精神分裂病者の集中内観療法の有効性
―○○年間に入退院を数回繰り返した症例―

○ 太田耕平・友田龍多・大西祥子・上野ミユキ(札幌太田病院)
杉山善朗(札幌医科大学心理学教室)

第19回日本内観学会大会論文集;8〜9,1996

  1. はじめに
     吉本伊信により開拓された集中内観法(以下内観と略す)は、非行、不登校、神経症、摂食障害、アルコール症、薬物依存などに広範な有効性が認められてきた。しかし、精神分裂病への内観の報告は先駆的なものに限られている。-6)
     この数年来、弊院ではスタッフの充実により集中内観療法(極力吉本原法に近い)を毎週4〜6名確実に行えるようになっており、薬物療法のみでは効果の不十分な精神分裂病者をも本治療の対象に加え、好ましい改善効果を得ている。
     精神分裂病に対する内観の報告が少ない理由、および当院における昨年来、精神分裂病者で内観が有効であった症例を1例ずつ詳しく吟味し論文化している。昨年は中学生の精神分裂病に対する内観有効例を本学会で発表し内観研究2号に投稿中-10)である。
     本性例に対する集中内観療法の具体的方法は、吉本原法にほぼ従うものであり、その詳細は前記発表と同じである。精神分裂病者に対する集中内観療法の流れは前回の論文で記述している。


  2. 症例概要
     男子 40代 精神分裂病(大学病院からの紹介書による病名)
     昭和○○年に10代後半で独語、空笑、滅裂思考などで初発し、警察に保護され同○○年まで○回入院後大学病院精神科入院となった。
     抑うつ気分、関係念慮、意志発動の減弱、不安、焦燥感が続き、転職を繰り返し、昭和○○年○○月大学病院精神科に数ヵ月再入院した。その後薬局でブロム系眠剤を買って服用し、畑に倒れているところを発見され、近医で胃洗浄の後、大学病院を経て当院に初入院となった。当院には昭和○○年以来数回の入退院を繰り返した。
     平成○年○月:「自殺してしまいたい」と警察に保護を求めたが、救急当番の当院に入ってからは、電話をかけまくるなど、多弁多動、不穏傾向が目立った。
     平成○年○月:J病院精神科入院時には、多弁多動、易刺激的であり、軽躁〜躁状態を考えられ、精神分裂病的な病的体験は認められていない。
     ○回目の入院時経過:平成○年○月○日、「憂うつだ」と本人が電話で救急車を呼び入院となる。友人に誘われ、金をパチンコで使い果たし生活費もないと左手首に5oの切創あり。食費がなく、「病院に来たらとりあえず三食は食べられる」と思って来たという。
     入院後もお金(アパート家賃、小遣い、公共料金の支払い)のことで訴えが多く頻繁に外出を要求する。硬い表情で活発に病棟を歩き回る。院内レクリエーションのカラオケ係を引き受け役割を果しているが、攻撃的態度が多く、血中ハロペリドール濃度も低く、○月からは100mgハロマンス筋注を開始する。


  3. 集中内観療法への導入理由
     多弁、多動、多訴、朝から靴を持って徘徊している。外出要求、アパートを替える要求、アパートの大家との交渉要求、年金や福祉への要求多く、それを抑えると「おれの人権はどうなっているんだ」と大声を出す。躁うつ患者会「ホープの会」でも室への出入り多く中途退席が目立つ。詰所の窓口に再々来ては自己中心的要求や不満を訴え続ける。カウンセリング用紙には、相談したいこと、不安に思うことなどとして「自分の将来について」と答えている。
     当院の治療プログラム(朝の体操、学習会、各種作業療法)には参加するも軽薄かつ落ち着かず効果を得ていなかった。内観直前には退院を執ように訴え、父母に電話したがり、「なぜ自立を邪魔するのか」と居丈高であった。医師も職員も困り果てて2〜3ヵ月かけて内観を納得させた。


  4. 集中内観経過の具体的内容
    初日はトイレに立ったり、歌を歌ったりして落ち着かなかったが受容的に接し機嫌をとりながら進めた。

    [母に対して]
    入学式、自分の肺結核の看病をしてくれたこと、肺結核の療養中に映画に行きたいと困らせたこと。入院中に再々電話したこと。退院してもパチンコばかりして働かず迷惑かけたこと。

    [父に対して]
    祖母から結核をうつされ、泣いて映画に行きたいとダダこねた。中学○年でたばこをすい、父が警察に呼ばれて調書をとられた。入院中にわざわざ神奈川まで見舞いにきてくれました。私のために父、母、兄、弟の人生を変えてしまい迷惑をかけました。放浪癖のためフラフラ家を出て金銭的に迷惑をかけた。仕事せず、働いても長続きせず、住所不定、不法侵入で捕まり、強制入院となり、父を怒らせた。古着や食べ物をくれた。病院のデイケアをさぼって朝からパチンコ屋に行き迷惑をかけた。

    [病院の職員に対する自分]
    ○○月○○日16時(27〜30歳)
    イ)20代後半のとき太田病院に入院させてもらい、三食食べさせてもらいました。
    ロ)日課作業やりました。
    ハ)看護婦さんに暴言をはいたり、他患に暴力を振るったりして迷惑をかけた。
    18時30分(31〜34歳)
    イ) 三食食べさせてもらっていました。
    ロ) 日課作業に協力したつもりです。
    ハ) 毎日「薬飲んだかい」「作業や運動療法に出ているかい」と心配かけていると思います。
    ○○月○○日9時5分(43〜45歳)
    イ) 薬を出してくれて治してもらった。
    ロ) ボランティア
    ハ) 以前に電話の件と小遣いの件でしつこく詰所に行って迷惑かけた。自己中心的でわがままだった。


  5. 内観終了時の意識:直後の心境…リポートより

    [自分の行動を反省して分かったこと]
    自分がいかに甘えがあり、友人、家族に迷惑をかけてきたか反省している。これからは自分自信を正しく見つめ直し、ギャンブルはやらないと思います。

    [集中内観で気付いたこと]
    自分に甘えと依存で精神的成長がなされていないことに気付きました。これからは正しい生きがいと人生観を見つめ正しい行動をとることに努力していきたいと思います。

    [家族へのお礼とおわび]
    父母に高校卒業まで学費を、入院してからは小遣いを入れてもらったことに感謝しています。これからはまじめに生きていこうと思います。兄にも弟にも感謝しています。


  6. 集中内観終了後の変化

    1. 表情や態度、言動の変化:まず第一に驚かされたのが表情、まなざしが柔和となり、態度、言動もとても穏やかになったことである。職員や他患に対してもやさしく素直になり、看護者への攻撃的態度がなくなり、医師に対しても「三度のメシを食べさせてもらった」という感謝の心が出てきた。カウンセリング用紙の記入も、内観後は字も丁寧になり、詳しく記入するなどの好ましい変化を認めた。この変化は数ヵ月後の再入院中の今日(平成○年○月○○日)でも持続している。

    2. 開放病棟に移り退院:平成○年○○月○○日集中内観を終了し、父が重病、危篤となり葬式に出るか否かの問題が解決して、約1ヶ月後、1階の開放病棟に移った。本人は黒いスーツがないことを理由に父の葬式には出なかった。このころ「自分は分裂病が治って躁うつ病になった」と語っている。年末年始を避け、退院後の外来およびデイケア通所などを約束して同年○○月円満退院となった。

    3. うつ状態(心気、不安)にて数回目の入院:退院後数日目に不眠、イライラを訴え、自分から入院を希望して来院した。本症例では、内観後約○ヵ月を経ても内観の記憶をありありと語り、内観への好ましい印象を語った。以前に比し、やや抑うつ的、無欲的に見えたが、語り合うと反省性、将来への冷静な展望を有し、かつ極めて謙虚であり、年齢や立場をわきまえた現実的思考をもつようになり、礼節も出現し、本人の良い面が出てきていた。平成○年○月末で退院し、高齢者を支援するボランティアをやりたいといっておられる。



  7. まとめ
     本症例は、精神分裂病という病名で、他病院数回以上、当院数回の入院を繰り返し、その背景には躁うつ的気分変調、自己中心的、他害的性格、さらに無職、孤独感などからくる不安、かかる不満な状況に陥らせた親、兄弟、医療関係職員、その他への不満、怒りとして行動化されていたと考えられる。
     初発時の10代後半のころの症状は、独語、空笑、滅裂思考等の明らかに精神分裂病を思わせる症状であった。しかしこの○○年間に当院に数回の入院歴のかかわりから考えると、目立つのは躁うつ気分変調と他罰的性格変調であった。長期間の経過の中で症状と病名、さらに世代によるストレスの変化などを考慮した治療援助を要している。
     集中内観終了後、わずか数ヵ月を経過しただけであるが、この間、穏やかに改善された表情と態度、言動は持続しており、看護職員も大変喜び、かつ助かっている。本症例のような社会不適応や長期間にわたる頻回入退院を繰り返す症例に対し、集中内観を試みることにより、本人の親や兄弟、さらに医療従事者、社会への恨み、敵意などを解消させ、良好な適応が可能となる心の変化を生じ得た。このような内観効果を示す陳旧症例は、当院では少なからず経験しており、今後も慎重に検討を加えたい。その際、周囲への感謝の念が高まり、かつ、今までの自己中心に気付いていくのである。

※プライバシー保護のため、症例について多少の加工をした事をお断りします。



参考文献
  1. 平井貞子:全国地区活動報告−中国地区.第2回内観学会発表論文集、37〜38、1979.
  2. 森定諦:内観療法の適応と限界について精神病の立場から−精神分裂病群に対する内観療法。第3回内観学会発表論文集、17〜19、1980.
  3. 栗本藤基:分裂病者の母親に内観を施行しての一考察。第3回内観学会発表論文集、63〜64、1980.
  4. 真栄城輝明、長井真理:精神病者への内観の摘要について−家族構成員への接近。第4回内観学会発表論文集、35〜36、1981.
  5. 栗本藤基:被害妄想患者と取り組んで。第8回内観学会発表論文集、120〜122、1985.
  6. 池田国義:精神分裂病の内観療法。第11回内観学会発表論文集、55〜59、1988.
  7. 太田耕平:薬物依存の個人精神療法−内観療法の経験をとおして。(薬物依存者に対する相談・治療・処遇並びにアフターケアの在り方に関する研究班編:薬物依存症の治療入門)、30〜52、1993.
  8. 太田耕平:幼児から高齢者までの心の発達 十段階心理療法−自信の回復と幸せな人生のために。医療法人耕仁会札幌太田病院、1995.
  9. 上野ミユキ:内観療法の試み−看護者としての役割。月刊ナースデータ、14(6)、1993.
  10. 太田耕平:精神分裂病者の集中内観療法の有効性−その1 症例と方法を厳密に検討して−。内観研究2号に投稿中。(第18回日本内観学会大会抄録集p.36)