1992年に内観療法等を行った不登校高校生9例の予後について

大西祥子、友田龍多、上野ミユキ、太田耕平

第16回日本内観学会大会抄録;13,1993


  1. はじめに

     高校生における不登校の大多数は、中途退学にいたり、その後の人生に多大な影響を及ぼすとされ、かつ有効な治療法もなく暗中模索しているのが現状である。しかも不登校・中途退学の生徒が年々増加し、社会問題となっている。昭和63年の統計では、1年間の中途退学者約12万人中8%が不登校による中退であるという報告もあり、約1万人がこれに該当している。
     このような社会状況を反映しているのか、1992年に筆者が心理士としてかかわった不登校の症例が例年になく多い印象を受けた。彼らは「学校を継続する自信がない」「学校が面白くない」との理由で、生来のヴィジョンもないままに退学を希望していた。そこで、思春期症例に対する当院の治療法である、内観療法とカウンセリングを併用した症例で、かつ筆者が心理士としてかかわった9例について予後調査を試みた。かれらの特徴と、内観療法の有効性を検証したので報告する。


  2. 対象

     対象(表1)は1992年に受診した高校生9例、初診時高校在籍者7例、未就学者1例、中途退学者1例であった。年齢は15〜17才、男女比は3:6であったがこれは筆者が女性であることによるもので女性のほうが不登校が多いとは言えない。
     不登校の状況についてみると、高校在籍者7例全てが1年から数ヵ月に渡り2・3日〜1週間の断続的な不登校があり、初診日前に1週間から1カ月の連続不登校状態となり受診に結びついていた。大多数が進級のためには欠席日数も限界であった。断続的な不登校に先立ち頭痛、腹痛、発熱、不眠、起床困難、意欲の低下等の心身症は全症例に認められ、諸検査を受けたが器質的な異常所見はなかった。そして初診時には退学後のヴィジョンがないままに中途退学を希望していた。
     次に家庭的背景(表2)をみると、母子家庭が1例のみで、残り8例は両親健在の核家族であった。同胞については一人っ子が一例のみで、8例は兄弟姉妹を有しているが、第一子が7例、第二子が2例で、第一子に不登校の発生率が高く、他の統計とも合致している。その他母子家庭の一例を除き、父親は安定した職業を有し、経済的にも恵まれ、教育熱心という表面的には問題のない平均的は家庭であった。9例中2例においては子の問題行動発生後、環境を変える目的で、他県からS市に転居し、父はそのために転職までしていた。一人の不登校生が家族全体に深い苦悩を及ぼしていることが窺われる。

    表1症例の概要(初診時
    症例性別年齢学年不登校期間退学願望主  訴心身症状
    16 未就学3ヶ月
    (1年間自閉)
    未就学 家庭内暴力
    不安
    発熱、肩こり、身体の痛み
    不眠・頭痛
    17 高 2
    退 学
    2ヶ月
    (7ヶ月自閉)
    退 学 wrist cut
    抑うつ、視線恐怖
    不眠・吐気
    17 高 3断続的あ り 抑うつ
    不安
    発熱、倦怠感
    不眠,食欲低下
    16 高 2断続的あ り 抑うつ
    いじめ
    肩こり、頭痛
    不眠
    17 高 3断続的少々あり wrist cut
    抑うつ、暴力+
    頭痛、腹痛、肩こり
    イライラ
    16 高 2断続的あ り 非行、怠学
    異性交友
    頭痛、食欲減退
    16 高 2断続的あ り 抑うつ
    昼夜逆転の生活
    頭痛、不眠、イライラ
    15 高 1断続的あ り 家庭内暴力
    怠学
    腹痛、イライラ
    *難聴
    16 高 1断続的あ り 抑うつ、不安
    暴力
    不眠、頭痛、
    希死念慮


    表2家庭的背景
    症例診  断家庭状況兄  弟 経済状況父の職業/母の職業備  考
    家庭内暴力母 子第1子(弟1) 不 良−−−   −  
    Wrist cut両親健在第1子(妹1) 良 好自営業  パート他県より転居
    抑うつ・不安第1子(妹2) 会社員   −  
    抑うつ第1子(一人っ子) 会社員  パート 
    Wrist cut第2子(兄1) 会社員  パート 
    非行・怠学第2子(姉1) 会社員  パート他県より転居
    抑うつ第1子(妹1) 会社員  自営業 
    家庭内暴力第1子(弟1) 会社員   −  
    抑うつ・不安第1子(弟1) 公務員  パート 


  3. 治療経過及び予後について

     入院期間(表3)についてみると、症例1・2は入院が長期に渡っているが、症例3は外来のみ、症例4〜9の入院期間は10〜17日と当院の思春期症例の治療方針に即した経過を辿っている。

    症例1:10代後半 女子。
     
    家庭内暴力と不登校を主訴として受診したケースであるが、母親自身も自殺未遂をはかるなど、家庭内病理の深いケースである。2回の内観にも拘らず母子関係は好転しなかったが、「学校」の重要性を悟り、病院から登校することとなった。この症例は初診時未就学であったが、高校入学援助により現在2年生に進級した。長期的な関わりの中で精神的にも成長して現在は自立しつつある。

    症例2:10代後半 男子
     
    不登校・リストカットの不適応行動の後高校を中退し、環境を変える目的でS市ヘ転居し、自ら受診してきたケースである。内観療法とカウンセリングで安定してきた時期に、母親から登校を促され暴力的になるなど、一時症状悪化のため再入院となり、その後再び自閉的となり治療中断している。

    症例3:10代後半 男子。
     
    不登校・抑鬱を主訴として受診、外来で服薬とカウンセリングで経過をみていた。症状が落ち着いた段階で内観を勧め、父と子が一緒に他施設で内観を受けた。その後自発的に患者のみ2度目の内観を受け安定している。

    症例4〜9
     
    症例4〜9の受診理由は、不登校の他、リストカット・家庭内暴力・非行・怠学・抑鬱など多様である。これらの4〜9の症例は、短期間の入院・集中内観後、登校状況は極めて安定している。ただし症例8は重度の難聴にもかかわらず、親の強い希望で普通高校に進学したものの、コミュニケーションがとれず精神的発達も遅れ家庭内暴力を呈した症例で、現在もカウンセリングを継続している。


表3治療経過及び予後
症例入院期間内観回数と深度親子内観カウンセリング家族療法予  後服薬状況
登校状況問題行動の有無
@3ヶ月
A8ヵ月
2回(±)
拒 否
+++継続中++母家庭内暴力
@17日
A30日
1回(±)母子(+) +++中断++母自  閉
 他施設
2回
父子 +++++父母
13日1回 (+)父母 +++++母
Nsが担当
16日1回 (+)父母(+) +++母
17日1回 (±)父母(±) ++++母
10日1回 (±)父母(+) +±母
14日1回 (±)父母(±) +++継続中++父家庭内暴力±
11日1回 (+)父母(+) +++++母



表4思春期症の入院治療方針



   ※ 子の内観中、親も自宅で内観テープの聴取・記録内観を指導される。
   ※ 退院後1〜3ヵ月間は週に1度または2週に1度、カウンセリングに通うよう指導される。



  1. 内観療法を中心とした短期入院治療方針

     さてここで症例4〜9にみるような、内観療法を中心とした入院治療方針(表4)について報告する。多くの症例で、まず家族からの相談があり、その時点で内観療法について資料とともに説明し、親に充分に理解してもらう。そして患者を連れての初診となり、CT等諸検査と心理検査の後、即入院が医師から患者に伝えられ、心理士が紹介される。
     患者及び親は同室にて内観テープを聴取し、夕方には患者のみ“母に対する自分”のテーマで内観を開始する。その後父・兄弟姉妹・祖父母・先生・友人などの身近な人に対する自分・嘘と盗み・養育費の計算を含め5〜6日かけて調べ、最後に再度母を調べて内観を終了する。内観の方法はできるだけ吉本原法に忠実に行っている。
     一方、親は自宅で記録内観を指導され、それをもって6日目の午後より母子内観とボディーワーク、7日目には父子内観とボディーワークを実施して集中内観は終了する。
     そして8日目より院内から3〜6日間登校し、その後1週間外泊として経過観察し、問題がなければ退院となる。ただし患者本人には、1〜3ヵ月は仮退院で、不登校等の問題行動が生じた場合は再入院、再内観であることが告げられる。退院後1〜3ヵ月は外来通院としカウンセリングでフォローアップし、合わせて家族療法などで家族調整をはかっている。
     集中内観中の日課については、6:30より内観開始、7:30より朝の運動療法に参加、部屋の清掃などをして、1時間〜1時間半毎の面接が午後6時まで続けられ、以後9時まではその日の内観テーマをレポートに記載してもらっている。


  2. 結果・考察

     受診時すでに中途退学をしていた症例2を除き、8例が登校を継続していた。予後が良好であった理由として、

    第1に、高校生の不登校には、内観療法が効果的であった。

    第2に、断続的に休んでいる段階での早目の受診者が多かったことが挙げられ、早期治療の大切さが示された。

    第3に、家庭環境も良好で、子が問題行動を起こしたことに対して、親自身も治療意欲が高く協力的であった。

    などが、良い効果を挙げることにつながったと思われる。
     次に、不登校の原因については一概に言えないが、高校生活が魅力に乏しく、容易に目的を失いやすい状況が背景にあるように感じられた。個人的要因としては、“良い子の息切れ”“親の過剰期待”“両親の不和”“アイデンティティーの危機”など多様である。また恵まれた環境で、子の欲求不満耐性の全般的低下も関係しているように推察される。
     また高校側に、ほとんどこれらの生徒に対する指導がなされておらず、生徒の側でも期待していないという現実がある。高校進学率が95%を越えていることを考えれば、高校でもっと積極的な取り組みが望まれる。
     次に内観療法の効果について、太田の「内観療法の奏効機序」に照らしてみると、多くの症例で親への強い不信感と絆の喪失、思考の狭窄が生じている。集中内観をすることにより、親に対する認知が修正され、切れかかった絆が修復される。そして親に感謝の念を抱き、これ以上親に心配をかけたくないと思い始める。また相手の立場で調べることを求められるので、自己中心的な発想が転換させられ、広い視野で客観的に考えられるようになる。その結果、高校に通うことの必要性を認識するようになる。さらに1週間にわたる瞑想は、集中力と自信をつけさせ、自律神経も調整されるので、心気症状が消失するなど、広範囲にわたる効果が得られるのである。
     周囲からの愛情に気付くことにより、表情は柔和となり、意欲も増し登校へとつながっていく。そして登校しながら自分の将来の道を見つけていくように、カウンセリングでsupportされるのである。
     問題点としては、症例1・2に見るように、病理性の深いケースでは、長期的な取り組みが必要である。もう1点として内観導入に際し、患者の同意が得られないことが多いことである。しかし最近では、事前に内観療法の説明をし了解を得るように努力している。最初は抵抗していた患者でも、医療機関の保護的で手厚い対応と、内観面接の礼節のある対応に接し、次第に抵抗は薄れ、内観に集中することができるようになる。内観終了時には見違えるほど明るく生き生きと変化し、内観してよかったと感想をもらすことが多い。
     機を逸すると中途退学となり、自閉的になっていく子を早期に治療し、再度前向きな姿勢で歩ませていくことが大事であると考える。その治療法として、内観療法が極めて有効であることが確認された。今後も様々な工夫を重ね、治療効果を上げるよう努力したい。


※プライバシー保護のため、症例について多少の加工をした事をお断りします。

文献
  1. 小林 剛:高校中退。有斐閣新書。東京。1987
  2. 小泉英二:登校拒否。学事出版。東京。1988
  3. 小泉英二:続登校拒否。学事出版。東京。1988
  4. 水野昭夫:葛藤する思春期。日本評論社。東京。1989
  5. 太田耕平:内観療法の奏効機序。第14回日本内観学会大会論文集:21−31。1991
  6. 鈴木義彦、加賀万仁、友田龍多、他:内観が著効した登校拒否高校生とその心理力動。第14回日本内観学会大会論文集:264−266。1991
  7. 吉田 二:思春期・こころの病。高文研。東京。1991