「いじめ」問題の医学的理解と親、医師の対応

札幌太田病院  太田耕平 新ヶ江 正
北海道医報 第615号 pp.36-39, 1985



  1. はじめに

     近頃、精神科を訪れる思春期症例が増加している。シンナー乱用、非行、家庭内暴力、登校拒否、心因反応、心身症などの症例であり、当院では新患の25%に当たる。これらのうち、登校拒否、心因反応、心身症などの症例では背後に「いじめ」があることが少なくない。医師として、子の家庭、学校、交友、心理的背景などについて詳しく聞いて、適切な対応が必要である。手遅れになると精神的、肉体的に深い痛手を受け、ついには死を選びかねないからである。
     いじめられる子は、精神的にも身体的にも虚弱で正しく自己主張できない子、友達づきあいが下手な子が少なくない。
     いじめっ子は家庭の暖か味のない子で、欲求不満をもち、相手の痛みのわからない子や、ツッパリで非行グループのこともある。
     いずれにせよ、家庭の子育ても大きい要因であり、家庭、学校はもちろんのこと、社会や医師もきちんとした対応が望まれる。当院で経験した症例から4例を挙げ考察したい。


  2. 「いじめ」の中心は中学生…その心理は

     中学生は青年前期に当たり、心理的に親への依存から離脱しつつあり、「自分とは何か」、「人生とはどのようなものか」という悩み、さらに異性や進学、友に関しても劣等感や不安を抱きやすい年代である。青年ほど、その深い孤独から接触と理解とを渇望しているものはない。
     価値観が多様化し、マスコミから矛盾し合う各種の情報を与えられ、子供達は何が正しく、何が現実なのか、同一化しうる価値観に混乱を来している。小学校入学以前からテレビを通じて見せられる暴力、ルールのないプロレス乱闘などは、正しい批判力の未熟な子供にとって大きい影響を与え、「いじめ」の原因のひとつと考えられる。マスコミの自重を求めたい。
     中学生の自己評価は不安定で、自信がない自分であるがゆえにますます友人に好かれ重んじられようとして、周囲に同調しやすい。
     この不安定な気持ちや孤独感が群集心理的に「いじめる」ことで充足されるところに集団による個へのいじめの背景があろう。一方、この年代で「いじめ」られる側にとっては場合によっては自殺に陥るほどの極めて重大な心理的苦痛に追い込まれるのである。
     小・中学生の子に対して、親は暖かい家庭的だんらんではぐくみ、子がおのずと出す不安や悩みのサインを素早くくみ取り、共感していくことが大切である。子が小学上級生や中学生になったら、人生について、学校や友人について、進路や将来の職業について、親子でじっくり話し合う雰囲気と時間を作るべきである。
     「しかと」するという集団で一人を無視し仲間はずれにするいじめがあるが、今の子供達は、親からも先生からも無視されているのでないかと思いたくもなるのである。
     「いじめ」はいじめられている子ですら、その事実をかくしたがる。そのため学校でも課程でも実態を把握できず対応が遅れやすい。その結果、登校拒否、校内暴力、自殺などの不幸な事態をまねくことも少なくない。
     学校生活から「いじめ」をなくし、子にとって明るく楽しく勉強できる場にするために親、教師、校医、PTAは真剣に勉強し、協力していかねばならない。


  3. 校医とPTAの連携…PTAの目標は

     PTA活動の目標は子の健全育成である。

    @子について先生と相談、協力し指導をうける場、
    A父兄が団結して先生や学校に協力したり要望する場、
    B親がより良き親になるための学習や研修の場、
    C地域社会と連帯、協力する場、
    D親達が友達となる親睦の場。

    これら5つの観点から校医は「いじめ」問題に対しても具体的な対応を進めるべきである。


  4. 避けて通りがちなPTAと校医…いじめ問題

     いじめのほとんどが、休み時間にトイレ、体育準備室など教師の目のとどかぬところでなされている。多数の生徒をあずかる教師にとって十分の配慮をしていても数少ないいじめられっ子の救いを求めるまなざしには気付かぬことが多い。
     また、父母は子供を先生にあずけている以上、教師や学校と事をかまえることに及び腰になる。だから一層のこと弱い者が泣き寝入りとなり追い込まれていく。
     PTAや校医にいじめ問題が持ち込まれたことは寡聞にして聞かない。だからといって、PTAや校医がいじめ問題に無策であってはならない。子が追い込まれて事態が深刻になる前に校医やクラスの父母全体の問題としてPTAで取り組むべき性質のものである。父母が交代で教室や廊下など巡回するのも一案であろう。


  5. 「…こわがって、泣きそうな顔で…」…事例

     反省文「友達をいじめた時」 女子

     「○○さんの時のことは、まじめになりたくて、私たちのグループをぬけたいって言うことで、ヤキを入れて、本当に、悪いと思っています。その時の○○さんの様子は、すごくこわがって泣きそうな顔で、じっと私を見つめていました。その子を6人ぐらいで、友人の家の部屋に、カギをかけて、みんなでとりかこんで、なぐったり、けったりして、その人を立てなくしてしまいました。自分一人では、そういうことはできなかったはずですが、数人、集まるとそういうことばかりする自分をとても、ひきょうな人間だと思います。けっきょくその子の親に知れ、なぐられました。しかし、自分もその子と同じめにあったら、やっぱり、自分の親も、あい手の子をなぐったと思う。私たちは、いつも、数人、集まってはそういうことばかりしていました。」
     この被害を受けた子の場合、けがして学校に生きたがらず、不登校に陥りはじめていじめられていることが明らかとなった。教師に何回か協力指導を依頼したという。しかし、親の目から見て実効なく、結局父親が自ら学校に行き職員室に「いじめっ子」を呼び出し、彼等を皆の前で父自身なぐったという。その痛みと父の剣幕に恐れて「いじめ」はなくなったという。このいじめっ子は母子家庭で育ち非行グループの一人であり、学業成績はオール1に近かった。シンナー乱用と怠学、性格形成障害の診断で入院治療し著しく改善して復学した。


  6. 「…服を全部ぬがした他にパンツ…」…事例

    反省文「○○さんをいじめたとき」 女子

    「○○さんをいじめたときは、ヤキどころか、最後には、服を全部脱がした他にパンツまでぬがして、はだかにしてしまいました。その子は、抵抗していたのですが、最後には、自分からぬぎました。そして泣いて、すごかったので、泣きやましてから、帰しました。その子の目の上に、あざを作ってしまいました。そしてやはり、その子の親にばれました。そして、私たちと親とで、その子の家に行って、あやまり、話し合って来ました。その子の親は、最初すごくおこっていたけれど、帰るころになって、許してくれ、手を一人ずつ、にぎって、そのおばさんは、泣いていました。すごく悪いことをしてしまったと思い私たちも涙がとまりませんでした。」
     この事例でも第一発見者は親であり、親同士の話し合いで解決のいとぐちがみつかっている。このケースの場合、いじめっこの親は共稼ぎの多忙な父母であったが、当方の指導により適切な対応がありよい結果となったと考えられる。


  7. 「4対1でなぐられ無視され…」…事例 男子

     転校間もなく「にらんだ…」、「うそをついた…」と本人だけが無視され、放課後、川原に呼び出されては4対1でなぐられた。初めは顔がはれる程度が4〜5回目には鼻や口から出血するほどなぐられ、学校に行けなくなった。本人の親は相手側の首謀者と会うも、「先生に言ったらひどい目に合う」とおどかされた。それでも学校の先生に相談すると「相手に言ってもいいですか」とのこと。父親が首謀者と5回も公園で話し合うも具体的進展なく、夏休みに入った。家族で話し合い、父の職場の近くの学校に転校手続きした。しかし2学期になっても通学できず、現在登校拒否として入院加療中である。
     一人っ子として甘やかされて育ち、運動部にも親の反対で入れず、体力もひ弱な子であった。心気症及び抑うつ状態も認められた。一人っ子の子育てにはいろいろな配慮を要することがうかがわれる。


  8. 「自殺する…と窓から…」…事例 女子

     教室内で暴力を振ったり、途中抜け出しや無断欠席をしていた子であったが、内観療法後のレポートは次のようである。
     「私は、新しい友達もできず、みんなの輪の中に入ろうとしても入れずに、周りの人から『○子ちゃんくらい』とか『○子ちゃんといっしょに遊ぶと面白くない』と言われて一人でいました。そして、そのころも人のいいなりになったり不潔なことをしたりしてきらわれました。それで、男子に『きんがうつる逃げよう』と言われみんなにさけられた気持ちでした。それを見ていた○○先生は心配そうでした。小学6年のころはとなりの席の○○さんって人に背中を何度もたたかれてくやしい思いをしました。それから私たちのクラスだけでソフトボールをやった時はそのルールを知らなすぎてみんなや先生の前で泣きました。7月ごろ集団が気に入らなくまたみんなの前であばれました。そしてみんなの前で、『自殺する』といってまどから飛び降りようとしてだれかにとめられて死ねませんでした。それから数学の時間にふざけていて数学の先生におこられました。そして、2学期、ほかの人のふで入れが私の机の上に知らぬ間に置いてあってみんなが『あんたが人のふで入れをとったんだ』と言った時私は『やってない』とか『やっぱりやった』とかでたらめを言ってみんなに『どうして気がコロコロと変わるの?』と言われて困ってしまいました。」
     この子の場合は、クラスの集団からのけ者にされ、「自殺する」と言って3階の窓から飛び降りようとして止められたり、手首をカミソリで切るなどの行動があった。最近は、遅刻やずる休みが増加し、登校しても保健室に行くことが多い。生来、活発性の乏しい子であるが、教室集団になじめず、いじめから怠学、心身症を発症した症例である。親も教師もいじめの実態を把握できておらず、本人の心理や能力に応じた対応がなされていなかった。


  9. いじめられない子育て…家庭教育

    1. 基本的生活習慣をしっかり 食事、着換え、清潔、排泄、学習
    2. 仲間にきちんとした挨拶をし、意志を表現できるように導く。
    3. 子の良い点はほめて自信を持たせる。
    4. 対話とスキンシップで親子の愛と信頼、情緒、思いやりなどの交流をする。
    5. 学校の授業についていけるだけの学力をつけておく。
    6. 親子で相撲などスポーツを通して体力と気力をつくる。父親の出番である。
    7. 前向きで勉強やスポーツができるよう大まかな人生の目標を設定してあげる。
    8. テレビ番組は親と話し合いで決める。
    9. 近所付き合いなどで人間関係を多様にしておく。


  10. いじめっ子にしない子育て…家庭教育

    上記1〜9は全く同じ。さらに追加すると、

    1. 家庭内を明るく対話を多く。
    2. 物事を時間の流れの中で理解する考え方を身につけさせる。
    3. 勉強面での落ちこぼれにしない。
    4. 相手の心の痛みがわかるよう相手の立場で考える訓練。常日頃から「いじめ」は悪いと教える。
    5. 我が子がいじめている時は厳しくしかり、反省させる。
    6. テレビでの乱暴シーンやルール無視のプロレスの画面について、親は「これは悪い」としっかり教え、なるべく見させない。


  11. いじめられの早期発見には

    …子の出すサインは?

    1. 学校に行きたがらない。遅刻、早退が増える。
    2. けが、あざ、鼻血、服の汚れなどが見られる。
    3. 表情が暗くなり、おどおどする。
    4. 友人が変わる、いなくなる。
    5. 感情不安定になり、落ちこんだり、あばれたりする。
    6. 頭痛、腹痛等で保健室に行きたがる。
    7. 職員室や教師に接近してくる。
    8. 成績が低下してくる。
    9. 無口になり、学校や友人のことを話さなくなる。

    これが認められるときには、親は十分の時間をさいて子と語り合い、気持ちを受容し、実態を早期把握しなければならない。子は救いを求めてサインを出している。見落とさぬように注意が大切である。


  12. いじめられている時…親がなすべきこと

    1. つらい気持ちをよく聞き受容してあげる。実態を詳しく把握する。
    2. 誰でもいじめられうることを教える。
    3. 父、母とゆっくり話し合える時間をつくる。親は具体的に力になってあげる必要あり。
    4. 担任教師と密に連携する。学校に何回も行こう。グループ造り、仲間造り、クラスの雰囲気の改善を教師に強く要求する。
    5. いじめっ子の親と会い対策をねる。父親が対応すること。
    6. スポーツ、特に相撲などで子の体力と気力の増進をはかる。
    7. 子への教育…いじめられた相手をニラミ、大声でけん制したり、明確に意思表示する。強い態度でのぞむ。
    8. 転校は最終方法であるが、自我の未熟な子の場合、直接解決には結びつかぬことあり。
    9. 不登校が続く場合には専門家に相談する。
    10. 昼休みなど教師の目の届かない時間帯には父母がトイレ、廊下、教室を巡回する。
    11. これらが有効でない時は、警察や教育委員会に相談する。


  13. 医師としての注意…子供を診るとき

    1. けが、打撲の原因がいじめによることがある。
    2. 頭痛、腹痛、はきけなどの心気症状の背景にいじめがあることがある。
    3. 遅刻、欠席が続くとき(登校拒否)、いじめられていることがある。
    4. 上肢、下肢、躯幹などよく観察し、あざや打ち身がないか、あれば原因をよく聞くこと。…身体検査のとき。
    5. 合理的な所見がないのに心気的訴えが続き、不登校に陥る症例では登校拒否を疑い、早目に専門医と連携すること。
    6. 表情が暗く、子供らしい元気のない子の場合、家庭及び学校、交友などについて詳しく親や本人から聞いてみる。
    7. 「いじめ」が疑わしい場合には早めに担任教師や校長に連絡する。


  14. おわりに

     経験した“いじめ”の事例は、いじめる例、いじめられる例の両方に自我の未熟さが目立つようである。この点に関しては、家庭教育が重要であり、価値観が自由で多様化して混乱している現代では、子に正しい価値観がある程度身につくまでの長い期間の家庭教育が必要と考えられる。一人っ子、二人っ子の増加による兄弟間の切磋琢磨の機会の減少も大きい要因であり、昔以上に親は細かい配慮が必要である。親自身が自らを振り返ってみる必要があろう。
     しかしながら、近年は大人にもかなりの問題が社会問題として増加してきている。アルコール症、薬物依存、抑うつ状態が増加し、離婚も著しく増加し、子供を暖かく育む環境が破壊されつつあることは真に嘆かわしい。まさに、今こそ、改めて正しい親のあり方、家庭のあり方を問い直し、親みずからが反省していかねばならない。マスコミや教師にも一層の改善と努力を要望していかねばならない。
     上述のような親、教師のあり方が、現代社会の中で子を非行、登校拒否、いじめなどから防ぐ最良の、しかも唯一の方法と思われる。
     社会必理的時代の流れは急であり、その影響はもろに子の世界、子の心に及んでいる。親、学校及び教師、さらに子を診る医師は子の心の変化に即応し、子のニードに応じられる心構えを高めていかねばならない。これからの医師や教師は子の心の問題にきめ細かく理解し受容し、正しく導くことが要望されるのである。

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