精神分裂病への内観療法


札幌太田病院  太田 耕平
北海道女子大  杉山 善朗
(「日本醫事新報」No.3945、p112、1999)


『問』
 精神分裂病患者に対する内観療法の概要と、効果及び施行上の注意点について、札幌太田病院・太田耕平院長に。 (長野 M生)

『答』

一、
 近年、国内外を問わず精神療法として評価されつつある内観療法は吉本伊信により開発された。 すなわち、一般人の自発的修養法として、集中内観法(日中は屏風内で七日間、三問に従い回想する)と その後の日常内観法からなり、構造も簡潔で効果も高い。
 一方、神経症、心身症、アルコール・薬物依存、摂食障害、さらに小・中学生、高校生の不登校などを 対象とする病棟内治療法(のひとつ)として、導入や施行法に工夫改良が加えられ、有効性を高め適応の 幅を広げてきた1)2)3)
 病院内で本療法を行うためには、医師・看護婦・心理士自身の内観体験を要し、本人や家族への説明や 導入に時間をかける。服薬や点滴、カウンセリング、食事介助など、あらゆる看護、治療法と協力・ 併用しうる。患者の年齢・症状に適した場所や時間を柔軟に設定する(ベッド上内観や日常内観、 半日内観など)ことが有効である。
 徐々に内観的心性を徐々に形成し、可能であれば最終的には集中内観に移行させたい。 後療法として院内内観懇話会や内観日記、作業・集団療法などがある。当院では、これらの経験を重ねた 後に精神分裂病の内観療法が可能となった。

二、
 精神分裂病に導入可能な変法を工夫し、実際に適用した報告は、森定4)が最初であり、薬物療法により 相当期間を経て安定軽快状態にある102症例のうち「有効例」が30例、「やや良」が46例、「無効」が26例 とした。
 池田5)は、本病7例に内観療法を行い、「有効」3例、「やや有効」2例、「不変」2例を 報告し、良い適応を選ぶことが重要とした。栗本6)は、本病者の母親に集中内観を体験させる ことで、症状好転を来した2例を報告し、「親が真の母性を自覚」し、「母なるものを子に与えた」ことを 奏効機序とした。
 同病に対する内観療法の当院で最初の症例は、水中毒による痙攣発作と幻覚、妄想を合併した中年女性で、 保護室収容を要した。内観二問のみの回想と音楽療法が奏効し、音楽療法の手伝いが出来るまでに改善した。 第二例は不登校で初発した中学三年生であり、本病と診断された後に薬物療法により、幻聴や妄想は消失したが、 拒否や自閉性を残した。早期復学を祈り本法に導入したところ、著効を認め、高校進学を果たし、 クラブ活動などに良好に適応した。

  三、
 精神分裂病への、施行上の留意点を記す1)2)3)

 @職員の内観体験・人数
 医師、看護婦、心理士など関わる職員が集中内観を体験し、その心的転開過程とその素晴らしさを 体験していること。心身症、アルコール症など疎通性を持ちやすい症例の内観療法を経験済みであること。 夜勤帯にも内観経験済みの職員が勤務し、内観療法チームを形成し、症例検討と学習を重ねること。 病棟全体、職員全員が内観療法に対し協力的であり、内観中の患者への支持ができることなどである。 内観体験をした職員は、少なくとも3〜4名は必要である。

 A内観する場所
 病棟内の看護詰所、トイレに近く、かつ静寂なところが望ましい。その理由は、患者の不安を軽減し、 かつ内観面接しやすく、急な変化にも多数の職員が対応しやすいからである。症状により自室 (個室〜二人部屋)、内観室、保護室などが選ばれる。日常内観や日記内観から入る症例では特別な部屋を 要さない。幻聴、妄想などにより保護室収容を要す症例に対し、保護室内で「子供の頃の母」を思い出す ことを指示し、これを話題の中心にすることで疎通性、自信の回復に有効である。

 B施行上の工夫
 外来や入院契約時に回想の効果を説明しておく。 「内観」と説明すると難しく思われ防衛されやすいので慎重を要する。 回想するテーマは本人の好むもの、好む人から始める。 自分の足・手・目・口などの身体内観も自尊感情を得る点で有効である。
 眠気、全身倦怠などを生じないように、薬物療法を適切に行う。 導入は、日記内観など時間的にも精神的にも負担の少ないものから始める。 中断を希望する時は受容的に接し、より分散内観的に対応する。 回想内容をメモしてもらったり、廊下で出会う度に拝聴することも良い。 回想できない初期にも励ましと安心感を与え、些細なことでも回想し得たら大いに誉め、 治療者自身の体験を語り共感してあげることが大切である。
 このようなゆるやかな内観体験を終了した後に、他の各種治療法に参加してもらい、 さらに退院直前に正式に近い集中内観療法が可能になる症例が少なくない。 このような入院中の2回の内観療法は、病識獲得さらに退院後の予後に良好に作用すると考える。 退院後は内観日記を勧める。

四、
 これらの内観的回想内容に加え、テーマと年代、面接時間、場所、面接者氏名、 表情や病的体験の有無と内容、さらに面接職員からの助言などを内観記録として残すことが 極めて大切である。この記録は、関与する複数の面接者の連携を深め、申し送り簿を兼ね、 さらに患者の心の変化の推移を十分に把握・記録し、最善の対応のために必要である。 治療中・治療後に面接者の対応を反省・研究する点からも必要である。

五、
 導入に時間をかけ、日記内観や一時間内観などの多様な導入方法、さらに多様な内観する場所、 カウンセリングを随時入れるなど、柔軟な対応により適応の幅は広がる。
 薬物療法等によっても院内不適応であり、問題行動を残す症例、親や家族にうらみ感情を有している 症例などが、まず適応となる。奏効するとこれらが早期に改善または消失し、家族関係も改善し 退院が可能となりうる。
 妄想状態で保護室に居る症例にも、薬物療法に併せたゆるやかな内観的回想は患者・治療者間に 良い影響を与えることが多く、現実見当(検討)識を高め、精神の安定に有効である。
 長期入院者には情緒の安定、自信、退院意欲が出現した。 当院では共同住居やデイケアと相俟って、長期入院者の退院促進へとつながった。 今後の普及が期待される。奏効機序など、詳しくは文献を参考にされたい。

【参考文献】
1)太田耕平、杉山善朗:日本保健医療行動
科学会年報、12:39、1997
2)太田耕平、杉山善朗:精神科治療学、13:1215、1998
3)川原隆造編著:内観療法の臨床、新興医学出版社、p133、1998
4)森定 諦:第3回内観学会発表論文集、
p17、1980
5)池田国義:第11回日本内観学会論文集
p55、1988
6)栗本藤基:第3回内観学会発表論文集、
p63、1980