家庭内暴力や非行少年への内観的かかわり

−家族内観を併用し著効した症例−

平成11年度耕仁会職員学術研修会論文集:8〜11、1999
急性期治療病棟 看護部
○斉藤由美恵 中川小弓 種畑美紀


I.はじめに
 「思春期は、子供から大人への移行期であり、その時期を反映してさまざまな特徴と問 題がある。両価性(アンビバレンス)・過敏性・自己顕示性があり、不安定な時期である。 こういう時期を渡りきるには親や大人、仲間などから認められ評価される必要があり、不 安定になればなるほど自己顕示的となり、それがしばしば逸脱して問題行動にもなりかね ない」1)と言われている。最近、当科でも思春期の症例が多く、同様の特徴と問題をかか えていることが多い。

 今回、母親の入院を契機に日常生活が乱れ、問題行動(恐喝事件)を起こし、さらに母 親に暴力を振るうA氏に対して、内観的かかわりと集中内観療法を行った。その結果、以 下の効果を得られた。(1)自己洞察を通して被愛事実の発見と親に対する感謝の気持ちが出 現。(2)その後の他の治療法や役割に参加した健全な自己受容を達成しつつある。(3)自分に 良心あるいは道徳的機能を果たさせるもう一人の自分(super-ego)の形成がなされた。ま た(4)子供の好ましい変化を見た母親自身も集中内観を行い、自分の人生を省み、親として のあり方を反省し、A氏との基本的信頼関係が形成された。

 この事例を通し、思春期看護での内観的かかわりと特性を踏まえた病棟内生活での役割 づくり、家族支援の重要性を学んだので報告する。


II.事例紹介
患者:A氏 10代後半 男性
診断:家庭内暴力
家族構成:父・母・A氏の三人家族
生育歴:A氏は先天性の心疾患があり、兄弟もいないため、不憫に思った両親は寂しい思 いや不自由をさせないよう、幼児期より玩具を買って与えたり、望むことは無条件に受け 入れ育てた。特に母親はA氏に対して過保護の程度が強かった。父親は調理師で、時間的 にA氏と接する機会が少なく、母親も芸術の教師をしており、A氏は小学校低学年まで母 方の祖父母に預けられ、世話を受けていた。A氏は元来活発な性格で、スポーツが得意だ った。小学校ではよく友人と喧嘩したり、学校の先生に反発することがあり、中学校に入 ってからも同様でトラブルや問題行動も多かった。
入院までの経過
 X−1年(入院年をX年とする)に母が乳癌で入院し、その頃よりA氏の日常生活が乱 れはじめた。同年、恐喝事件を起こし高校退学し、1ヶ月間少年鑑別所に入った。保釈金 を両親が準備し保護監察が付いて出所した後も、依然として自分の行為を反省する様子な く、夜遊びや女性を家に呼び、生活態度は良くならなかった。高校は卒業したいという気 持ちがあり通信高校に編入したが、通信高校の課題レポートを母親にやらせようと暴言や 暴力を振るい、自分は友人と遊び歩いていた。父親は恐喝事件以降、A氏の変わらぬ態度 に諦め、見放した。このような状況を心配した保護司が当院を母親に勧め、母親が来院し 相談に来た。外来医は父を呼び、父の協力の必要性と三週間の治療計画(ケアプラン)を 説明し、X年半ばに母親付き添いのもとA氏当科入院となった。

III.看護の展開
第I期 入院理由を理解せず、落ち着かない時期
 入院前より外来受診で処方された向精神薬を、母親がA氏に勧め服用していた。その副 作用と思われる倦怠感などの身体的症状を訴え、その治療のために入院が必要との説明を 納得し、急性期治療病棟へ入院した。しかし、入棟後より落ち着きなく、他の若い患者に 付きまとうなどの迷惑行為が見られた。また、荷物を持ってきた両親や看護者に対して横 柄な態度と興奮・攻撃性があり、暴力行為の危険性が増したため、精神保健指定医の主治 医の指示で保護室入室せざるおえなかった。A氏は、「親がこの部屋を見たら、きっと出 してくれるはずだ」と叫んだ。

第II期 集中内観による被愛体験獲得の時期〜自主性へと変化した時期〜
 看護者は、食事介助やマッサージを行いながら、「両親がどんな思いであなたのことを 心配しているか」「今までの自分の行為はどうだったのか」を問いかけ、自分自身の行動 を振り返るよう指示した。また、保護室内の時間と空間を有益に使い健全な心の活動を伸 ばすために、壁に人生訓などの標語を貼った。A氏は、「もう、まじめにします」と泣き ながら答えたため、内観テーマ“0〜6才までの母親に対しての自分”を調べるよう指示 した。すると「入院している時、看病をずっとしてくれた」「幼稚園で悪いことをした時 にかばってくれた」「幼稚園の頃もめごとを起こした」「いろいろ迷惑をかけた」など自 己を振り返るようになった。
 翌日より正式な集中内観療法を開始したが、A氏は保護室へ入ったことに対しての不満 が強く、集中内観には十分に集中できなかった。主治医より保護室および集中内観療法の 必要性の説明と、看護者が十段階心理療法テキスト使用しての“精神的健康”についての 説明と、集中内観をやり遂げるよう励ました。その結果、「本を読むと分かりやすい」「内 観をしたら保護室出れる?」と表情を和らげ、納得した。
 その後、A氏は集中内観に真面目に取り組むようになり、「してもらったことや迷惑が たくさんあって、して返したことがかなり少ない」「母は僕がいつか真面目になることを 信じていることに気づいた」「父と話すことが少ないことに気づいた」「これからはして 返せることが1番多くなるよう頑張ります」「将来、立派な人間になります」と、自己の 反省がみられ、礼儀正しく、表情や言動も穏やかになった。
 家族内観時、A氏は両親を見た時、保護室の辛さを泣きながら語り、母親は「よく、頑 張ったね」と声をかけていたが、父親はほとんど無言だった。母親も泣き、「自分の育て 方が悪かった、私も内観するから」とA氏に話すと、「母さんは悪くない、体弱いから内 観しない方がいい」と情緒的な交流がみられた。父親はボディーワークを通してA氏との 心のふれあいの大切さを理解していた。

  第III期 自主性を尊重し自信と役割意識を高めた時期 〜自己肯定感達成の時期〜
 集中内観終了後一般病室へ移った。集中内観で得た自主性を尊重し、さらに、自己肯定 感を高める目標で、規則正しい生活習慣をつけるように声掛けと、毎日、夕方に一日の反 省(日記)を行った。A氏は「高校を卒業し美容師になりたい」と具体的な目標を語った。  看護者は、病棟治療プログラムの中に通信教育の自己学習や英語の教師による学習指導 などをとり入れ、A氏と共にプログラムを作成した。さらに、それらの取り組みについて、 ウォーキングカンファレンスやその時々の場面で肯定的な評価や励ましを与え、意欲を燃 やし自主的に取り組めるような支援を行った。その中で、困っている他患者の手助けをし たり、高齢者の世話をするなどの変化が見られ、「退院後、母を手伝うため、配膳当番を したい」と自ら奉仕活動を希望した。配膳当番は毎日休むことはなく、時にはメンバーを まとめる役割となり、退院まで責任を持ってやり通した。  入院中、面会に訪れた両親は、A氏の改善した日常生活態度を知り、精神的に成長した 姿を認めた。母親は、自ら受けた集中内観の中で継母に対して、被愛事実を発見し、親と してのあり方を見直した。「子供のことを全く信用せず、何でも自分の思い通りにしよう としてきた」「心配のあまり干渉しすぎてしまった、これからは1人の人間として尊重し ていきたい」と述べ、A氏に対する親としてのあり方を反省した。父親はその様子をみて 自身の責任を痛感し、家族を大切にしていきたいと述べた。

IV.考察  入院時には、入院前の問題行動(恐喝事件など)や母親への暴力を反省する様子はなか った。そのためか、入院の理由は身体的症状の治療という認識であった。次第に病棟の雰 囲気や母親の態度、看護者に不満を示し、日ごろの横柄な態度と興奮・攻撃性が出現し、 保護室入室に至った。このことは、A氏の今までの両親に対しての誤った認知(自己中心 性と我がまま)があり、保護室入室という状況にもかかわらず、「親がこの部屋を見たら、 きっと出してくれるはずだ」という甘え・依存の言動があったと思われる。

 これについて太田は2)「周囲や父母から遮断することにより、父母への依存が修正され る契機となる」また「母親のもつ分離不安への介入でもある」と述べていることから、ま ず両親から隔離することで両価性の強い時期のA氏に対して依存を断ち、甘えを修正する 必要があると考えた。そこで、看護者が内観的にかかわり、今までの自分の行動をしっか り振り返り両親に対する誤った認知(自己中心性と我がまま)に気付き、自己の現状を正 しく把握し、今までの生き方に新しい認知と反省を成し得た。
 波多野は3)「内観法は自己心理療法といわれるものですから、自己の責任において自己 を洞察しようとする決心覚悟の上に成立する心理療法です。」と述べている。A氏は、保 護室という時間と空間を有益に使いうる場の中で、主治医・看護者・内観担当者の内観的 かかわりと励ましで、集中内観療法を受ける決意ができたと思われる。そして、自己洞察 が深まり、両親へ依存していた自己の反省と被愛事実を発見し、それによる自己の認知の 変化がみられ、感謝の気持ちが出現したのであろう。
 また、家族内観では両親と対面し内観での気付きを素直な言葉で述べた。太田は4)「内 観療法は内観者の表情、情動、思考、行動に好ましい変化を生じ、人への態度も協調的と なる。これらは家族や仲間に容易に知られ、これに対応する相補的行動を家族や仲間に起 こさせる」と述べている。A氏の変化を見た母親は、自分自身も変わらなくてはいけない という思いになり、自ら集中内観を受けた。さらに親子の分離を契機に、母もまた、子供 に対する過保護・過干渉が子供の精神的成長を阻害し、甘えや暴力の要因になったことに 気付き反省をした。さらに、家族の問題として共有できたことで、親、夫婦としてのあり 方を改善する必要性に気付いた。
 A氏の心理テストの分析:入院前「エネルギーが活発で何事にも自由奔放であるが、や や感覚的に物事を処理してしまう傾向がある」と評価された。内観後は「責任感や自己に 対する厳しさが強くなった」「面倒見も良く適応力も持ち合わせリーダーシップをとれる タイプ」に変化した。また、「いい子でいなければいけないという感情から自分の気持ち に正直になった」とあり、素直に自己を反省している様子と、正直な気持ちをあらわして いる内容だった。
 内観後、自主性の尊重と自信を伸ばし社会適応性を高めるために、A氏と共に生活プロ グラムを作成し、奉仕活動も勧め、それらの参加を援助し評価していった。それにより、 今まで達成し得なかった自己肯定感を獲得し、その満足と達成感から看護者との信頼関係 がつくられ自己評価を高めた。A氏にとって、これら一連の活動は、これまでの自己中心 的で児的な世界感から正しい社会性獲得への動機づけになったと考えられる。そして、配 膳当番を行う際「家でも母の手伝いができるようにがんばります」と発言した。自己客観 視により生活態度を見直し、被愛欲求が満たされたことによる他愛欲求への移行があり、 責任感のある行動がとれるようになってきた。

V.おわりに
 A氏の背後にある心理・家族背景を理解・受容し、母子分離を含めて家族療法をするこ とは、思春期危機にあるA氏にとって人生目標の設定、家族との基本的信頼関係を形成 し、今後の発達が期待される。集中内観及び内観的関わりが患者と家族の相互理解を深め るために有効であることを学んだ。退院約一ヶ月後での予後調査では良好に家庭適応して いる。今後、外来通院、デイケア通所などで経過を見たい。

謝辞
 本稿を終えるにあたり、忙しい中ご指導、ご協力くださいました太田院長、佐々木看護 長、上島臨床心理士、平山臨床心理士ならびに急性期治療病棟スタッフの皆様に深く感謝 いたします。そして、私たちに看護を見つめなおす機会をくださいましたA氏に深く感謝 いたします。

尚、本文はプライバシー保護等の点より一部変更されておりますが、ご了承下さい。

<引用文献>
1)菱山珠夫他:メンタルケースハンドブック.p74.中央法規出版.1996
2)太田耕平:増加する心身症とアルコール・薬物依存症への対応−集中内観療法の有効性−.
  日本醫事新報No.3777.p47.1996
3)波多野二三彦:内観法はなぜ効くか―自己洞察の科学―.p82.信山出版.1998
4)太田耕平:内観療法の奏功機序.第14回日本内観学会論文集.1991

<参考文献>
1)太田耕平:幼児から高齢者までの心の発達 十段階心理療法―自信の回復と幸せな人生のために―.
  医療法人耕仁会札幌太田病院.1998
2)井上幸子他:看護学大系第5巻.看護と人間
3)日本看護協会出版会.1992