精神分裂病者の集中内観療法の有効性
―奏効性を高めるための工夫と経過―

太田耕平 杉山善朗


精神科治療学13(10);1215〜1223,1998,星和書店(東京)


抄録

 集中内観療法は、臨床的には神経症、不登校など心身症、アルコール・薬物依存、うつ病などに広汎かつ短日数での有効性が知られている。精神分裂病に対する本療法の有効性は文献的にも否定されていない。
 当院では約20年前から本療法を種々の病態に適応し有効性を確認してきた。なかでも興奮性シンナー乱用や覚醒剤精神病の有効性を経験し、ついで精神分裂病をも治療対象となり得る導入法があることが分かってきた。
 とくに向精神薬により幻覚妄想が軽減しても親をうらんでいるとか対人不信が強い、暴力反抗傾向が強い症例には導入に工夫すると有効性が著しい。また、無為、自閉傾向の者にも自信、明るさ、積極性、対人疎通性などに改善を認め早期退院となる症例が多い事実がある。
 PTSD(外傷後ストレス症候群)に対する記憶回想療法は有効であるが、内観療法も型の整った記憶回想療法の一つと言える。今後、本法から見た分裂病論、治療機転など解明されるべきことが山積している。

keywords: Naikan therapy, schizophrenia, psychotherapy, effective mechanism


はじめに

 集中内観法は吉本伊信により開発された精神修行、人格改善法であった。医師や医療機関においては早くから心身症、神経症などに有効性が知られていた。一方、精神分裂病に対する本療法も試みられ、同病家族の内観について、それぞれ有効性が語られてきている。
 当院では、昭和49年、1例のアルコール症に著効を得て少しずつ適用範囲の拡大を試みつつ試行錯誤で本治療法を継続してきた。この間アルコール症者の家庭から発生する不登校児、シンナー乱用者、薬物依存、覚醒剤乱用、非行児などの治療も効果があり、本法が短期間で他の治療法に比べ著効を示すことが明らかになった。
 さらにこの数年、食行動異常症や特にこの2〜3年は精神分裂病への有効性を吟味しつつある。いずれの症例にもそれにふさわしい治療場面、病棟、病室構造、人員配置が必要である。
 当院の本法に関する経験と、精神分裂病者に対して効果をあげるための工夫をしてきたその実際について、経時的視点も入れて反省してみたい。なぜならばこれらの工夫、経験、設備、内観記録、内観経験のある内観担当の人員を欠いた状況では、精神分裂病者への集中内観療法への導入は困難であり、本法が分裂病には無効であるという誤った結論に導かれる恐れがあるからである。


  1. 保護室内での集中内観療法

     当院での最初の本法による治療例は否認や攻撃性の著しいアルコール症者であり、やむを得ず保護室に収容した。その対応に苦慮している時偶然本法を知り、保護室内で吉本原法に従って行い、驚くべき効果を得た。
     以来、保護室は攻撃性や問題行動の多い症例の集中内観療法室として度々用いられた。その理由は、

    1. 反抗的、非協力的患者の事故防止のため収容した際に、隔離に加えて有効な心理療法として可能である。
    2. 看護詰所から近い位置にあり、医師や看護婦が常時観察可能である。
    3. 他患が入り込んで中断することがない。
    4. 静かであり内省に集中する本療法に適している。

    などである。
     平成2年頃からは、保護室収容の集中内観者にはその協力性や能力に応じて屏風を入れるようにしている。これにより、さらに吉本原法に近づき内観への心の集中性が高まったと思われる。
     当院では、病識が乏しく興奮性の高いアルコール、シンナー乱用、覚醒剤精神病に集中内観が可能となり、さらに、これらの大多数の症例が2週間から3ヶ月程度の入院期間で退院可能となったのは、この保護室での内観療法が多様な症例に有効であったからである。また、この経験がその後の精神分裂病に集中内観を開始する契機ともなったのである。


  2. 内観療法室の設置とその功罪

     平成2年の第14回日本内観学会(札幌)以降、職員の関心や協力性が高まり、病棟内の一病室を畳室として、屏風を四隅において3〜4人の集中内観を行えるようにした。この内観療法室の設置は、短時間で3〜4人の内観面接が可能なこと、内観受療者自身がより真剣な内観者仲間の発言応答を聞いて、刺激されるよい方向での効果があった。
     しかし、プライバシー保護の面や、他人に聞かれるために発言が抑制されるなどのマイナス面もある。さらに消灯時間後は就床のため自室に戻る際に、他患と話をしたり、テレビを見たり喫煙室で談笑するなど、内観の深まりの障害になる点もあった。さらに集中内観に熱意の乏しい症例が複数いる際には、内観療法室内に職員が常駐したり、頻繁に巡回する必要が生じることもあった。
     平成8年の改修工事により、集中内観室は閉鎖病棟(急性期棟と療養型A棟)部分に3人用、2人用、1人用室が各1室ずつ設けられた。これらの部屋の使い方は、アルコール症、薬物依存症は一緒に2〜3人室を使用し、男女を一緒の部屋で用いることは避ける。覚醒剤乱用や犯罪傾向、非行傾向のある症例、シンナー乱用者などは保護室内観、または1人用を用い、必要に応じて施錠することもある。
     開放病棟には1人用内観室、2〜3人用内観室が新しく用意され、不登校、家庭内暴力、軽症うつ、遷延うつ状態、不安、パニック状態、食行動異常などの症例が1〜3週間の短期間の入院中に集中内観を受ける際に用いられている。


  3. 病室(自室)内での略式内観から集中内観へ

     吉本原法を厳密に行うことが困難と思われる症例にはいろいろな導入の工夫がされてきた。
     内観的雰囲気に慣れてもらい、本格的集中内観の練習または準備のために、分散内観、内観日記の記入と自室内観が古くから試みられ、定着してきている。この方法は、全身状態や精神症状に多少問題を残している症例にも適用可能で、むしろ入院生活の励みになると思われる症例に広汎に行われている。
     ベッドに臥床しながら分散内観したり、床頭台に向かって行ったり、屏風を入れない略式のこの方法でもかなりの洞察を得る症例もある。症例によっては、この後にベッドの隣に屏風を入れ、吉本原法の正式内観への導入が容易となることが多い。
     病室(自室)内での正式集中内観療法は、病室内に屏風を入れ、午前6時30分から午後8時までは原則として屏風内で内観し、午後9時以降は屏風の隣のベッドで入眠する。この間、食事も自室内で取るようにする。この方法は不安を感じやすい若い女性や体力の乏しい中年、初老の女性に適しており、かなり保護された安心感のもとで集中内観が可能である。
     この病室内集中内観は、平成8年の当院の増改修工事が終了し、かなりゆとりのある1人室(バス、トイレつき)や2人室が用意されてから可能となり、効果を上げている。とくに不安や身体症状を残し、かつ排尿頻度の多い症例には1人室集中内観が適している。
     また、興奮乱暴傾向の少ない精神分裂病者や、薬物療法下でも多少の幻覚妄想を呈する患者に、閉鎖病棟内の1人室内に屏風を入れ(入れない場合もある)、内観療法の効果を得つつある。この際、屏風からは出ていたり、ベッドに寝ていたりする時間も認めている。屏風内があきたら屏風の外で、外があきたら屏風の中に入って…と、柔軟に対応することが患者の安心と内観への関心、意欲を高めるようである。

     長年の試行錯誤から、精神分裂病圏への集中内観療法は多様な内観の場、(畳の上、ベッド上、椅子の上)、病室構造、内観室構造の多様な設定をする。内観の導入も日記内観、分散内観さらに自由内観(好きなときに好きなように内観してもらう)、100分の1内観(原法を100としたら、その100分の1でよいと説明)などと、その人の症状に合わせて柔軟性と多様性が求められる。そして少しずつ正式な集中内観へと移行させる。
     開放病棟の1人室、2人室は病室内集中内観に適しており,思春期症、食行動異常、神経症圏、初老期の心身症内観に効果的と思われる。


  4. 病棟単位からみた集中内観療法への支援

    1. 入院時の治療契約に集中内観を明記し、ビデオや資料を通して十分説明し、インフォームドコンセントを得ておく。
    2. 集団療法(十段階心理療法)の第5段階に集中内観の項があり、ここで知識と内観の方法を学習する。
    3. 内観日記を可能な全症例に毎日の記入を依頼する。
    4. 病棟内の掲示やはり紙で内観的思考を促していく。
    5. 全館放送を通じて内観療法について啓蒙説明する。
    6. 院内の内観懇話会や断酒会で内観性を深める。
    7. 家族への啓発、家族が集中内観を受けることを勧める。
    8. 集中内観終了後の家族内観とボディーワークを行う。


  5. 職員の内観体験と内観教育の重要性

     集中内観の良さや効果は自分自身が体験して初めて分かるとされている。
     集中内観療法は、導入はさまざまでも終局的には極力その吉本原法に従って行わなければ効果は乏しい。それを厳密に施行するには以下のことが大切である。

    1. 受療者側の納得と協力が必要で、そのために集中内観に向けての練習ないし準備的内観(簡易内観)の段階も必要なことがある。
    2. 職員自身が集中内観を体験し、内観者の不安や、内観中の心の変化を体験し、さらに内観的に自己分析を経験していることが必要である。
    3. 病院全体、病棟全体、職員全体、広く入院者、家族皆の理解と協力を要する。


     当院では昭和49年に本療法を開始したころはわずかに医師1名が細々と行っていた。昭和63年から集中内観を経験した専門職が入りそのころは午後7時〜8時は瞑想の時間としてその日1日を内観する時間としていた。
     受療者に深い内観体験をしてもらうためには、医師、看護婦、ケースワーカー、臨床心理士をはじめ、多職種の、そしてなるべく多くの職員の集中内観体験が望ましい。これはなかなか容易ではなく、時間をかけた積み上げを要する。とくに医師は、集中内観を体験していなくとも、それなりの治療実績をあげており、集中内観の必要性はまったく感じないのも当然である。しかしながら、本法を自分で体験していないと、本法のもっとも大切な恩恵体験、正しい罪意識の深まり、解放感、幸福感を共感できていないから、内観者をそこまで誘導することも不可能かと思われる。


  6. 内観療法課と内観療法職員ステーションの設置


     内観指導者が増加するに従い平成3年頃内観療法課を設置し、初代の課長は臨床心理士にお願いした。今日では、さらに内観指導者数も増加し、20〜30代3名(男1、女2)、40〜50代4名(男3、女1)、60代以上3名(男2、女1)の計10名である。職種としては臨床心理士4名、断酒会会長2名、元中学教師1名、介護福祉士1名、看護婦1名、医師1名で、全員が集中内観を経験しこのうち6名が日本内観学会会員である。受療者(内観者)の年齢、性別、性格、症状にふさわしい面接指導者を適宜選択するようにしている。
     なお、当院全職員の約75%は集中内観を経験していることから、内観中の入院者に共感的であり、上記の職員以外でも随時、内観者への協力、支援、内観療法的日常介護が可能なことが重要なことと考えられる。
     医師の集中内観の関与については、従来から医師1名のみが早朝の第1回または第2回(午前6時30分〜9時)の面接をするようにしている。最近、新たに2名の医師が集中内観を体験したので、今後の充実が期待される。
     平成8年の改修工事で急性期棟と2階閉鎖病棟の中間、保護室3室の隣に内観療法職員4人が常駐できるステーションを設置した。内観指導後の記録と指導者同士の連絡調整を行い、内観中に拝聴したことで指導者にとってストレスとして残りやすい内容の発散の場にもなる。内観記録を保管し、必要に応じて資料を提供したり、家族内観の連絡を家族に対し行うこともある。このステーションには内観テープ、ビデオ、テープレコーダー、図書、リポート用紙などを備えてある。
     内観指導者は病棟スタッフとの連携が必要なため、病棟の朝の申し送りには毎朝参加することにしている。
     なお、内観療法職員ステーションの隣は十段階心理療法指導者の部屋になっており、相互の連携も必要である。


  7. 集中内観の記録について

     ひたすら拝聴する集中内観療法場面で、内観者が語ることをメモすることは警戒心を起こさせ、自然の回想を阻害しかねない。しかし、無記録であっては、貴重な7日間の内観の流れを失い、客観的検討を加えることを困難とし、学問的に奏効機序を論じたり、指導過程を反省することができなくなる。
     家族は内観中と内観後の心の変化に大きい期待を寄せており、求めに応じて内観過程を報告する必要もある。
     また、7日間の内観指導過程が正しいものであったか否か、もし本法が無効であった場合の技法の反省や、治療者の力量や能力を判断し治療者の技術向上のうえでも必要である。さらに、各医療機関において、ある程度共通した普遍的、かつ効果を高める内観記録方法を確立していきたい。
     録音という方法もある。当院では直後に内観ステーションで、三問に従って詳しく記入し次の面接者が読むようにしている。


  8. 集中内観療法が効果を上げるための治療計画の中での位置づけ


     本療法が精神科領域の不適応に幅広く有効であり、さらにその効果を確実なものにするためには、初診時、外来通院時、さらに入院時から退院時までの治療計画と各職種間の協力が必要である。この治療計画書はマニュアル化され、入院者、家族、さらに職員全員に周知徹底する必要がある。
     当院では、治療計画書は対象年齢や疾患別に

    1. 思春期用
    2. アルコール・薬物傾向症用
    3. 心身症、うつ状態、分裂病用
    4. 高齢者用

    の4種類を用意している。この治療計画も柔軟に応用しているが、1〜3ヵ月の入院で集中内観を中心に据えることで、著しい効果を示す症例が多いと言える。最近では退院直前に2〜3日の再内観を導入し、入院生活や病院職員に対する内観をすることで、新たな病識や反省が得られている。
     集中内観療法を含め、デイケアの充実、共同住宅への退院、これらの工夫改善により、分裂病圏の入院期間は1〜3ヵ月と著しく短縮、病識を得て父母との関係も改善し、予後も以前に比べ改善している。


  9. 精神分裂病者の集中内観療法への導入の工夫

    1. 外来時点から集中内観について説明する。
    2. 集中内観を行うことを入院契約に入れる。
    3. 入院者全員に内観日記帳を渡し記入してもらっている。
    4. 入院後も十分な説明やカウンセリングで不安や抵抗を除いていく。
    5. 自室内での内観が不安抵抗がもっとも少ないので、これから始めるのもよい。
    6. 屏風で囲むのは、本人が慣れて納得してもらってから。
    7. 1日朝だけ、午前中だけ、就床前2時間だけ、という分散内観や自由内観から入るのもよい。
    8. 内観室に入っても、出入り自由、居眠り自由で始めるのもよい。
    9. あきて拒否したら、1〜2日休んでその後に再度勧めると素直に応じてくれることが多い。
    10. 以前からの薬物は服用しながら行い、幻覚妄想が強くなったら本人の意思に従い中断するか、増薬して継続するか、安定剤の点滴をしつつ、横になりながら内観を継続(今までこの方法を望んだ例が数例ある)する。
    11. 患者仲間から内観法の良さを伝えてもらう。
    12. 職員自身が自分の内観体験を語って勧めることは、導入に非常に効果的である。
    13. 内観指導者は内観者に相性の良い年齢、性別、職員を選ぶようにする。


  10. 精神分裂病圏の集中内観過程

    症例1:中学生、男、主訴−数ヵ月不登校、幻聴と被害妄想による異常行動

     入院し精神安定剤で幻聴、妄想は消失したらしい。しかし病識は欠如し、拒否、自閉が前面に出てレクリエーション・作業療法にまったく参加しないため集中内観に導入した。その経過(表1)と奏効機序(表2)を示した。
     本症例は著効を示し、再登校を完全にこなし、公立高校に入学しクラブ活動にも適応している。本症例報告は第18回日本内観学会で発表済みである。


    表1 症例1の集中内観と経過



    表2 症例1の幻覚妄想と内観、奏効機序

    1. 内観三問の回答に、過去あれほど訴えていた幻覚妄想は全く触れられていない。
    2. 幻覚妄想の訴えは治癒前8ヵ月からであり、系統妄想化されていなかった。
    3. 過去14年間に及ぶ内観の回想で、幻覚妄想は極めて最近のことで重要性に乏しかった。
    4. 母、父、姉、祖母、先生などからの発病前の具体的恩愛体験は、安心と安定、連帯感と自信、自我の統合感を与えた。
    5. 恩愛事実を調べる内観を正しく指導すると、幻覚妄想の入り込む余地は少なく、内観法のすぐれた面である。


    症例2:40才代 男、○○回入退院を繰り返した精神分裂病の一例

     10代後半で独語、空笑、滅裂思考などで初発し、警察に保護され、20代前半まで数回入院後大学病院精神科入院となった。
     抑うつ気分、関係念慮、意志発動の減弱、不安、焦燥感が続き、転職を繰り返し、20代半ばで大学病院に○ヶ月再入院した。その後薬局でブロム系眠剤買って服用し畑に倒れているところを発見され、当院に初入院。その後当院には20代後半より○回、平均1〜3ヵ月の入院を繰り返した。

     ○回目の入院時経過:X年○月、「憂うつだ」と本人が電話で救急車を呼び入院となる。友人に誘われ、金をパチンコで使い果たし生活費もないという。左手首に5mmの切傷あり。食費がなく、「病院に来たらとりあえず三食は食べられる」と思って来たという。
     入院後多弁、多動、多訴、朝から靴を持って徘徊している。外出要求、アパートを替える要求、アパートの大家との交渉要求、年金や福士への要求多く、それを抑えると「おれの人権はどうなっているんだ」と大声を出す。躁うつ患者会「ホープの会」でも部屋への出入り多く中途退席が目立つ。詰所の窓口に再々来ては自己中心的要求や不満を訴え続ける。問題行動が多すぎて職員の受容的態度はむしろ増悪させるが、集中内観を試みた。

     集中内観終了後の氷上や態度、言動の変化:まず第一に驚かされたのが表情、まなざしが柔和になり、態度、言動もとても穏やかになったことである。職員や多患に対しても優しく素直になり、看護者への攻撃的態度がなくなり、医師に対しても「三度のメシを食べさせてもらった」という感謝の心が出てきた。カウンセリング用紙の記入も、内観後、字も丁寧になり、詳しく記入するなどの好ましい変化を認めた。

     数年後、イライラして問題を起こしたり、困ると自主的に入院治療を求めて来院した。表情も優しく態度も静かである。内観後、躁とうつの感情の変動は軽微に認められるが、他罰的問題行動、言動は全く消失した。本症例は第19回日本内観学会で発表した20)が、その後軽いうつ状態を再発し自発的に来院、入院治療を行った。その間、以前にあった問題行動は全くなく消失しており、治療に協力的であった。 集中内観終了後3年を経てその効果は持続しており、内観療法を受けたことを患者自身が積極的に評価し医療職員への信頼度を深めている。


    症例3:20代前半、女、無職、○年前(10代後半時)発症

     10代後半時に幻覚妄想がある。さらに思考伝播あり、思考奪取あり、作為体験あり、追跡妄想あり、注察妄想あり、テレビ妄想あり、近隣への破壊、乱暴問題行動で入院歴がある。向精神薬の効果不良にて電気けいれん療法3回で改善した。
     今回の再発および再入院時症状:X年○月父から電話がある。2〜3日前から、夜も全然眠らず食事もしない。自分から警察に電話して「だれかに殺される」と訴える。警察官に「両親が殺人をしている」など、つじつまの合わない話ばかりしている。母への暴力がある。
     同日、近隣の保健所保健婦より「父から相談を受けている」旨と協力要請の電話が入った。父が説得してやっと連れて来て入院となる。入院理由を問うと、「暴力をふるった」「ヤクザに追われている」と言う。「両親が殺人をしている」と言い、その理由を問うと「金庫のところに殺人の本がいっぱいある」と言う。「父が○○君を殺した」と主張する。
     抗精神病薬が効かず、保護室収容に併せて集中内観を試みた。導入に苦労し母の内観に3日間要した。しかし「20代前半の時に子供をおろしてから、水子の霊が私から離れずこうなってしまった。入院になったのは、両親が私に保険をかけて殺そうとしたから」など、妄想的内容も加わるが、本人も父母も入院時の病歴聴取に際し一切語らなかった。いじめられ体験、中絶体験、恋人の交通事故死など心的外傷体験を切々と語り、核心をつく体験が述べられた。
     いじめられ体験、中絶体験がいまだ癒えぬ心的外傷であったと考えられ、幼少期からの複雑性PTSDと精神分裂病の合併症であったと考えられた。
     第8日、患者「考え方変わった。看護婦さんや病院の人と仲良くすることが大切である」。
     内観を通して、自分の過去の心的外傷体験を語り、さらに父母の心を知り、信頼感をもてるようになり、さらに職員を「信じられる人」と認知できた。
     2回目の内観終了後には、患者の顔つきや表情がとても明るくきれいなものに変わっており、治療者として驚きと喜びがあった。退院3ヵ月後の外来でも父と来院したが素直で美しい表情は、患者の内的葛藤の消失と人格レベルの向上を示している。本症例は平成10年5月、第21回日本内観学会大会(鳥取市)で発表しており、退院後1年経過した現在、電話連絡上、予後は良好である

    症例4:30歳代後半、女(数回目の入院時)

     父は出稼ぎ。○人きょうだい。
     初診時の家族の訴え(X年○月)は、テレビで国会中継を見ていて「国民に迷惑をかけた」、「自分が死ねば一番いい」などと口走る。また「他人が自分の悪口を言ったり、自分を操作しているような気がする」と言う。スリップのまま外に出ようとする。不眠、独笑、独語がある。
    1) 初診時所見と初回入院(X年○月〜同年○月):雑音と車の音の幻聴あり。家族には聞こえない。本人は車の音と車が来ると主張する。「ヤクザや不良が私をたらい回しにする」。診察では被害妄想あり、追跡妄想あり、作為体験なし、思考伝播ありにより精神分裂病と診断された。
    2) ○回目の入院(X+○○年○月):カミソリで右手首(本人は左利き)に自傷行為があり、悲観的で希死念慮と幻聴がある。当時の病名は精神分裂病、高脂血症。その後、外来通院は断続的。X+○○年は著しい肥満(90〜92kg)、脂肪肝(GOT51、GPT102、総コレステロール225)などの異常値を示していた。
    3) 今回の再発時の精神症状:X+○○年○月、「テレビで人が死ぬのを見ると自分が殺したと心配になる」、「自分が原因だと皆から文句を言われる」、「地震が起こるのも自分のせい」。不眠で夜、家人を起こす。母として本人が肥満して買い与える服に苦労する。母が買い物に出ても寂しいと言って泣くくせに母に暴力をふるう。家に引きこもって外出を全くしない。体重91.2kg。精神的にもイライラし、たばこを1日30〜50本吸い、たばこの火を自分の手の甲に押しつけたり、母に乱暴を働いたりしていた。

     内観導入には時間をかけた。屏風からの出入りを容認したり、本人の希望にしたがって2〜3時間〜1日の休みを与えた。それなりに内観の深まりを得て、笑顔の多い明るくやさしい表情に変わった。「身体内観」や「幸せの発見」が有効であった。
     父、母、弟へのうらみが心からの感謝、反省とおわびに変わった。これから、家事を手伝うこと、たばこをやめること、暴れないこと、自分から話をすることを決意する。退院後は自宅に帰ると母への甘えや暴力が出るのを本人自ら恐れて、病院近くの共同住居に住むこと、そこからデイケアに通うことを決意できた。退院後本例は共同住居からデイケアに通い一時風邪を引いたが、退院後○ヵ月を経過して予後良好である。この症例は第93回北海道精神神経学会(平成10年)に一部報告済みである。

  11. おわりに

     精神分裂病に集中内観療法を試みるに至った経過と、そのための設備と導入の工夫、記録の重要性、指導者の組織とあり方などを記した。この方法によって、当院では今日まで精神分裂病圏で集中内観療法を受けた症例は約250例に達するが、危険を伴う問題行動や症状再燃を呈した症例は皆無といってよい。うつ病でパニック状態になった1例と抑うつ反応(詐病?)で自殺をほのめかすので中止した2〜3例にすぎない。方法を誤らなければ極めて安全な治療法と言えよう。
     今までの経過から、幼児期からのPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)や複雑性PTSDの合併している症例に有効性が高いと考える。
     今後、内観の有効性をさらに高める方法、奏効の機序などを1症例ずつ確認し、長期予後を調べ、検討していきたい。さらに改善工夫を試み、より広い対象により高い効果を求めていきたい。
     とくに精神分裂病の内観有効例では、人格や病態のどの部分に、どのように奏効し、かつ無効であったかを吟味していきたい。内観療法からみた精神分裂病の病態、構造、生活史、人格形成面、心因反応部分などから一例一例論じていく必要がある。ひいては、精神分裂病圏に対する内観が適切に一般化、普遍化され、精神分裂病者をはじめ家族、さらに精神医療従事者への援助になることを祈っている。


※プライバシー保護のため、症例について多少の加工をした事をお断りします。

文 献
  1. 波多野二三彦:内観導入序説。第7回日本内観学会大会論文集、16-19、1984.
  2. 長谷川京子、加賀万仁、工藤秀子:不登校児内観療法中の看護者の援助。第14回日本内観学会大会論文集、261-263、1991.
  3. 池田国義:精神分裂病の内観療法。第11回日本内観学会発表論文集、55-59、1988.
  4. Judith, L. H.:Trauma and Recovery.中井久夫訳:心的外商と回復。みすず書房、東京、1996.
  5. 工藤秀子、加賀万仁、大西祥子:看護者からみた食行動異常の22歳女性の内観療法、第14回日本内観学会大会論文集、197-199、1991.
  6. 栗本藤基:分裂病者の母親に内観を施行しての一考察。第3回日本内観学会発表論文集、63-64、1980.
  7. 栗本藤基:被害妄想患者と取り組んで。第8回日本内観学会発表論文集、120-122、1985.
  8. 真栄城輝明、長井真理:精神病への内観の適応について−家族構成員への接近−。第4回日本内観学会発表論文集、35-36、1981.
  9. 森定諦:内観療法の適応と限界について精神病の立場から−精神分裂病群に対する内観療法−。第3回日本内観学会発表論文集、17-19、1980.
  10. 根本忠典:内観の中断を要求した不登校生に対する父的・母的かかわり。耕仁会札幌太田病院学術研修発表会論文集、178-180、1997.
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  13. 太田耕平:シンナー等有機溶剤乱用者の実態と治療−その42例の検討−。日本医事新報、3049;43-50、1982.
  14. 太田耕平:少年非行の背景と治療。北海道医報、581;10-16、1984.
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  17. 太田耕平:薬物依存の個人精神療法−内観療法の経験を通して−。薬物依存症の治療法入門、平成4年度厚生省麻薬等対策総合研究事業報告書、30-52、1993.
  18. 太田耕平:不登校・非行等の問題と相談援助の問題。児童福祉論、152-155、中央法規出版、東京、1994.
  19. 太田耕平、友田龍多、大西祥子他:精神分裂病者の集中内観療法の有効性−その1症例と方法を厳密に検討して−。第18回日本内観学会大会論文集、106-111、1995.
  20. 太田耕平、友田龍多、大西祥子他:精神分裂病者の集中内観療法の有効性−20年間に入退院を10回繰り返した症例の検討−。第19回日本内観学会大会論文集、8-9、1996.
  21. 太田耕平:増加する心身症とアルコール・薬物依存への対応−集中内観療法の有効性−。日本醫事新報、3777、44-49、1996.
  22. 太田耕平、杉山善朗:病院内での集中内観療法:日本保健医療行動科学会年報(1)。12;39-50、1997.
  23. 太田耕平、大石東香、安岡理恵子他:精神分裂病者の集中内観療法の有効性−病識と家族間の信頼関係の形成に関する検討−。第21回日本内観学会大会論文集、43-44、1998.
  24. 佐藤真理子、佐藤士郎、後久清子他:音楽療法と人間の共感を求め、看護の視点を変えて−水中毒と食行動異常を合併した妄想症の著効例−。精神科看護、56;46-51、1996.
  25. 鈴木嘉彦、加賀万仁、友田龍多:内観が著効した登校拒否高校生とその心理力動。第14回日本内観学会大会論文集、264-266、1991.
  26. 玉越琢摩:分裂病症状のため登校できなかったAさんへの薬物および内観療法併用の効果。北海道内観懇話会ニュース、6;4-5、1994.
  27. 友田龍多、大西祥子、太田耕平他:集中内観を中心にした短期入院治療を受けた不登校生徒について−特にライフタスクの観点から−。北海道児童青年精神保健学会会誌、10;25-35、1996.
  28. 上野ミユキ、大西祥子、大石東香:集中内観260名(1995年)の声−院内内観懇話会の体験を共有することの意義−。第19回日本内観学会大会論文集、16-17、1996.
  29. 上野ミユキ、大西祥子、太田耕平他:集中内観後の家族療法が奏効した分裂病青年の事例。第21回日本内観学会大会論文集、41-42、1998.
  30. 上野ミユキ:内観療法の試み−看護者としての役割−。ナースデータ、14;99-109、1993.
  31. 内海宏一郎、加賀万仁、工藤秀子:内観が有効だった覚醒剤乱用少女の一例。第14回日本内観学会大会論文集、234-236、1991.
  32. 吉本伊信:内観の実際。内観研修所、1961.