教育プログラム「介護教室4級」についての考察
−入院中の受診者及びデイケア通所者への支援−


平成11年度耕仁会職員学術研修会論文集:132〜134、1999
      
札幌太田病院 第2デイケア部
番場洋明・大谷顕・西村裕子・伊藤聖彦

I.はじめに

 当院では1999年3月から「介護教室4級」の講習が行われた。これは元々、山の手デイケアで 行われていた「介護講座」のプログラムをデイケアのメンバーだけではなく、一般の外来患者や 家族などにまで幅広く受講してもらおうと太田院長の発案から開講にいたったものである。この 講習が始まってから、第2デイケアのメンバーは現在までに16人受講している。
 我々デイケア・スタッフは、何が彼らの受講の動機づけになっているのか、また何を得ている のか、さらには受講して変化があったか否かを知るべく個人面接を行った。
 当初は教育プログラムがデイケア・メンバーの社会復帰にどのような影響を与えているのかと いう研究を目指したが、スタッフの大幅な交代などもあり、文献検索も出来ずにいた。そこで今 回は個人面接の結果とその考察を報告するに至ったことをお許しいただきたい。


II.介護教室の紹介

1.目的
ア.入院中の患者、または退院者の学習目標や社会的関心を広げ、将来の就労を援助すること。
イ.ホームヘルプサービス入門課程として、基本的な心構えと知識、技術を習得することを目的と する。

2.募集要項
 当院に通院中の方、もしくはその家族の方で、高齢者の介護やボランティアに興味のある方、 将来介護の仕事を希望している方、ホームヘルパー3級講座の受講を希望している方である。
 年齢、性別、学歴は問わない。

3.講習プログラム
 講義は毎週水曜日午後1時〜3時までの2時間であり、講習13回が終了となる。
 講習科目は次にあげた通りである。講師(看護婦・士、介護福祉士、医療ソーシャルワーカー、 医師)が一科目を担当し、講義する方法をとっている。

 
1)サービス提供の基本視点
2)介護概論
3)グループワーク
4)食事の介護について
5)体位姿勢変換の介護について
6)医療の基礎知識
7)移動、車椅子の介護について
8)環境づくり
9)福祉制度について
10)身体の清潔・着脱衣の介護について
11)ケアプラン
12)共感的理解と基本的態度の形成
13)介護者の健康管理
   
 この13回の講習の後に全体のまとめを行って終了となり、院内認定の終了証を授与することと なる。


III.個人面接の項目と対象者

(1)介護教室の受講については自分の意思で決めた。その理由は何か。
(2)受講していて感じたものがあるか。
(3)受講して自分にとってよかったものがあるか。その内容は何か。
(4)受講する前と、現在では自分に変化が起きたか。その内容は何か。
(5)介護や学習のプログラムに興味があるか。
以上の5項目で行う。複数意見採用。

 今回の対象者は男性13名、女性3名であり、平均年齢は38.6歳であった。
 疾患別ではアルコール依存症6名、精神分裂病5名、家庭内暴力2名、食行動異常、抑うつ反 応と神経症がそれぞれ1名であった。
 発病年齢は、10代が6名、20代が5名、30代が2名、40代が2名、50代が1名であった。
 学歴では、中学卒1名、職業訓練校(2年課程)卒1名、高校中退1名、高校卒6名、専門学 校卒1名、短大中退1名、短大卒2名、大学中退2名、大学卒1名であった。


IV.個人面接の結果

(1)a『自分の意思で受講を決めた』と答えたものが15名で、その理由としては、『介護の勉強 がしたかった』が4名。『ホームヘルパー2・3級を受講するための準備』と答えたものが7名。『知り合いが受講するから』が1名。『自立のため』が1名。『ただなんとなく』 が1名。ということであった。
『自分の意思では決めずに、友人に勧められて決めた』というものが1名いた。

(2)  受講していて感じたことは、『とても勉強になる』が8名。『とにかく終わるまではやってみよう』が5名。『講義が難しい』が1名。『自立のために活用したい』が1名であった。

(3)a『受講して自分にとってよかった』というものが14名おり、その内容は『介護について勉強になった』が8名。『勉強するという環境がよかった』が4名。『最後まで受講できてよかった』が2名。『仲間が出来てよかった』が1名であった。
『受講しなければよかった』との意見が2名あった。

(4)a『受講する前と後で自分に変化があった』とするものが13名。内容は、『介護についてより興味がわいた』が9名。『実際に介護の仕事がしたくなった』が6名。『自分に自信がついた』が1名。『友人と共通の話題が出来た』が1名などの意見であった。
『変化がなかった』とするものが3名で、『介護の興味がなくなった』が1名、『特に変わったようなことはない』というものが2名いた。

(5)a『興味がある』というものが、13名。
『興味がない』というものが、3名。


V.受講後の動向

 現在2名が3級、2名が2級ホームヘルパー養成講座を受講している。今後3名のものが受講を希 望している。院内ボランティアを始めたものが3名、これから始めたいと言っているものが5名いる。


VI.考察

 受講の動機では、介護について勉強がしたいというもの、全国認定のホームヘルパー養成講座の受 講を希望しているものが多数おり、明確な目標をもっているということがわかった。また少数ではあ るが目標や意思をきちんと持たずに受講しているものがいることもわかった。
 講習については、実際に受講してみて勉強になり、受講してよかったと感じているものが多数いる ことが伺える。また介護についてだけでなく、勉強するといった環境に満足しているものや、同じ受 講者と共通の話題をもてたことから仲間が出来たというものもいた。さらに受講後には、次のステッ プが自分の意思で決定され、すでに行動を起こしているものも多く、またこれから行動しようとして いるものもいることがわかった。これらのことから、「介護教室4級」は介護の基本的知識や技術を 学習をする場ではあるが、それ以外に勉強をするという「場」を提供できたことで、受講者たちはそ れをうまく取り入れ、自分なりに活用し適応しているのではないかと考える。
 また学習のプログラムに興味があるということでは、ニーズを満たすことにつながるものと思われ る。そして講習を終了し満たされたものは、さらに次の目標を見つけ満たそうとしていると思われる。  受講者の発病年齢はさまざまであるが、エリクソンのライフータスク1)2)(生命課題・生活課題・人 生課題)の達成を考えたとき、希望・意思力・目的意識・適格意識・忠誠心などの人間の強さが、病 気になったことでネガティブな面に偏より、精神的健康の条件が満たされていないことが多いと考え られる。
 また、ペプロウ3)は精神病院は患者が自分自身を知り、社会生活のための持続的な能力を習得でき るように教育的なプログラムを提供する特別な教育施設であるべきと述べている。これらのことから 「介護教室4級」という教育(学習)プログラムは、前述の条件を満たすための「場」や「人」の提 供を行っている。
 また受講者個人の課題の達成を支援でき、介護を学ぶということを通して、人間関係やコミュニケ ーション能力の獲得を学習できる一つのプログラムとして位置付けることができるのではないかと考 える。
 しかし少数ではあるが、受講の動機が自分の意思ではなかったり、介護や学習プログラムに興味が なくても受講するものがいたことについては、精神的健康の条件や能力習得のための新たな教育プロ グラムの開発など、一考していかなければならないものと思われる。


VII.おわりに

 この度は時間的・人的問題から質的に満足できるような研究が行えなかったが、当院で新たに始めた 教育プログラムについて考察できたことは、今後のプログラム改善に役立てることができると考える。
 精神科における教育プログラムは、教えるものと学ぶものとの人間的な交流の場として重要な意味を 担っている。デイケアでは社会復帰支援施設として、今後もさらに研究を続けていきたいと思う。

 謝辞:個人面接に協力していただいた、メンバーの方々には、深く感謝いたします。



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【参考文献】
1)太田耕平:幼児から高齢者までの心の発達 十段階心理療法、第7版:p106、札幌太田病院、1998
2)早坂泰次朗:系統看護学講座 精神保健:p137、医学書院、1991
3)池田明子訳:ペプロウ看護論、p246、医学書院、1996