−事例報告−

集中内観後の家族療法が奏効した分裂病青年の事例


札幌太田病院内観担当婦長  上野ミユキ

内観研究Vol.5、No.1、p105-114、1999


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T.はじめに

 病院内で精神分裂病(以下分裂病とする)入院患者に内観療法を行う際は、「してもらったこと」、 「してかえしたこと」、「養育費の計算」、「幸福の発見」、「身体内観」、などを統計的にしらべていただく。
 これらにより被愛体験をふくませたり、自分の身体への謝恩を通して「自己」へ与えられた恵みの感謝や、 目、口、手、足などへの慈しみの心を促がせるように配慮している。これらを1週間かけて調べることで、多くの分裂病内観者(以下内観者とする)は、達成感、安堵感、 幸福感などが得られ清々しい気持ちになる。しかし、分裂病内観者は、入院理由として何らかの異常行動、問題行動、心的外傷体験、さらに家族間葛藤 などをかかえている場合が多い。
 これらの問題や葛藤の解決を援助したり、家族調整が必要とされる。そのため、当院では、集中内観終了後に 病院職員が仲介してボディー・ワーク1)2)を含む家族療法を行っている。 これは、内観者と家族双方の誤った認知が修正されることを目指しており、それまであった不安の軽減や、 家族内葛藤の分析や整理、さらに解消に効果的である。 このような家族療法を行うことにより、それまではあまり、面会に来なかった父親が頻繁に顔を見せたり、 親自らも集中内観を体験することもある。 また、内観者からは、家族への攻撃的な言葉はほとんど聞かれなくなり、感謝の心に変わる様子が見られる。
 このように家族療法は家族双方の相互理解を深める契機になり、新しい信頼関係により行動も改善され、 好ましい情緒交流につながる。その結果、外泊や退院も家族に容易に受け入れられるようになり、 早期の社会復帰も可能になる。この過程を報告する。

U.集中内観後の家族療法とは

 分裂病は多彩な症状と長い経過により、入院者のみならず家族も悩み苦しむ。 また、症状が小康状態であっても、家族との依存と自立をめぐる葛藤があるなど、再発の一因に 家族関係の歪みが関与する場合もある。
 そのため分裂病者の治療として家族療法の重要性も知られ、当院では従来から家族会(太陽会)での支援を行ってきた。 さらに入院者の集中内観後にボディー・ワークを中心とした家族との交流の場を設けており、これを当院では 狭い意味での家族内観または家族療法と呼んでいる。
 集中内観療法の一環として、その最終日に家族の来院を求め約2時間かけて家族と内観者の家族療法を行っている。
 その目的は、@内観者が集中内観で気づいたこと、特に家族への謝罪と感謝の気持ちを正式に礼節を持って 伝える。A内観者と家族がお互いに過去の陰性感情を消去、軽減し、信頼関係を築き今後に明るい希望をもつ。 B内観者の心の変化や決意を相互に確認し、新しい信頼関係を築き始める。このような機会を作るためである。

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