集中内観療法



 
内観療法の実際

日本心身医学会北海道支部第9回教育講習会(1999年2月28日)
札幌太田病院  太田耕平


T.内観的気付きの歴史性(資料1)

明治の代表的哲学者西田幾太郎『善の研究』真の善とは真の自己 を知るというに尽き、『真の自己とは宇宙の本体である』と論じて いる。森田正馬は『思想矛盾、事実唯真』(昭和9年)と述べ 事実への気付きの大切さを述べている(図1)

U.内観法の歴史と内観療法総論(資料2)

V.治療技法

いかに過去の自分の真の姿を発見し理解するか・・・が大切。


1.集中内観    吉本原法
2.分散内観    一日内観   日記内観   ハガキ内観   電話内観
            FAX内観   瞬間内観   未来内観
3.身体内観
4.養育費の算出
5.種々の変法   ゆったり内観   短期集中内観
6.併用療法    断食(併用)内観療法、森田(併用)内観療法

W.集中内観療法への導入

内観の必要な人ほど内観を拒否したがる。抵抗の排除、内観療法 という言葉を用いず、「楽しいことの思い出しですよ」という 表現で少しずつ導入をする。

X.治療計画(クリティカルパス)の中での集中内観の位置づけ

十段階療法(資料3)    第1.2.3期治療(図3)

Y.集中内観療法を行うための職員配置と病室、病棟構造(文献1)

集中内観療法の全記録と標準化の必要性(指導者は全員が集中内観経験者である。)

Z.心身症と内観療法

1.摂食障害    DSM−W
 (1)Anorexia nervosa
 (2)Bulimia nervosa
    人格形成   性格形成   精神(態度)形成
    家庭的背景   PTSD (Post Traumatic Stress Disorder)   引き金因子
2.不安障害(過呼吸 パニック障害)


3.思春期のいじめられと不登校に伴う心身症(年齢、世代の 発達課題と心身症形成)


4.各臓器心身症
5.ターミナルケアにおける内観的療法の価値

[.家族療法としての内観(文献2)



\.症例提示「外傷後ストレス障害(PTSD)と心身症」(資料5)

    第1例
    第2例

].奏効機序と心的変化の過程(内観過程)(図4)

感覚遮断
カウンセリング的側面   とくに内観療法への導入
オペラント療法的側面
記憶回想的側面(外傷の再体験、記憶の統合など)(表1)
PTSDへの効果的側面
認治療法的側面
交流分析と内観
基本的構え、交流の型、ゲームへの気付き、脚本分析
精神分析的側面と内観
人格発達理論と内観


]T.家庭・学校・職場、矯正施設での内観

資料 1

内観的気付きの重要性
−歴史的視点から−



自分のうちを見よ 家にこそ善の泉があり
  この泉は掘り下げさえすれば たえず湧き出るであろう
マルクス・アウレーリウス(ローマ皇帝.哲学者121〜180)
我を知らずして 外を知るということあるべからず
  されば 己を知れるものを 知れる人というべし
吉田兼好(歌人 鎌倉時代=1185〜1333=末期
人は自分の前を見る 私は自分の内を見る
  私は自分だけを相手とし つねに自分を考察し吟味する
モンテーニュ(思想家153〜1592)
狐は わが身をとがめないで 罠を責める
ブレイク(詩人 1757〜1827)
君の眼を内に向けたまえ 君の心の中に、
  今まで気付かなかった宇宙を見出すだろう。
   そこを旅したまえ。そして、その主となれ。
ソロー(思想家 1817〜1862)
 人がその自我を捨て去るのは、普通考えられているように、父や、 息子や、妻や、友人や、親切でやさしい人達によせる愛の結果ではなくて、ただ自己中心の生き方のむなしさと、自分ひとりの幸福 の不可能とを認識したその結果に他ならない。だから、人は、自己中心の生活を否定した結果、真の愛を認識し、父や息子や妻や 子どもや友達を、はじめて、ほんとうに愛することができるようになるのである。 愛とは、自分よりも−自分の動物的自我よりも、他人をすぐれたものとして認める心である。
トルストイ(作家 1828〜1910)
人さんに 堪忍してもらってばかり おりますだいな
足利 源左(紙すき師1842〜1930)
人生における大事は 自己を発見することであり
  そのためには諸君は孤独と沈思を必要とする
ナンセン(北極探検家 ノーベル平和賞受賞者1861〜1930)
わがこぼす白き飯つぶひとつひとつ とりてふくます 母は笑いて
北原 白秋(詩人 1885〜1942)
何も成し得なかったけれども 己をみつめ 人生を考え
  人間そのものを深く見つめた人は 尊敬されるべきである
吉田弦二郎(作家 1886〜1956)
 人間が自分自身について無知であるということは、奇妙な性質である。 それは、必要な情報を得るのが難しいとか、情報が不正確だとか少ないとかいうことで起こったのではない。それどころか反対に、 長い年月をかけて人間が蓄積したデータが、あまりにも豊富で乱雑なためである。また、科学が、人間の肉体と意識を研究しようと 努力するあまり、人間をほとんど無数の部分に分けてしまったことにもよる。この知識は大部分利用されていない。実際のところ、およそ 使いものにならないのである。
アレキシス・カレル(フランスの生理学者




※これらは「やすら樹」から引用しました。


資料 2

内観法の歴史と内観療法総論
耕仁会 札幌太田病院 院長
太田 耕平


T.内観法の歴史:
 内観法は吉本伊信により 日本で開発された修養法であるが、”精神 療法”としての効用も認められ、国際的にも 評価されつつある。浄土真宗の一派に伝わる 求道法の「身調べ」を4回目にして転迷開悟 (昭和12年)した吉本は、自己の感激的な喜びの 体験を広く普及したい願望をもち、宗教色を 排除し30年にわたる試行錯誤の末、高い 有効性を求めて吉本原法を確立した。 最初に本法を公的に採用されたのは昭和29年 奈良少年刑務所であり、吉本に求められた のは宗教性を排除することであった。内観体験者 では再犯率が1/2〜1/5と低い事実が示された。 以後、全国各地の少年院や刑務所に採用 された歴史がある。 内観法は、原則として集中内観のことを言う。 内観研修所において一般人の人格淘治、修養、 人生上の悩みの解決に適している。現在、 全国で約20ヶ所の内観研修所が一般人の 内観研修に当たっている。このうち代表的な 内観研修所10ヶ所が「自己発見の会」を結成し、 機関紙「やすら樹」を発行し、指導技術 向上のため研鑚している。

U.集中内観法:
 外部からの刺激を遮断した 薄暗い、狭い、静かな屏風に囲まれた空間 で、朝6時から夜9時まで約1週間継続的に 行う。自分の身近な母、父、夫(妻)、子、 先生、知人に対する自分を内観三問(@して いただいたこと、Aして返したこと、B迷惑 をかけたこと)の具体的事実を過去から現在 まで3〜5年刻みで回想する。それを1〜2時間 毎に訪れる面接者に数分にまとめて報告する。 面接者は礼節を尊び受容的に傾聴し、 三問に沿うように指導、次のテーマを与える。 内観指導前後の深々と礼拝する動作は、一見 すると奇異で宗教性を感じさせる恐れがある。 しかし実際に内観を受け、かつ指導を体験 すると、内観を深めるために内観者と指導者 に共通してその必要性と重要性を確信する ようになる。内観を論ずるには、まず体験 することが求められよう。

V.医療としての内観療法:
 内観法のもつ広範囲な心身への調整効果を疾病の治療に生かす 方法を内観療法という。医療機関としての適応は、 心身症、不登校、家庭内暴力、パニック障害、 摂食障害、神経症、抑うつ状態、アルコール依存症、 薬物依存症、など広範である。 最近は妄想状態や精神分裂病の一部に適用が 試みられ、その有効性が認められはじめて いるが、長期予後についての検討など今後 の研究が期待される。 医療現場では患者の症状と病室という制限 もあり、種々の変法が試みられ工夫改善されている。 内観療法における指導者は、当然ながら 内観を体験し熟知している医師、看護婦(士)、 臨床心理士であるべきである。 現在本法を採用している医療機関は、日本国内 では鳥取大学病院をはじめ14病院・1診療所である(表1)

W.奏効機序:
 主観的には「反省→ざんげ→感謝→報恩」という内的変化である。 脳の機能としては、長期記憶の情緒を伴った開放 による認知の改善である。内観療法中に今まで 語られなかった心的外傷体験がしばしば情動 を伴って言語化されることがある。これらの 症例は外傷後ストレス症候群(PTSD) と診断可能なものもあり、心的外傷の治療と して有効である。 脳の生理解剖学的構造から論ずるならば、 海馬を中心とする側頭葉の記憶=情動の開放 がなされる。これが脳弓を介して乳頭体、 視床下部につながるPapetのサイクルを調整する。 ゆえに自律神経系、内分泌系にも好ましい 変化を生じ、心身症を癒すと考えられる。 内観三問による過去の人生の詳細な回想に より、従来の罪深く自己中心性の高い自分が 他者の愛で生かされてきた事実は大きな安心感 を与え、自己中心性への気付きと脱却を促がし、 肯定的な自他認知へと7日間で変革し得る。 早期に父・母と死別し、被愛体験の乏しい 症例には、足、手、目、口などの身体内観から 開始した有効例も多い。 他の療法に比べ、治療構造の堅固さと、 礼節を重んじ距離を置いた治療関係に特徴があり、 自力で自己洞察を深化させていく。日常内観は、 集中内観経験者が1日1〜2時間内観することで、 内観効果の持続を目指す。

X.小・中学校・高校などにおける内観法:
日記内観やホームルームの集団内観などにより、 いじめや校内暴力の防止、さらに学校に おける心身症の予防効果が期待される。 また、断酒会の例会において、自分の体験を 内観的に語る内観例会も自覚を深めるのに有効 とされている。

Y.日本内観学会と内観法の海外への広がり:
 医療、心理学、矯正、教育、宗教、企業関係者 により結成(1997年)され、毎年学会大会を 開いている。1991年に第1回国際内観会議 が東京で、第2回は1994年にウィーンで、 第3回は1997年にイタリアで開かれた。 1986年にウィーンに内観研修所が開設された。 現在オーストリアには、フランツと マルタ・リッターの経営する新世界内観研修所、 ヨゼフとヘルガ・ハルテルの内観ハウス・ウィーン、 ローランド・ディックのザルツブルクの 内観研修所の三ヶ所がある。これからの研修所は 1995年に内観ネットワークで結ばれ、 内容と質の維持向上に努めている。 このネットワークは、情報提供、面接者や助手の 育成も行っている。 ドイツにはゲラルド・シュタイケンの ダルムシュテット内観研修所がある。イタリアには 内観を支援するレインボー教会という大きな グループがある。欧州では、これまで1000人を 越える人たちが内観を体験している。 治療法の高さは、民族、宗教、文化を超え 普遍性が認められている。

資料 5

外傷後ストレス障害(PTSD)と心身症(札幌太田病院症例より)


症例1:男  運転手  30代後半
30代前半に交通事故(相手は死亡)後、むち打ち症状を訴え、 数年間にわたり数ヶ所の病院に数回の入院を繰り返したが、吐き気、嘔吐、 不眠、頭痛、左半身のしびれ、無気力などが取れなかった。長期化に 不審をいだいた整形外科医の紹介があり、当病院にて集中内観的 療法による心的外傷の再体験、記憶調整などにより自分の自己中心性、 妻子も悩んでいることへの無関心さなどに気づき、短日数で 回復し社会参加した。

症例2:女  主婦  夜の接客業  30代半ば
2〜3年にわたり胸内苦悶、過呼吸、不安発作、頭痛、家事不能 などにより救急車を頻回使用に及び、救急隊が本質的対応を考え、 当院に移送してきた。 通常のケース聴取では特記すべき背景や原因は不明であった。 集中内観的療法で幼児期からの記憶回想の中で、明瞭な外傷体験や 不安(夫の借金依存、生活苦、生計のための水商売から風俗業に入り 脅迫される体験、子供の不登校など、誰にも相談できない悩みが 山積)が明確化されてきた。同療法を通しての自己受容、さらに 弁護士らを含む具体的援助を計画することで著しい安定を得た。

 思春期心身症の背景にある心的外傷を予防する視点の重要性、 親の離婚、不和、親の死亡、体罰、頻回の転校、いじめられ体験、 不登校、学校中退、就学不能、不安定な夜間アルバイト、就職不能 など個々の心的外傷が個別的に、時には継続的に積み重なることが ある。これらの心的外傷や欲求不満、劣等感が家庭内閉じこもり、 家庭内暴力や各種の心身症を生じさせている症例が増加している。 これからの家庭や学校などで早期に発見し予防する視点が大切である。