初老期の妄想(憑依)形成とPTSD
〜集中内観療法が著効をした1例〜


医療法人耕仁会 札幌太田病院
心療内科  太田 耕平 池田 明穂 吉川 憲人 山下 謙二
看護部  上野ミユキ 伊藤さゆり 工藤 秀子 原田 良一
心  理  大西 祥子 郷久絵里香 安岡理恵子 根本 忠典

平成11年度 医療法人耕仁会職員学術研修発表会論文集:p185、1999
(第1回 内観に関する医学研究会 抄録集、1999)



 60代後半の女性。約20年前、姑や親の死後から身体がビリビリしびれ、 手足の脱力で内科を受診し、難病の疑いと言われ宗教を信仰して、一時 改善した。当院受診の半年前から「体がしびれ、ネバネバした感じが し、何かにとりつかれて、足先からビリビリでると楽になる」とのこと。
 外来初診で、目をつぶると龍が見え、「お礼をもらえ」と幻聴あり、 多動、不穏、焦燥、「○○様がついて離れない。全身から黒い砂が出て仏 壇に勢いよく吸い込まれる」などの多訴状態。家事は不能で、当院に初回 入院し、向精神病薬で多少軽快し約40日で退院した。
 約70日後に症状が悪化し、再入院となった。薬物療法のみでは効果が期 待できず、内観的接近を試みた。精神症状不安定なため、バス・トイレ付 きの個室を用い、内観も始めはベッド上、ついで屏風内の椅子の上、内観 第5〜7日目には屏風内で正座可能となった。内観に入り、「母には迷惑を かけっぱなしでした」と流涙された。姑との長期間の葛藤や、夫からの見 捨てられ感も語った。
 しかし、最も強烈な心的外傷として、35年前、義弟の飼っていた牛に川 辺まで突き転がされ全身打撲の血だらけで失神し、夜の寒さで覚醒しやっ と家の前まで這って行き、夫に発見されたことがあった。
 その後、半年は自宅で寝たきりで、医師の診察もなく、「全身の皮膚から 突かれた時の泥が出ることが続いた」と言う。
 10年にわたる後遺症の辛さを、内観面接者3名に繰り返し執拗に訴えた。 外傷体験と現在の心身の症状とは極めて関連性と因果性を示していた。この 体験が十分に受容された翌日から、初めて正座し、落ち着いて内観に取り組 めるようになり、表情も穏やかに変化された。
 心的外傷となる過去の葛藤が多数混在し、複雑性外傷後ストレス障害とし て発症した憑依妄想が、集中内観で著効した1例である。

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