人にとって弓矢の存在・製作技術と弓術が、衣食住や安全・知恵といかに緊密・重要であったか思い知らされるのである。本年3月末に、院内保育園の卒園児(6歳)数名に卒園・入学祝いとして小弓の巻き藁射を教え、さらに、弓矢の付く漢字の字源を一つずつ教えてみた。その意味の深さがわかると喜び、一層射に関心を持ったようである。まずは安全教育・礼節から始める。

小弓道療法、障がい者弓道療法:四半的弓は車椅子に座った姿勢で可能であり、下半身の身障者や高齢者にも適している。先日、脊損による下半身障害者に車椅子上での坐射を指導してみた。何回かの巻き藁射の後に『緊張と開放感が素晴らしいですね』と満面の微笑みで喜びの声を発してくださったことはうれしかった。

 男性の認知症高齢者に弓を持たせるだけで興味・関心を示すことが多い。認知症高齢者を、ほぼ全面的に介助しつつ、弦と矢は自力で引き、至近距離から的中を支援すると、大変に喜んでくれる。弓の素引きだけでも満足感を表す高齢者が多い。80歳を越える認知症者が、弓を引きながら『おれは昔、村田銃で狸(たぬき)を獲ってたんだ』と誇らしげに語る場面もあった。

 1618歳の家庭内暴力や自家用車破壊などで警察官に伴われて入院した青年はまずは、病棟内・内観療法を保護室内で開始し満足すべき反省自覚をえて終了した。その後種々の治療法に併用して小弓道を開始した。『矢を射るととても開放感があっていいです。四半的をして始めて背筋を伸ばすようになりました』と内観日記に書くように熱心であった。『今日は、初心者の人に、構えを自分なりに教えました。何回か教えているうちになやみました。自分でよければまた教えたい』。仲間で互いに注意し合いながら、グループ療法的効果も期待できるようである。

 1517歳の不登校高校生は病院内・内観療法終了後から小弓道に参加した。『弓を今日した。3回目なので真ん中にいることができ、日々上達しているのがわかる。これからは、もっと細かい部分に気をつけてできるようになりたい』と明るい表情で病院から通学している。

 1618歳の摂食障害の女性は『今日は調子が悪くうまく的に当たらなかった。でもやっていることは楽しく、夢中になる』と明るい表情で自主的に参加してきている。

 入院中のアルコール依存症2830歳の女性は、内観日記帳の「今日一日の楽しかったこと」の欄に、毎日のように小弓道のことを書いている。『弓の練習をして誉められたこと。

習って正しく行なうことも難しいけど、人に教えるのはその倍くらい難しいことです』。その2〜3日後には『弓矢の練習をして始めて、的の真ん中に当てることができた』。その数日後、『いつもは椅子に座って弓矢の練習をするのですが、今日は場所も2階の会議室で、的から距離も遠く(8)、立つ姿勢で弓を射ました。緊張はしましたが命中した時はうれしかった』。

奏効機序と、これから:まずは安全教育・礼節から始めたい。我が国の伝統的文化・技術を守り、新しい土地での新応用として()弓道・障がい者弓道を試行していきたい。

 猿から人間に進化した証である最古の道具である弓矢と、それを日常使っていた古代人の知恵・緊張感・心情を味わいたい。日常用いている漢字の中に、その緊張感が伝わって來る。さらに,古い教えである“光陰如矢”などを実体験し、日常生活に適度の緊張感を取り戻し、不登校・引きこもり・家庭内暴力・うつ・自傷行為などの予防・早期治療・退院後の日本弓道やアーチュリー、四半的弓道につなげたい。

 シラーの詩にあったと思われるる『 “未来は、はにかみながら徐々に近ずき、現在は、矢のように過ぎ去り、過去、は静かに永久にそこにとどまる” 』という時間意識の哲学的イメージを弓道は実体験させてくれる。病棟内・内観療法も過去の回想による認知修正療法であり、弓・矢に関する先祖・先人への感謝、弓を引ける手足への感謝など気ずきの広がりは安心と感謝へつながるようである。

 矢が的中したか否かは誰の目にも明瞭であり、その責任は全てその本人に帰着する。誰の目にも明瞭な自己責任性が、このごろの心身症・心療内科・精神科医療の臨牀現場では極めて曖昧になっている。近年、自傷行為の頻発・一般化に見られるように自己の身体安全確保すら、他責追求になってきている。自己責任性を明確にし、自己責任を少しずつ発揮できるよう指導することは治療の本質であり、この点に関して弓道は自分自身を見つめることであり、これら上記の治療・予防に適している。薬物療法やカクンセリングに依存しすぎた医療は、人間が古代人の頃から培ってきた生活力・生命力・体力・気力・社会性を失っていくのではないかと心配するのである。

 昏迷しつつある今日の人間存在意義について、古代人が長年にわたり培ってきた弓・矢

との対応が、前頭葉を刺激し発達させ、猿から人間に進化した時代の生命力・知恵・体力を回復させてくれるかもしれない。

 

文献:四半的弓道 教本改訂版 宮崎県四半的弓道連盟 2004 宮崎市

   四半的弓道の新たな展開・・ 北海道医報 第1053号 1617 2006 札幌