入院者の生活活性化のための眠剤の減量・中止の試み



札幌太田病院 内科病棟(療養病棟)
内藤香代子・松浦マサノ・中川郁子・斎藤凉子・森友秀子・池戸裕子

平成10年度耕仁会職員学術研修会論文集:p75〜77、1998


T.はじめに

 高齢者療養型病棟をスタートして、1年が経過した。 高齢者介護を中心とした介護強化病棟よりも更に 長期療養にふさわしい療養環境が整備され、治療を 中心に包括的なケア体制の整った一般病棟として 個別のケアプランが義務付けられている。 ケアプランの目的は、身体的、社会的、精神的な 機能レベルをその人の最高に維持し、QOLの向上や ADLの改善を図ることである。 しかし、高齢者にとっては生理的にも老化の過程に伴う レベルダウンが避けられないのも現状である。
 当内科は精神科の併設であるため、痴呆や精神疾患を 呈している患者が、ほとんどである。そのために、 向精神薬や眠剤を服用している患者が多く、 その副作用によってレベルダウンを余儀なくされている 方も少なくない。
 私達はケアプランにより向精神薬に対する対応を 評価した上で、治療に支障のない眠剤の減薬、中止を したところADL維持、改善とQOLの向上を図る ことができた。そこでその経験を若干の考察を含め 報告する。

U.ケアプラン

人体図ケアプランにより向精神薬の対応で評価したのは 次の4項目である。

1.ADLの低下 ADLの日内変動 大
向精神薬に加えての眠剤の服用は相乗作用もあり、日中の残眠感、運動緩慢をきた し、高齢者のADL維持に大きく影響があると考えられる。
2.コミュニケーションの低下
毎朝ウォーキングカンファレンス時の声掛けに、朝食後の満腹感に加え残眠も伴い、 反応が鈍く、十分なコミュニケーションを図ることができない。
3.口腔内乾燥、えん下困難、食欲低下
残眠による食欲低下に加えて、えん下困難も伴い、脱水傾向になる。
4.常に副作用、減薬、中止を考える。

V.ケアプランの実践

以上のアセスメント問題点からケアの方向、実際として

1.各種週間プログラムへの参加
運動療法、書道、絵画、音楽療法、カラオケに参加を促す。
2.ウォーキングカファレンス時に、RO法的なかかわり
必ず反応があるまで声掛けに努め、スキンシップを図る。
3.毎食時ディルーム(食堂)へ誘導
食事前の軽いおやつやコーヒーなどで個別的な対応をし、家庭的な雰囲気で
食欲アップに努める。
4.医師と連携を密にし減薬、中止しながら夜間の入眠状態を観察する。

W.結果および考案

 以上、ケアの目標として、減薬、中止を試みた結果が表Tである。 対象者は退院、ターミナルも含めた1年間の患者48名について 疾患別患者総数を各項目ごとに表している。
 内服マイナスとは元々飲んでいない患者であるが、寝たきりや ターミナルになった患者も含めているため、人数的には多くなっている。 そのため減薬、中止となった患者は30名で全体から見ると63%であるが、 内服していた患者が減量、中止となったのは33名中30名で91%となっている。 中止となっても特に問題行動もなく、 睡眠状態の安定が見られている。 現在も入院患者32名中、眠剤を使用している患者は3名程度で、 抗不安剤を含めて4名である。
 表Uは眠剤の減量、中止となった患者30名に対してのADL改善表で、 入院時、転棟時と比較し、歩行、ベットから車椅子への移動、 排泄、食事の4項目についての患者数を表している。

表1 眠剤使用の疾患別患者数
(現在院患者32、退院11、死亡5)

眠剤量減量中止内服(−)継続
病名
痴呆32318110
抑鬱71312
老人精神病
分裂病
91431
48525153


表2 ADL改善表(眠剤の減量・中止患者30名)

ADL歩行ベットより
車椅子に移動
排泄食事
改善5977
自立維持55210
悪化0103
入院時全介助1712187
ターミナル3333
30303030


 図TはADL改善を疾患別に比較したもので 色の濃い順に改善、維持、悪化、全介助を表している。

歩行   移動  
排泄   食事  
図1 疾患別ADL改善比較


 介助も含めて、7〜100%ADLが改善されている。 自立維持の患者が5〜75%、入院時より全介助で変化のない 患者が25〜85%である。悪化が移動、食事で5〜25%となり、 やはり加齢に伴うADLの悪化も避けられない。  以上、減薬、中止の効果とADLアップには直接的な裏付けはないが、 少しでも老化によるレベルダウンが予防できていると考えられる。 老人精神病と分裂病については精神の安定でADLは維持できている。 又、抑うつ患者は対象人数が少ないが、全員レベルアップ状態 となる。一見、痴呆の経過を呈するため一時的に寝たきり状態となるが、 減薬のタイミングとケアのかかわりによってレベルアップの 効果も大きく現れる。
 痴呆の患者については総体的なレベルアップはなかなか望めないが、 個別的なレベル維持には大きく関与していると考えられる。

X.まとめ

 眠れないのは苦痛だが療養病棟における規則的な生活リズムと環境で、 日中の活動を広げたケアを提供することによって適度な疲労で 安眠が図られていると考えられる。
 病院という施設の枠ではあるが、生活があっての医療に視点を向けた 療養病棟本来の目的と老人介護の基本である老人自身の生き方や 個性を認め、その人らしさを尊重した介護の姿勢と信頼関係が 生活の質に大きく影響し、ADL、QOLの改善が図られ、 不眠への苦痛も改善されたと考えられる。 今後も長期療養にふさわしく少しでも豊かな入院生活が送れるよう 援助していきたいと思う。

※プライバシー保護のため、表題の変更、及び症例について多少の加工をした事をお断りします。

参考文献

  1. 柏谷由美子.老人の睡眠への援助.看護実践の科学.1990.11
  2. 松本敦子.痴呆老人の良眠へのアプローチ.第22回老人看護.1991
  3. 矢田真由美.睡眠に影響する要因と不眠クリニカルスタディ.1996.10
  4. 佐藤重美.睡眠パターンの障害.Nursing Today.1997.1
  5. 太田耕平.十段階心理療法−自信の回復と幸せな人生のために−
    第6版医療法人耕仁会札幌太田病院.1997