集中内観療法



 
家族と幸せ(楽)に暮す方法(「内観懇話会ニュース」No.11,P.6〜7より)

札幌太田病院内観担当婦長 上野ミユキ


 先日内観療法を体験する目的で、札幌太田病院に研修に来られたブルガリアの医師から学んだこと、感動したことをはじめに少し話します。
 医師は自ら集中内観を体験すると同時に、10代の少女の内観面接もされました。使用言語は英語で通訳を通しての会話でしたが、適宜ユーモアやジョークを交えて話される姿に、深い感銘を受けました。その一部を述べます。
@ 賢い人とそうでない人の違い。それでない人は失敗から学ぶ、賢い人はそれを見て学ぶ。
A 失敗は認めれば半分になる、しかし隠せば倍になる。
行動面の特徴
@ 良い経験も悪い経験も活かす。形のないもの(信頼感など)や、智恵を大切にする。
A 内観的思考を身につけていて、森羅万象に感謝する気持ちを持っている。
B 人の行動を良く見ている。そして粘り強い。時間などはあまり気にせず、行動する前に十分確認する。これは相手にするというよりは自らにしている。そして納得してからはじめて行動に移す。

 これらは日本と異なり、油断すると隣国から侵略される厳しい環境の中で生活されているせいと思われます。
 次に今日のテーマ『病んでいる人も家族も幸せで楽に暮せる方法』に入ります。
 私は札幌太田病院で内観療法に携わるようになり、6年が経過しました。その中で私なりにまとめたものがこの図です。
 「無病息災」という言葉がありますが、私は病院で患者さんの内観療法に関わっています。それで無病の方はいないのです。しかし、病んで(病気)いても家族と幸せに暮すには内観をされることだと私は思っています。
 日頃、内観者の話しを聴かせていただく中で感じることは、家族の死が薬物・アルコール依存症、うつ病などの引き金となっていることが実に多いということです。
 これらを話したとき、私はグリーフワーク(悲しみを癒す作業)が十分にできるよう関わっています。
 また、内観三問に沿って調べて、グリーフワークが出来たとしても、これらを周囲の人々にどう表現するかとまどっている場合もあります。その時は、アサーション(自分も相手も大切にする表現方法)の基本なども少し伝えています。
 これらは患者さんのみでなく家族にも必要だと思われます。それで家族にも内観を体験していただくよう勧めたり、内観のテープを聴いていただいています。病院での内観療法について述べさせていただきました。


「病んでいる人も家族も幸せで楽に暮らせる方法」
病んでいる人も家族も幸せで楽に暮せる方法
家族・周囲の人々と、幸せな人生を送るため各自の方法で努力する。
無罰型問題解決法−自分も相手も大切にする表現方法(アサーション)を身につける。
アサーションの基本的技法『(※その一形式)』
@ 的を絞る。
A くりかえす。
B 相手の反応を受けとめる。
C 効果的な歩みより。
D 自分の気持を伝える。
今までの自分の問題解決や、対人関係でも表現方法はどうであったかに気づく
◎ 内観で気づいた例
  • 憎むから憎まれる、愛すれば愛されるのではないか。(50才代男性)
  • 自分は他人の好意を受け取るのが下手だったが、内観して好意を素直に感謝できるようになった。(30才代男性)
  • 親は何もしてくれないと思っていたが、養育費の計算などで、とても大切にしてくれていたことに気づいた。(20才代女性)
  • 自分から抜け出して、自分を眺めたような気がした。他人の判断ではなく自分にとってどうなのか、自然に考えられるようになった。(40才代男性)

 
集中内観で自分をみつめる
気づく
(イ) してもらったこと
これで気づいたことは
☆感謝の気持ちで大切にする。
(ロ) してあげたこと
その時の自分のこころ、ことば、行動の3点を考える。
(ハ) 心配、迷惑をかけたこと
この時の自分の気持ち、相手の気持ちをしっかりみつめる。
グリーフワークをする(悲しみを癒す作業)
 悲しさ、悔しさ、怒り、失ったものなどを正直に見つめ、十分感情を吐き出す(泣く、怒るなど)どうにもならなかった自分を受け入れる。
 喪失した対象に、自分の中でもう一度きちんと別れを告げる。(有難う、ごめんなさい、さようなら)
◎ この過程で自分の責任外で起こったことなど区別できるようになる。


内観療法の特徴と効果
◎ 病院で内観療法を受ける対象者
自分ではどうしようもない問題や症状に苦しみ、解決や解消を求めている。
@ 不登校(いじめられ)
A 家庭内暴力
B 性格障害
C シンナー乱用
D 薬物・アルコール依存症
E 心身症(拒食症、過食症など)
F 抑うつ症(青年期の無気力症)など
G 精神分裂病
H 老年期うつ・神経症
I 家族内葛藤(家族療法として)
◎ 過程
内観は自己治療的色彩が濃いので、深く洞察することで、それまでの親や周囲の人々に対する恨みや、憎しみが薄れる。そして、自他の区別も明確になる。やがて、自分を好きになり、自分を大切にできる。すると、親や周囲の人々も大切にできる。
◎ 効果
これらが一朝一夕に可能になるのではないが、内観療法によって本人及び家族が素直な心でわずかの変化に気づくことで可能になる。人間の心は変わるとしても微妙な変化であって、その微妙な変化が人間の行動に大きな影響を持っている。
例) 自分に非があれば素直に謝る、マイナスをプラスに置き換えて考える。これらを本人と周囲の人々が認めて、大切にする。この繰り返しがその後の行動の変化につながる。 その結果、“気づく・わかる・できる・変わる”で行動の変化に結びつく。これは他に類例のない治療法と確信している。内観をしてみませんか。



 
親子内観を通しての親の気づき(「内観懇話会ニュース」No.12,P.7〜8より)

札幌太田病院 内観担当婦長 上野ミユキ


内観の目的
 これまでの誤った認知や自己像が形成された時点と事情に気づき、さらにその後の自分の行動や歪みの原因結果を洞察する。
 具体的に言いますと、母親が自分には小さいアイス、兄には大きいアイスを渡した。それから、母は兄弟を差別したと憎んでいた。しかし、内観で「母は自分の体に応じた小さいアイスをくれたのだ」と気づいた。するとそれまでの憎しみが消え、逆に感謝できるようになったのです。

家族療法(家族内観)の目的
@ 集中内観で気づいたこと、家族への謝罪や感謝をきちんと家族に伝える。 A 過去の陰性感情を消去、軽減し、さらに今後の明るい決意や希望を述べる。これらにより、内観者とその家族が本人の変化や決意を相互に確認し、新しい関係を作り出す。

症例・S子 高校生 不登校、集中内観目的で入院、7泊8日の最終日両親来院して家族内観を実施した。3名が背中合わせに座り、S子が内観中に書いた記録を涙ながらに読む。母親はハンカチを顔に当てたまま聞いていた。父親も時々、はなと涙を拭いていた。
 S子と親が背中合わせで前後左右に動く、ボディ・ワークを終えた後、母の膝の上にS子の頭を乗せ耳垢を取る姿勢になってもらい、私から「S子さんの幼い時歌った子守唄を歌ってあげてください」とお願いをした。
 すると母親は一段と激しく泣いた。そして、「私はこのS子に1度も子守唄を歌ってあげたことないのです」と悔しそうに話された。
 この家庭は地方で自営業をされている旧家で母親は「良い嫁」の役を必死でやっていた。それで、子供の方でなく姑の方を向いておられたことに、このとき気づかれたのです。
 そして、「S子ゴメンネー母さん貴女の方を向かず爺ちゃん、婆ちゃんの機嫌をそこねないように頑張っていた。だから寂しかったのね−、それに気づかなくて悪かったー」と床に頭をつけて何度も謝りました。
 側にいた父親は「俺も留守がちで、おまえ達の相談相手になっていなかった」と詫びました。この両親の変化に驚いたS子は、座り直して手をついて、「学校に行かなくて心配かけてゴメンナサイ。これからは学校に行くから安心してください」とはっきりとした口調で述べた。
 その後S子は登校し高校を無事卒業して、「父親の卒業した東京の大学に入学し元気でやっている」との手紙が母親から私に届きました。
 本日の私に与えられましたテーマは、「親子内観を通しての親の気づき」です。S子の集中内観と最終日の家族内観で双方が気づいたことを言葉にして謝罪したり、確認しその後良い方向の活動に移せた結果だと思っています。
 この症例は内観者の出したサインを両親が真剣に受けとめた例です。このように親子関係の予後は両親の考え方や、行動が一致しているか、否かにかかっているように思われます。



 
内観の中断を要求した不登校生に対する父的・母的かかわり(「内観懇話会ニュース」No.12,P.8〜10より)

札幌太田病院 内観指導者 根本忠典

1.はじめに
 私が内観療法課で勤務させていただく事になってから3ヵ月が経過した。入職時の研修として集中内観を体験し、内観指導者は初めての経験であり、業務を覚え、内観療法を学ぶことに必死だったので、あっという間に過ぎてしまった。この3ヵ月間、多くの事を学んできたが、集中内観療法を受ける患者のほとんどは、不登校、シンナー乱用、アルコール依存症、薬物依存症、分裂病やうつ状態の方達だった。今回、不登校中学生が内観した際、内観中断を要求し継続が危ぶまれたが、種々の介入により良好な経過をたどった症例を経験した。筆者にとっても非常に学ぶ事の多かった症例なので、若干の考察を加え報告する。

2.症例概要
症例:A君、中学生。母と二人暮らし。
診断名:不登校
生活:A君が小学校時に、父母が離婚した。前年頃から父母は別居し、A君は父と暮していたが、生活が不規則になり遅刻が多くなった。翌年から母と暮すようになり、数ヶ月間転校したがなじめず、元の学校へ戻った。しかし、週1回程度欠席し、常に遅刻という登校状況であった。
 中学入学後、月曜日のみ休んでいたが、○学期からは全く登校せず、母が区の相談所等に相談し、その指導で中学校の相談学級に通う等試みた。その後、元の中学に戻ろうとしたが、ずるずると行かないままで○学期の終業式の日を迎えた。心配した母がA君を連れて来院、即日入院となった。
主症状・不規則な生活の為、朝起きられない。夜中の2、3時までTVゲームをしている時もある。体も急激に太った。また、精神的に負担がかかると、ひきつけを起こしやすい。

3.集中内観療法の経過
 A君の母は、規則正しい生活と登校再開を願っていた。しかしA君は、「特に治したい事はない。入院どころか、通院すら望まない」と言う等、問題意識も入院治療への動機づけもない状態だった。

内観初日に書いてもらっている「集中内観を行う理由と決意」というレポートには、「退院する為に内観を仕方が無く行うが、本当は嫌でたまらない」といった内容の文章を書いている。

内観一、二日目は、A君が法座をこっそり抜け出し、廊下やデイルームで他の患者さんと話す姿が何度も見られた。その度にA君を法座の中へ誘導し、面接を行うのだが、簡単な応答をするのみで時に泣きじゃくるといった状態だった。

三日目には、内観三問に対し、「もうテーマを与えられても調べたくない」と拒否的で、一時間近く泣き続け、微熱、ひきつけを起こすといった症状もみられた。どう対応してよいかわからず、すぐに担当医に相談した。担当医はA君を厳しく説得し、吉本原法では7日間のところを、年齢も若いので5日間に短縮し、内観を続行することを指示した。筆者ともう一人の面接者、そして援助者である看護婦達は、指示的な言葉を使わず、極力励ましの言葉を主として、受容的に接した。担当医は、自らA君にジュースを買って与えるという事もあった。以上の様な関わりの中で、A君のストレスや不安感が和らいだのか、 四日目からはもう泣く事もなく、落ち着いた様子で内観に取り組み、必要以外に法座から出る事もなくなった。

 内観最終日(五日目)に書いてもらった「母に対する自分を調べてわかったこと」というリポートには、「一、二日目に母を調べてもあまり思い浮かばなかったけど、最後にもう一度母を調べてみて、色々な事が浮かび、一度目はきちんと取り組んでいなかった事がわかった。また、内観を行う事によって、母が僕の事を一杯思ってくれている事がわかり安心した」といった文が書いてあった。
 A君が内観を終了した翌週の日曜日には、担当医が気分転換にと、A君を2時間くらいの山登りに連れて行った。病院に帰って来たA君は、生き生きとした表情で、「外に出かける事ができて嬉しい。」と話された。

4.考察
 A君が内観を拒否し、微熱、ひきつけを起こした時、治療者の関与の仕方が一番重要だったと思う。最近の不登校の原因の一つに、特にいじめ等の問題がないにも関わらず、学校というストレス場面から逃避、退避してしまうケースが多い。A君も、父母の離婚というストレスはあったものの、学校に通わなければならないという目の前にある現実から逃避し、様々な身体症状を呈し周囲の者を操作しつつ不登校状態になった。そして、それを内観中にも持ち込んだ。A君が泣きじゃくっている時、「かわいそう」と同情する職員の声も聞こえたが、主治医は、「なぜ今、内観を行う事は必要なのか」と強くはっきりとした態度で、いわば父的な関わり方で説得した。しかし、その一方でその主治医は自らジュースを買って飲ませたり、面接者である筆者らが面接を終了した時や、看護婦が内観室へ誘導する時など、内観の深化に差し支えない範囲でそれぞれが「がんばれ」といった励ましや受容的態度、いわば母的関わりで接した。ただ単に、内観三問を尋ねるだけでなく以上の様な関わり方により、A君の不安感、ストレスを和らげ安心感を供給したのだと思う。また、川原らによると、内観療法において全ての精神療法がそうであるように、現状を打開したいとの、患者の強い治療意欲が必要であるという。治療者の父的、母的関わりにより、A君自身が自己の心理的問題を解決するのが重要であるとの認識を持ったのであろう。

5.その後
 内観前のA君は、職員の質問に対し、もじもじした様子で頷くだけであったが、内観を終え登山から帰ってきてからは、生き生きとした表情で、職員の質問に対しても大きな声ではきはきと答えられる様になった。
 その後A君は、落ち着いた様子で2回目の内観を終え、中学校の始業式から1週間は病院から通学した。その間、「やっぱり学校は楽しい」と話されている。現在は自宅に戻り、元気に学校へ通学している。
 最後に、長期にわたる不登校状態がわずかの短期間の集中内観によって改善されたことは、他の治療法にない特徴であると思う。
 これからも症例を重ね、内観療法について学んでいきたいと考えている。

引用・参考文献
1.川原隆造:内観療法、新興医学出版、1996.
2.長谷川京子、他3名:不登校児内観療法中の看護者の援助、第14回日本内観学会大会論文集、日本内観学会出版、1991.