精神分裂病に対する集中内観療法
―開始理由と効果をあげる試み―

札幌太田病院 太田耕平


内観療法の臨床-理論とその応用-;133〜145,新興医学出版社(東京),1998.



 はじめに   症  例   症例検討   文  献 


 精神分裂病への内観療法の報告は池田2)、森定8)らによる先駆的な研究がある。一方、栗本5,6)真栄城7)らは分裂病の家族に内観療法を行ないその有効性を論じている。
 集中内観療法は、当院で採用後23年間の工夫、改善を試み、数多くの症例の経験からこの数年は精神分裂病にも適応を試みている。とくにこの2〜3年は、従来は禁忌と考えられていた幻覚妄想のある症例にも慎重に適応し好ましい効果を得ている。分裂病に導入可能となったこれまでの経過と工夫を概略し、1症例を提示したい。
 従来の分裂病概念や、それからくる治療者がもつコンプレックス4)から自由になり同病への理解と精神療法に新しい光をあてる感があり、その奏効機序を1例ずつ慎重に吟味していきたい。


  1. 内観療法の採用と適応疾患の拡大

    1. アルコール症への適応
       昭和49年、当院でアルコール症治療を開始したころ、きわめて攻撃性、自己中心性の強いAさんに苦慮していた。偶然に書店で奥村二吉ら共著『内観療法』11)に出合い、その解説通りに内観を施行したところ、7日後に著しい心の好ましい大変革を得た。Aさん、家族、上司、さらに治療者ともどもに感激を味わわせていただいた。Aさんは以来23年にわたり断酒を継続し、断酒会の役員として、個人生活を通して多くの酒害者の支援と断酒会の育成に協力されたのであった。
       あれだけ敬遠されていたAさんが内観療法により実は素晴らしい人であることがわかり、「人間は信用できる素晴らしいもの」であることを教えていただいた22)。同時に、その後数多くの症例を改善に導いた内観法の素晴らしさと、さらに内観法に出合う機会となった奥村二吉はじめ多くの内観研究者とその著作に感謝を禁じ得ないのである。

    2. シンナー乱用、不登校、家庭内暴力など思春期症への有効性を高める工夫
       昭和58年ころは中高生のシンナー乱用が頻発し、1年で70〜80例の入院症例を2〜3
      週間の入院期間で一応の成果を得たのは内観療法によってであった13)。これら若年症例は治療意欲を欠き非行性も認められ親や生徒指導員、警察官により半強制的に連れてこられた13,14)
       安定剤依存を避けるため薬物投与を極力控え、事故防止のため初めから保護室に収容し内観的アプローチを開始した。内観前後の人格テストや学習指導、学力テスト、親子のボディワーク、病院からの通学などの工夫も加えられた9,10,13,15,25,29,31)
       当初は内観療法導入により短期間での人格面の改善や、不登校生徒の再登校の喜びに気をとられていた10,15,17)。しかしこの数年は、幼少児期のさまざまな心的外傷による外傷後ストレス症候群としてこれらを理解しうると考えるようになっている3,21,29,31)

    3. 食行動異常や覚醒剤精神病への適応
       アルコール依存を合併する食行動異常の治療に保護室使用の必要を生じ、同時に内観的接近を試み良好な経過を得てから、拒食、過食症にも内観的治療を試み有効であった12)
       覚醒剤乱用者においても、離脱症状や幻覚妄想が消失した後に、その人格面や薬害の自覚、さらに正常な対人関係の形成のために集中内観療法は有効である16)。シンナーや覚醒剤精神病者では問題行動や危険防止のために、食行動異常者では過食や盗癖などを防ぐために隔離(保護室使用または個室に施錠)を要することが多い。この孤独の時間帯に0歳〜12歳の母のテーマを与えておく事が退屈させずに過ごさせ、さらに反省や自覚を深める効果があることがわかってきた。

    4. 精神分裂病圏への集中内観の適用拡大
       前述の覚醒剤精神病では幻覚妄想が多少残存していても、保護室内での生活に彩りをそえる意味から、

      1. 内観的標語を壁に貼って読ませたり、
      2. 0歳〜12歳の母を思い出すこと、

      など内観的な課題を与えていた。この有効性を経験していたので、精神分裂病の軽度の幻覚、妄想に対しても同じ対応が可能と思われた。
       しかし、2〜3年前までは精神分裂病への内観の適用は、幻覚妄想が消失していながら院内不適応の患者を対象とし、有効性を確認しつつあった18,19,20,28,32)。精神分裂病者においても以前の、または昔の外傷体験が対人不信感を形成し、不適応を結果的に生じていると考えられ、それなりに了解可能と思われる症例が少なくなかった18,19,23,24,32)

    5. 幻覚・妄想状態の精神分裂病者に内観的接近を試みた理由
       当院に○○年○月に転院してきた30代後半の精神分裂病者は水中毒を合併しており、水分過剰摂取による電解質異常から痙攣発作を起こし、水分制限のため保護室への隔離を必要とした。この隔離の日々の日課のひとつとして、母に対する内観テーマを与えた26)。内観そのものは深まらず中断を繰り返したが、彼女の生育史と父・母との関係の詳細を把握できた。父・母自身も集中内観すべきことが痛感された。しかし父・母からは集中内観を拒否された。治療者との信頼関係の形成に有益であり、ピアノを介して個人音楽療法の参加が可能となった。さらに集団音楽療法の助手を務めるまでに回復した26,27)
       発病する前の自分が健康な幼小児期や中学時代の内観三問に基づく回想は、父・母や自分に対する誤った認知を是正し、自己の健康感、母との信頼関係など健全な意識や自我を強化するように作用する。さらに事実に基づいた回想は、妄想、幻覚への客観的姿勢を形成し、これらを排除するように作用することが想像された。
       これは、心的外傷の治療には、患者の外傷以前の歴史を取り戻すことが重要だとされている3)ことに一致する。


  2. 院内で行う集中内観の有効性を高める工夫

    1. 対象疾患別、症状別の対応と工夫
       アルコール・薬物依存症で興奮性、反抗性の強い症例は保護室に収容し、せん妄などが消失した後に、そのまま内観に導入していくのが本人や他患者、職員にも好都合なことがわかってきている。
       この場合、保護室内に屏風を置かず、保護室全体を屏風と考え、内観の深まりやすい標語や説明資料を壁に張り、読んでもらい、かつ覚えるように依頼する。また、内観導入の録音テープを計画的に流している。

    2. 内観を行う場所、部屋の工夫
       保護室→内観室(3〜4人用、2人用、1人用)→自室(2人室、1人室)など、効果をあげるために目的や症状に合わせて多様な取り組みが試行錯誤された。新病棟では1人室(バストイレつき)、2人室ともにゆとりの空間があり、屏風を置くことが可能であった。自閉性の強い症例では自室内での内観療法には安心感を示した。病棟のサービスステーション近くの病室や内観職員ステーションの近くの保護室での内観指導は、万が一にも症状の急変があっても対応しやすい利点がある。
       また、病棟全体が集中内観を受容する雰囲気づくりが必要であり、壁に標語を張り、早朝に内観導入的な放送をし、病棟内の内観懇話会の開催なども重要である30)

    3. 準備期間と柔軟な導入方法、そして吉本原法へ
       非協力的で自己中心的、攻撃性の強いシンナー乱用、覚醒剤乱用、非行青年には、1日2〜3時間のみ内観的記憶回想から始めることもある。幻覚妄想の残る精神分裂病者では内観室の出入りを自由にしたり、個室内の屏風内内観では屏風から自由に出てベッドに臥床することも容認していくことで、少しずつ内観的回想が深まっていく症例もある。

    4. 職員の集中内観体験の奨励と内観療法の症例研究の促進
       集中内観療法は、広い疾病対象にきわめて短時間で高い有効性がありながら、医師や看護婦教育にはほとんど採用されておらず、当院職員も入職して初めて知ることが多い。これら新人職員に集中内観の体験をお願いし、また、同治療に関与し症例の経過を報告して熟知してもらうようにしている。

    5. 集中内観療法課の設立と内観療法ステーション
       平成2年以降、多くの職員の理解が深まり本療法が活発化し、優秀な職員が参加し始めた。今日では、内観担当職員は課長(臨床心理士)、内観担当婦長(副総婦長)、内観指導員(元中学教員1名、断酒会会長2名、介護福祉士1名)、兼任指導員(医師1名、臨床心理士2名、断酒会会長2名)の計11名である。その年代は20〜30代3名(男1、女2)、40〜50代4名(男3、女1)、60代4名(男3、女1)と幅広く、内観者の年齢と性別、さらに疾病により指導者を的確に選定している。指導者は全員が集中内観経験者であることは当然である。
       内観療法ステーションは、急性期病棟内の保護室と内観療法室に近い所に設けられた。ここには4人が座れる事務机と椅子があり、内観分析記録を記入・保管し、内観療法の治療計画を練ったりする。

    6. 集中内観療法の全記録と標準化の必要性
       多忙な日常診療の中で、本療法の記録のあり方が十分に吟味される必要があろう。奏効機転や指導者の介入のあり方などが、とくにうつ病や分裂病圏の内観者に対しては重要な意味を持つと考えられる。
       当院では平成3年ころから内観分析記録指示箋を試作し、面接ごとの三問への答えの要点と特記事項を記録として残している。今回の症例報告もその内観記録と看護記録からの抜粋である。

    7. 治療計画の中での集中内観の位置づけとその前後のプログラムの重要性
       受療者や家族に治療開始から退院後の地域援助までの治療計画を説明することが、集中内観を成功させるうえにも必要である。疾病ごとのプログラムの作成は、第1期治療は検査と導入、第2期治療は病識と精神療法、第3期治療は退院準備と退院後の支援である。これらに工夫や改善を常に行い現在のものとなったがこれからまた変更する可能性は大きい。集中内観後の親子内観ボディーワーク33)や院内の内観懇話会30)による援助も必要である。
       誰が見ても納得しやすい治療計画と治療構造の情報を開示し、受療者、家族さらに職員全員の一致した協カが、良い治療効果を得るために必要である。これらの学習は職員研修や北海道内観懇話会、当院の職員研修発表会などで行われている。