不登校・家庭内暴力に著効した内観療法
−家族内観で長男の内なる声に気づいた父親−

平成11年度耕仁会職員学術研修発表会論文集:21〜25、1999
内観療法課 看護部
上野ミユキ・原田良一・種畑美紀・新妻弘恵
(第6回思春期・青年期精神科看護抄録集:39〜42、1999)


I. はじめに
 不登校、家庭内暴力など問題行動の児童・青年期の治療の一つに内観療法がある。昭和49 年以来、当院ではこの療法に長く関わってきたが、その有効性の高さには十分に満足して いる。その一つは、本人のみでなく家族自身の内観への働きかけ、さらに家族間の信頼関係 回復の効果も高く、家族療法的な側面も多い。
当院の治療方針「十段階心理療法」1)に基づいて行われている内観療法について考察する。

U 研究の目的
 内観療法と併用する家族療法により、患者と家族の相互関係と心が望ましい方向に改善し た事例を、論文にまとめ精神科に関わる看護職にこれらを伝えることが目的である。

V 内観療法の技法
 内観法は精神修行法の技法として誕生したが、現在では工夫改善され、医療分野では内観 療法としても承認を受け、広まりつつある2)。内観法は集中内観と日常内観(内観日記)、 さらに最近は行動内観などの方法がある。当院では、昭和49年から本法を採用し、工夫改 善しつつ今日に至っている。

1.集中内観の目的・方法・テーマ・効果
1)目的:
これまでの誤った認知や誤った自己像に気付き、それを修正し、過去を正しく 理解する。安心感、自信を持ち積極的に生きれるようになる。
2)方法とテーマ:内観者が落ち着くように、屏風で囲まれた静かで薄暗い空間に楽な姿勢 で座る。イ)お世話になったこと ロ)して返したこと ハ)心配、迷惑をかけたことを、 母・父・兄弟など身近な人に対し、具体的事実を調べる。小学校低学年、高学年、というよ うに年齢を区切り、順に現在まで調べる。
3)効果:父、母、兄弟姉妹、友人さらに自分の良い面を見ることができる。安心し自信が 湧き、情緒が安定する。対人関係が好転する。意欲が向上する。

2.当院における集中内観療法の実践
1)対象者:不登校、家庭内暴力、シンナー乱用、心身症、抑うつ状態、薬物依存(アルコ ールも含む)、精神分裂病の安定期など。
2)看護者としての留意点
a.集中内観前:生まれてから現在まで自分に関わった主な人々や年代を記入し自分史の作 成を指示する。家族に一週間は面会や電話はできないことを伝える。
b.集中内観オリエンテーション:日課、6時起床、6時30分内観開始、19時までの1〜 2時間ごとに、1回5〜10分程度の面接を1日8〜10回行う。19時以降はその日のまとめ のリポートを書いてもらう。
c.集中内観中:室温、点灯などの確認を行う。屏風内に配膳し、食事中も内観するよう声 かけをする。検査は、原則として採血など短時間で終了するものに限定する。
d.集中内観後の対応:集中内観で素直になった今の気持ちを家族に伝え、併せて相互理解、 信頼感の回復、将来の目標設定などのため家族内観とボディー・ワーク3)を行う。

(1)家族内観とボディー・ワーク
 過去の陰性感情を消去・軽減し、今後の明るい決意や希望を述べることを目的とする。家 族は事前に内観のビデオ鑑賞、テープを聴く、患者の記録を読むなどした後参加する。静か で落ち着いた部屋で、表に示した内容を約2時間かけて家族と一緒に行う。終了後感想を書 いてもらう。
 これに際し家族が留意すべき事柄は以下の通りであり、事前に伝えておく。
(a)患者の集中内観の労をねぎらう(b)患者を責めたり叱らない(c)マイナスの過去に こだわらず将来に向けての目標など明るい話題で話し合う。この際患者に急な変化を期待す るのではなく、長い目で見る。
(2)患者の目標設定
 内観日記、院内学習会参加、デイケア、OT活動を促し、目標が行動に移せるようにする。

3.記録内観(内観日記)
目的・方法・効果・看護者の留意点
1)目的:毎日規則正しく記入することで、勤勉に生きる良い習慣を身につける。記入しな がら自分の過去を振り返り、反省する。今後の明るい目標を繰り返し記入することにより、 目標が明確になる。
2)効果:内観が深まると自らの自己中心性や周りの人々の愛に気づく。その結果、心の問 題や症状が解消したり軽減する。
3)集中内観と同じく「小学校1年〜小学校3年までの母に対する自分」というように、各 テーマを年代ごとに調べノートに記入する。ただし内観日記は1日に一つの年代で調べる。 その他に「今日1日の幸福の発見」も記入する。この効果は不安や不満を解消し、感謝の気 持ちで喜びながら生活できる。
4)その日一日のみの内観を記録させることも有効である。
5)看護者の留意点:有効性が高いことから、長年の当院の治療方針であることを理解して もらい、毎日の提出を確認する。記録内観で書かれた内容から、患者の情報を得、話し合い のきっかけにしたり、患者の気持ちを理解し治療に役立てていくことができる。

IV.事例紹介:10代後半男性(以下A雄)40歳代前半の両親、中学生の弟の4人家族であ る。性格は明るく優しかったが、最近わがままと粗暴さが目立って、X年の末に初診した。 診断名・家庭内暴力。入院して集中内観、家族内観を実施した。X+1年初め、専門学校に 行くという目標が見つかり、さらに規則正しい生活態度が身に付いたので治療を終結した。
 入院までの経過:X年初め高校中退後、昼夜逆転の生活となり親が注意すると大声を出す。
壁をたたき穴をあける、母親に暴力を振るう、電話代が高額となるなどの問題行動を示した。 困り果てた父親が「家庭内暴力」に治療効果のある内観療法と当院を知った。早速A雄を入 院させて、7泊8日の集中内観を体験させ、最終日に両親が来院し、家族内観を実施した。
 A雄の集中内観のテーマ
第1日(日):母 第2日(月):母
第3日(火):父 第4日(水):弟
第5日(木):養育費の計算
第6日(金):先生
第7日(土):身体内観(足・手・目)
第8日(日):集中内観で気づいたこと
 A雄のリポート
「内観前は一人でここまで成長したと自分勝手に思っていたが人間一人では絶対に生きられ ないことがわかりました。入院させてくれた両親に心から感謝します。」
家族内観:背中合わせのままA雄が生まれてから現在まで楽しかったことを3名に順に話し てもらう。A雄が内観中に書いた記録を読む。ボディー・ワークではA雄と父親が背中合わ せのまま前後、左右に動いたり、相撲をとる。A雄と母親が向かい合い手をとり前後、左右 に動く。肩叩きをする。


図2 両親とA雄が背中合わせ



 父親のリポート(家族内観で気づいたこと)
「あわせた背中からぬくもりが伝わり、相撲を通して逞しくなった息子の存在を改めて実感 した。私は、内観がいかなるものか、まだ十分にわかっておりません。しかし、息子と共に 自らが変わらなければ、何の前進にもならないのだということは理解できた。『仕事』を大 義名分にして、息子のもっとも多感で大切な時期に父親不在であったことを、息子の文中に 指摘されたことは大きなショックであった。父親とはただものを買い与えるだけの人であり 息子の心の中では希薄な存在であった。どうしてこうなる前に十分な努力をしなかったのか、 『息子の内なる声』に耳を傾けられなかったのか悔やまれる。」
A雄のリポート(家族内観で気づいたこと)
「家族内観を終わって正直なところ、ほっとしている。会って最初に親から聞いた言葉は『申 し訳ない』と、この病院に入れたことについて謝ってくれた。僕は入院したころムカつくと 思っていたが、今は入れてくれてよかったと思っている。なぜなら自分が少し成長したと思 える。だから謝られたとき『ありがとう』と言い返した。すると親の方でビックリしていた。 家族内観で背中合わせになり、前後左右に動いたり、ちゃんと向かい合って話しをした。今 まで忘れていた親のあたたかい気持ちが伝わりうれしかった。今までの僕の行動を考えると、 最悪の子供だった。親の気持ちを思うと悲しい。でも集中内観をして悪い子という『から』 からはい出して、素直になれたと思う。」

VI. 考察
1.村瀬は4)、「発育途上にある児童・青年に関わる場合、養育・教育も必要であり、さら に交流は言語のみでは不十分で様々な交流手段の工夫が必要」と述べている。
 本事例にあてはまると思われるのは、家族内観で内観中にA雄が書いた文章を読んだり、 父親とのボディー・ワークで背中合わせで歩いたり、相撲をとったりしたことである。父親 はこれらを通して、「仕事中心でA雄の心の中で希薄な存在であった。」と気づいた。そして、 「今度はA雄ともっと接し、内なる声に耳を傾けたい。」と話した。
 A雄は家族内観後のリポートで「背中合わせになり前後左右に動いたり、ちゃんと向かい 合って話しをした。今まで忘れていた親のあたたかい気持ちが伝わりうれしかった。」と述 べた。
2.村瀬は4)、「治療者は内観者が自分自身で課題を何とか乗り越えてきたのだというよう な自尊心が持てるように働きかける必要がある」と述べている。これを筆者の内観面接での ことから述べる。
 A雄が自分の過去の行動を振り返り、心の深い部分に押し込めていた「万引きしたり母の 財布からお金を盗んだ」ことなど素直に話してくださった。このとき、全面的に受容し「よ く勇気を出して話してくださいました。」とねぎらいの言葉をかけて、態度でも表した。そ してさらにその時の気持ちや、情景を思い出すように伝えた。これに対しA雄は、「自分の 思い通りにならないと喧嘩したりして心の中の「モヤ」を消そうとした。でも「モヤ」みた いなものは消えずどんどんたまっていった。内観するとこれが消えた。これは自分の自信の なさや、弱さだと気づいた。すると自信のようなものがでてきた。」と述べている。 過去 のわだかまりを解きほぐし、清々しい気持ちになったとA雄自身の言葉で語られた。自信・ 自尊心にもつながったと思われる。

VII 結論
 当院での集中内観療法は、毎週8名前後の患者に施行している。はじめの1〜2日間は、 多くの患者が不安、不満、緊張などを持っている。4日目を過ぎると内観にも慣れ、表情や 話し方もしんみりとした口調に変わる。
 これまでの自分がいかに周囲の人々に助けられてきたかに気づく。そしてこの人々に「心 から詫びたい」と懇願したり、「もっと早くに集中内観をしていれば・・・。」と泣き崩れた りする。このように僅か一週間で、憎んできた家族への気持ちが感謝に変わる、など大きな 変化が表れる。

 看護者は、短期間で大きく改善する心の過程に立ち合い、この上ない喜びと責任を感じる。
 内観はこのように治療効果のある心理療法だが、とり入れている医療機関が少ない。その 理由として以下の5点と考えられる。
1 関わる職員自身が原則として一週間の集中内観を体験していること、これが現在はなか なか困難である。
2 早朝から夜まで、13〜14時間にわたる長時間の関わりが必要なこと、現在の勤務体制 では無理がある。当院では、現在14名の内観指導者でカバーしている。
3 有効性が高いにも関わらず、医療者に知られていない。医師や看護婦の養成期間中に教 育されてない。
4 医療点数化されておらず、経営的にも赤字である。
5 民間で開発された方法であるため、優れているが、なかなか光が当たらない。
従って医療機関が、その高い有効性を熟知して治療方針として取り組まないと実施できな い。
 集中内観療法は、上記の理由から医療機関で実施が困難でも、記録内観はノート一冊で可 能である。当院もある期間は記録内観が中心になされ、それなりに効を奏していた。記録内 観は簡単にできるので、集中内観の前及び後の日常内観の方法として優れている。この記録 内観で精神的な健康が保たれてよい看護ができるので、多くの看護者に是非やってほしいと 願っている。

尚、本文はプライバシー保護等の点より一部変更されておりますが、ご了承下さい。

引用文献
4)村瀬嘉代子:総合的アプローチに短期集中内観を適用する試み、第18回日本内観学会大会論文集,p28,1996

参考文献
1)太田耕平:幼児から高齢者までの心の発達十段階心理療法〜自信の回復と幸せな人生のために〜
  第六版,医療法人耕仁会札幌太田病 院,1997
2)川原隆造:内観療法,新興医学出版社,1996
3)グラバア俊子:ボディーワークのすすめ〜からだと自己発見〜,創元社,1991
4)村瀬嘉代子:総合的アプローチに短期集中内観を適用する試み,第18回日本内観学会大会論文集,1996
5)上野ミユキ:医療機関での内観〜ボディー・ワークを含む家族内観の試み,第二回内観国際会議記録,1997