日精協誌 第25巻  第11号 2006年11月 1105

 

 


今日の依存症病棟の治療構造と機能、その成長の経緯

未婚・離婚さらに少子化の予防をめざして

太田 耕平
北海道 札幌太田病院 理事長、名誉院長
Key Words 依存症、10段階療法、内観法
病棟内内観療法、オートポイエーシス

依存症への10段階療法を開始して32年間−病棟内内観療法を含む20段階療法へ

 当院では依存症治療は昭和40年頃から開始された。内観療法1)を採用し、院内断酒会(しらかば会)の結成や地域断酒会との連携は昭和48年からであった。
  当院が開業した昭和18年から昭和23年までの6年間はアルコール依存入院者は0であった。その後の10年ごとのその年の〔アルコール依存者の入院数/新・再疾患入院者数=アルコール依存者率%〕は、以下の推移である。
  昭和30年〔7/159=4.4%〕、昭和40年〔20/124=16.1%〕、50年〔50/122=40.9%〕、昭和60年〔105/290=36.2%〕。平成7年〔230/632=36.4%〕とアルコール症が高比率を示した。
  その治療対応のため、10段階療法2)を基本とし、第4段階の内観療法を含めて、患者一人ひとりの個別的対応や、必要と思われる支援システムを改善工夫しつつ(表1、2)、今日のシステムを形成してきた(図1)が、今後もニーズに応じて変革すると思われる。
  時代の推移とともに症例の抱える問題点・治療課題は増加し複雑となり、これらに対応すべく内観療法は幅広い変法や追加技法を加えて病棟内内観療法へと成長せざるを得なかった。その成果もあり、今日では5断酒会、女性断酒会、ギャンブル依存の会(GFの会)、薬物依存の会(ニドムの会)、各疾病の家族会、各疾患のピアカンファレンスなどが結成されている。また、第2デイケアは酒・薬物依存症者を主な対象として設立された。また第3デイケアには摂食障害やリストカットなどの思春期症例が増加している。

 

表1 重症例を含む依存症者への治療的対応
1. 初診・相談時に十分の資料と説明、重症者をも引き受け可能を明示する
2. 治療可能性を伝え、治療意欲の喚起(個々症例に多様な接近)をする
3. 種々の否認へ対応し、共依存者へも対応し治療に参加を勧める
4. 離脱症状の事故危険性と予測・予防を教育し早期治療を勧める
5. 個々の心的発達・家族状況・病状に応じ多様な病棟内内観療法を行う
6. 人生の認知修正、薬害認知、病識獲得、ピアカンファレンスを積極的に
7. 心的外傷の癒し、認知行動修正、性格改善を支援(時に厳しく)する
8. 家族内観療法により家族間葛藤の解決と新たな人間関係の形成を図る
9. 断薬仲間との付き合い、断薬の誓い、安心・共感・成長を支援する
10. 断薬会入会→活動→指導的役割へ成長支援:社会的役割の獲得を支援する
11. 断薬デイケア通所を通じ「10ステップの祈り」と10段階の成長を支援する
12. 新たな生活目標、生きがいの創造、仲間・親睦・楽しみ・幸福感を支援する
13. ピアカンファレンス・デイケア・患者会を通じ相互扶助→自立へ

 

表2 重症依存症者への医療システム、職員、施設、支援組織-10段階から20段階療法へ

1. 多様なアルコール依存→薬物依存に十分の理解・経験・治療成績を持つ→治療経験の開示
2. 断酒会との協力、支援、入院者の断酒会参加、断酒会育成の経験がある→断酒との協力、支援を
3. 薬物依存症治療マニュアルがあり、症例・時代に応じ改訂を繰り返している
4. 当院の職員全員が内観(自己分析)体験をすませ、共依存・不安を防ぐこと
5. 医師・職員が依存症治療体験を公表、学会・論文発表し自己反省を継続している
6. 治療経験ある職員(医師・看護・心理・OT・内観療法士)グループ診療である
7. 重症度に応じた多様な内観療法室、男女・老若の心理士・医師・看護師が提案、内観指導者が支援する
8. 断薬・減薬による離脱症状への安全・的確な対応予防・対応がなされる
9. 習慣性の少ない安定剤に切り替え、漸次減薬、できたら薬物離脱させたい
10. 患者と家族の否認・共依存への的確な対応。家族会、ピアカンファレンスがある
11. 患者の治療拒否・暴力・自殺や他害のおそれのある者へ、身体拘束を含めて治療的・法律的的確な対応ができる
12. 触法患者、病識欠除患者、退院請求患者への人権擁護、行政、警察との法律的対応ができる
13. 自傷他害・危険患者の身体拘束・隔離、mECT、この間、人道的内観療法的対応ができる
14. 患者の人生経験、心的外傷、認知の錯誤、性格の偏倚を修正する認知療法、内観療法を持つ
15. 認知行動(内観)療法、(学習、患者、家族)会、作業療法、心理療法などが可能
16. 退院後は、病院近くの共同住宅、依存症デイケア、依存症患者会を利用できる
17. 断薬会(ニドムの会)、リボンの会(身体拘束時記憶回想法体験者の会)がある
18. これらの会の事務局が院外に設置されている。仲間で相互に助け合う→自立へ
19. 時代変化、症例の重症化に応じて、治療システムの改善、補充を常に行う
20. これらの治療経験を常に公表・公開することを全職員が行う

 

最近の依存症の特徴−医薬品乱用に酒類依存を併発し症状が重症化している

 近年増加している行為障害や人格障害に、薬物依存(医療薬剤を含む)症3〜5)やアルコール依存合併例が増加している。
  平成17年の当院のアルコール症入院者は〔132/684=19.3%〕と数字上では急激に減少した結果が示された。しかし、その背景には、近年は抗うつ剤、抗不安剤、眠剤など薬物とアルコールを併用する若年症例が多く、さらにリストカットなどの行為障害にアルコール乱用の併発若年齢例も増加している。ゆえに、疾病分類に関しては、うつ病エピソードに入れるか、行為障害か、摂食障害、発達障害に分類するか、酒または薬物依存症を主病名にするか、副病名にするか迷うことが多い。

 さらに、近年の若者に見られる過剰な独立心・権利意識・自己中心・自己主張などを防衛機制として用い、これが人格化・行動規範化する傾向を示しており、治療には抵抗し、医療者に対して反発・攻撃性を示す傾向が高まっている。また家族機能も衰微しつつあり、家族の治療承認・協力を得るために苦労する症例が増えている。
  当院での依存症の治療方法は、昭和49年から開始した10段階療法2)を中心に開始された。それは禅宗の十牛図が教える発達心理を自己観察→不安の発見→洞察→自己受容→病識獲得→感謝→報恩などの10段階として整理したものである。この10段階療法の中心は、(1)心理テストとその説明、(2)詳しい生活史聴取とその解釈、(3)学習会、(4)集中内観療法、(5)院内断酒会結成と参加、(6)地域断酒会参加、(7)抗酒剤服用の納得と励行などであった。これらの業務のために心理士、ケースワーカーを昭和41年から複数名採用し、現在は各々10名以上を採用し断酒会・家族会の育成と、3つのデイケア支援、さらに、それらとの連携に努めてきた。



心的外傷の負の連鎖として依存症の発生−予防と早期治療を

 多数の酒害者を治療中に、その子どもたちに心的外傷など負の連鎖を連続的に発症していく症例が少なくない。
  いじめられ→不登校怠学→ひきこもり→摂食障害→薬物乱用→暴力→非行→覚醒剤乱用→うつ状態・・・と重症化し社会参加が困難になっていく。これらの治療のために、その病態把握を必要としたため、シンナー乱用者の調査6)、覚醒剤乱用者の調査7)、少年非行の調査8)、思春期の薬物乱用の調査9)などを行ってきた。
  これらの調査は、内観療法では詳しい生活史が明らかとなることからも容易であり、以下の諸点が明らかとなった。すなわち、問題行動の背景には、(1)親の離婚、別居、(2)不和家庭、機能不全家庭、放任家庭、(3)学業の遅れ(中学に入学しても、分数計算、小数点計算ができない、アルファベットを書けない)、(4)いじめられ、(5)親などからの虐待、など心的外傷の累積と重症化が見られることが多い10、11)
  これら、過去の心的外傷が認知障害として残存する若年症例の治療には、記憶回想法や認知療法的奏効機序を持つ内観療法はきわめて有効であることが、経験的にも理論的にも明らかにすることができた3、4、12、13)。さらに、思春期内にこれらの問題を解決することでその後の成人期の依存症や適応不全を予防しうると想像し得た。近年、抗不安剤・睡眠剤・抗うつ剤などを多種・大量に連用したり、または自殺目的で大量にまとめ飲みし、病的酩酊・奇異反応など興奮を呈する症例が増加している5、10、11、15)



当院の依存症治療システム−症例の課題に応じ改善に成長する多面的・段階的治療法である(図1)

 依存症治療の診断・治療は、個々の症例の背景にある生活史、心的外傷の内容、人格形成、生活環境、症状、などにおいて個別的・多面的・段階的・社会参加的な治療を要する。
  (1)治療必要性の自覚 (2)否認への対応 (3)病識と治療意欲の形成 (4)共依存の気づき (5)個々の家族と家族関係へ家族会・教室・療法の実施 (6)過去の心的外傷への認知修正 (7)人格の成長段階的成長の支援 (8)日常行動・目標・習慣の是正と健全化 (9)反省→感謝→報恩と奉仕→明朗・闊達・自主独立→家族・社会・国家・世界観を持ち真・善・美を求める生き方 (10)自分の闘病・治療体験を後輩患者・患者会・家族会で語り、予防活動で社会貢献する。

  この10の段階的改善・成長を促進するのが10段階療法であるが、病棟内内観療法はその広汎な有効性からその中心・核心を形成していると考えられる16)
  これらの治療システムは、(1)職員・治療組織の診断・治療技術の成長と教育、(2)治療成果の公開・反省、(3)患者会・家族会との協同作業、(4)方法と成果の有効性と学術性・社会性の反省、などの4項目の実践の繰り返しを要し、これにより螺旋状に自己成長するもので、オートポイエーシス14)と言えよう。関与する職種、職員数、内観室数、対象可能疾患、なども増加しつつある。
  病棟内内観療法はとくに病識のない重症者をも対象とし、精神保健福祉法の適応をも視野に入れており、さらに認知療法、行動療法、精神分析療法、記憶回想療法、物語療法、問題解決療法、家族療法など、多様な治療的側面を有しており12)、発達心理的・段階的な精神の安定と成長の契機となることが多い。図1は、過去30年にわたり改善工夫して、軽症者から重症者に至るまでの、説明・導入から治療後のフォローに至るまでの今日の20段階システムを示したものである5、14〜16)



子どもの心の健全育成、健全な母・父の育成−依存症発生予防のために

 本年9月から当院の近隣に一般人対象の内観研修所を設置した。
  一般人への内観法は簡単であり、小学生から可能である。練習としての一日内観から体験してもらうことも可能である。幼児と一緒の同屏風内内観法も有効である。
  今後は、一般家庭、幼稚園、小・中学生、高校、専門学校、職場、地域に内観法的手法を周知・啓発してこれら依存症の発生を予防することに努めていきたい14、16)。いじめ、不登校、学校内暴力などの予防のためにも、「ホームルーム内観」を是非とも採用してもらいたい。先日、近郊の高等学校にて薬物乱用防止と内観法の実践について講演したが、年4〜5回の学校での講演依頼がある。
  この運動には、第21回を迎えた北海道内観懇話会や内観医療学会、さらに地域の断酒会・サルビア会・ニドムの会・リボンの会・第2デイケア・・・などのメンバーが参加し尽力をしてくれると信じている。
  健全な家庭教育、学校教育での予防的対応から始まり、さらにきわめて重症な症例をも逃げることなく正しく受けとめて治療し、退院にもっていくべく、病棟内内観療法をさらに整備していきたい。

 

文 献
1) 奥村二吉、他:内観療法.医学書院、東京、1972.
2) 太田耕平、他:アルコール依存症への10段階療法.アルコール研究 12(4):163-164、1977.
3) 太田耕平:増加する心身症と酒・薬物依存への対応.日本医事新報、3777、pp.44-49、1966.
4) 太田耕平:14施設を重複受診した薬物依存、日本心身医学会北海道支部例会、北大臨床講堂、1998.10.28発表.
5) 水野 肇:日本生まれの「内観療法」のシステム化.中央公論8月号、pp.151-155、2003.
6) 太田耕平:シンナー等乱用者の実態と治療.日本医事新報、3049、pp.43-50、1982.
7) 太田耕平:覚醒剤乱用者の社会的、心理的背景.札医通信、No.189、pp.17-11、1983.
8) 太田耕平:少年非行の背景と治療.北海道医報、581、pp.10-16、1984.
9) 太田耕平:思春期の薬物乱用の実態と予防.北海道の公衆衛生 15:48-55、1989.
10) 太田耕平:薬物依存と病棟内・集中内観療法.日本神経精神薬理学雑誌 20:249-252、2000.
11) 太田耕平:不登校・引きこもり・自傷・薬物依存などの一、二、三次予防.東北・北海道地区薬物中毒対策連絡会にて発表、KKRホテル札幌、2002.9.29.
12) 太田耕平:内観療法の奏効機序.第14回日本内観学会論文集、pp.23-31、1991.
13) 太田耕平:精神分裂病の内観療法の有効性.精神科治療学 13:1215-1223、1998.
14) 波多野二三彦:[第4版]内観療法はなぜ効くか〜自己洞察の科学.信山社、東京、2006.
15) 太田耕平:精神科医療における今日の精神療法の位置づけと医療経済効果:病棟内・内観療法システムとその実態.日精協誌 22(5):25-30、2003.
16) 太田耕平:禅十牛図から発想した十段階療法の30年を振り返って.第46回日本心身医学会総会学術講演会、奈良、新公会堂、2005.