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痴呆老人の介護とリハビリ
―正しい診断と理解を―

目  次

  1. 老年痴呆の原因
  2. 痴呆の症状と理解
  3. どんな治療が有効か
  4. どんな介護、看護が有効か―残存能力の発見と援助―
  5. 痴呆を進行させる環境は
  6. 職員教育 −介護受容の心の養成−
  7. 在宅支援とこれからの展望






1. 老年痴呆の原因…医学診断が必要で、次の4つに分類される。

  1. アルツハイマー病…50代から始まることもあります。

  2. 脳血管痴呆…脳動脈硬化症を基礎に脳出血や脳梗塞、さらにクモ膜下出血後遺症など。

  3. 仮性の痴呆…治療により著しく改善します。栄養不良、脱水状態、うつ状態、軽度の意識障害などはぼけと誤りやすい。配偶者の死亡、転居、定年退職などが引き金になることが多い。

  4. 全身疾患からくるぼけ


2. 痴呆の症状と理解

  1. 前駆症状…本人からSOS信号が出ています。
    抑うつ的となり、イライラする。身体的に多訴となる。
    閉じこもり食欲低下し、不眠を訴える。
    興奮しやすくなり、頑固、ひねくれがさらに強くなる。

  2. 徘徊…しばしば意味があります。…その理由を考えてあげましょう。
    一見、病的に見える。ウロウロ歩くも
    • 尿意、便意があるがトイレがわからない。
    • トイレを探している。
    • 不安、緊張、孤独感がある。
    • 外出したいが出口が分からない。
    • 寂しくてだれかとの触れ合い求めている。
    • 退屈で、ゴミ集めでもして役に立とうとしている。
    などです。老人が自己表現できるように十分に話し合い、要望を伺い、応じてあげることが大切です。

  3. 盗まれ妄想、厚着、物をしまう…などの意味は?
    老化により、地位や財産、体力が低下し喪失感、自信低下が背景にあります。上記の訴えの本音は、自分の価値や尊厳の回復、保護、やさしさを願う心からきています。
     正確に数えるとか丁寧に十分話し合い、確認して安心してもらうこと。
    温かい心の触れ合い、関心をよせてあげ、尊重してあげるのが援助の基本です。その老人は自分のプライドや名誉が盗まれたと主張しているのです。
・ 症例Aさん…奔便(便を壁に塗りつける)
家族の留守中にトイレの中で奔便をする。
Aさんの場合は、
(イ) トイレで下着をちゃんと脱げるか
(ロ) 紙でふけるか
(ハ) 水洗で流せるか…などが援助のポイントとなります。

・ 症例Bさん
意味不明のお腹のさすりの理由は、お腹をさすりながら徘徊している。理由を尋ねお腹を診察しても異常なし。念のために横になってもらい診察すると、シャツの背部だけが尿でかなり濡れていた。介護者がオムツ交換の時に気付かなかったのである。その不快感を違った方法で表現しているのです。
・ 症例Cさん
羞恥心は残っている。汚れた下着を引き出しにしまい悪臭の原因となっていた。汚したのを恥ずかしく思い、自分で後で洗おうと思って忘れてしまっていたのです。


3. どんな治療が有効か

  1. 脱水、薬物過多、うつ状態による痴呆症状は回復可能です。
    皮膚や口腔粘膜の乾燥、尿の濃縮検査所見などから脱水状態は容易に判別できます。高齢者介護では、水分を正しく与えることが基本です。

  2. 種々の薬物が多様な副作用により高齢者の心身を弱らせることがあります。正しい薬と量を厳選し再チェックすべきです。

  3. 各種の医学的診断、治療を常に考慮することも大切です。痴呆やうつ状態を起こす内科的疾患には医師に対応してもらう。

  4. 物忘れ、孤立感、不安、自尊心の否定、などは食欲低下、引きこもりを生じすべての悪循環の基になります。これらを支援するのも正しい治療です。


4. どんな介護、看護が有効か―残存能力の発見と援助―

  1. R.O.法(リアリティー・オリエンテーション法)

     自分がだれか、名前は、ここはどこか、今日は○月○日か、○時か…という見当識を失うと不安、緊張、抑うつとなりやすい。自分が見知らぬ外国に言葉も通じず放置された状態を想像してみると理解できます。

     方法:長谷川式、ADL、日常観察などから痴呆を三段階のグループに分けて、そのレベルに合わせて行う。「今日は○月○日ですね。空は晴れですね。きれいな木が見え色は?…赤と…橙色ですね。だから季節は?…秋ですね」という具合に会話を周囲の状況へとふくらませていきます。

  2. 個人別ケアプランによる総合的、計画的援助

     高齢者を
    @ せん妄の兆候
    A 脱水
    B @、A等の18の項目の350問題点を検討し、もれなく対応するもので詳細は「高齢者ケアプラン」に記します。

     このケアプラン作成には、本人、家族、医師、介護福祉士、看護婦、作業療法士、ケースワーカーなど全員参加で行い、1〜3ヵ月に一度ずつ作り直すべきです。ケアプラン作成には経験を要します。全職員が学び、参加して一定水準以上の知識技術の保障が必要でしょう。その特徴は老人の希望、意志の尊重が基本です。高齢者の身体各部位、問題行動、リハビリテーション、回復可能性の予測、医学的診断、治療、薬の内容量、などについて過去、現在、未来にわたり広く検討し、改善を願う援助を具体化します
     これらの正しい介護、看護により、痴呆者の残存能力の回復は頻繁に認めます。

  3. 希望に応じての作業、実労働参加…研究がなされています。

     レクやゲームに無関心な高齢者の中に「仕事」を好む人々が少なくない。参加中の意欲や喜びが感じられ、良いことと考えます。いくつかの研究がなされています。


5.痴呆を進行させる環境は

  1. 家族が痴呆者を恥ずかしがり家の中に隠したり、外出させない。
    医師に話さない。正しい診断治療がなされない…この場合痴呆と衰弱を早めます。

  2. 頻繁な転居や入退院なども、不安や引きこもりの気持ちから痴呆を早めます。

  3. 独善的な医療看護、介護では高齢者の自身や意欲を失わせ、孤立、不安、問題行動を生じやすい。看護側がこの事実に気付かないとさらに問題を重篤化させます。


6.職員教育 −介護受容の心の養成−

  1. 人生経験の豊かな高齢者は介護への不満を訴えず、むしろ若い職員を見守り、その成長を願っている場合もあります。若い介護者の中には、つい独善的になる一種の職業病があります。この場合、むしろ逆に高齢者が若い職員を介護していることになります。この仕事は、きちんとした職業観、職業倫理、哲学、人生観を培わないと、看護も介護も心ないものになります。自分の人生を振り返り、謙虚と感謝、奉仕の心で参加するには集中内観が必要と考え、当法人では新入職員に、内観を義務づけています。

  2. 学問的、研究的にとらえ成長を
     高齢者の看護、介護は身体、精神、家庭、社会、リハビリテーションなどと極めて広範囲にわたる。さらにその医学的、薬学的、介護機器的、社会制度的な進歩と変化は極めて早い。新しい手法を常に取り入れ、基本を確認しその成果を検討、研究、発表、論文作成、自己批判していくことが極めて大切です。


7.在宅支援とこれからの展望

  域の支援システム(デイケア、ナイトケア、ショートステイ、訪問看護、ヘルパー派遣事業、往診)を十分に生かし、なるべく在宅介護が望ましい。給食センターやオムツ宅配も必要です。さらに高齢者の能力や希望に応じて、働く場所の設定も今後は大切です。

(特集:太田耕平「老いを考える」より)