精神科診療 Q&A



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認知症とは

目  次

  1. 高齢者の認知症について
  2. どんな症例がみられますか
  3. 高齢者の異常行動に遭遇しましたか
  4. 治療による回復は可能なのでしょうか
  5. ここではどんな治療が行われますか
  6. 認知症を進行させる環境とは
  7. 家庭内介護で注意することは
  8. 我々が今から取り組むべき課題は




〜くつろぎ、ふれあい、尊厳の維持が基本〜
認知症高齢者の介護とリハビリ

札幌太田病院 名誉院長 太田耕平


 ルコール症の治療やシンナー乱用少年の更正、不登校の治療などに高い実績を持つ札幌太田病院は、老人保健施設「セージュ山の手」で高齢者の社会復帰にも高い成果を上げている。平成2年5月の設立時より、これまで352人の高齢者の介護、リハビリにかかわり、そのうちショート・ステイを含め207人を家庭復帰させてきた。 ○○年4月30日時点での入所者は定員80人中79人(男性26人、女性53人)で、平均年齢は80.9歳。内訳は認知症高齢者32人多発脳梗塞30人が圧倒的に多い。次いでアルツハイマー、脳動脈硬化症とつづく。入所理由を見ると、介護困難が37人とだんとつで、その他、精神的リハビリ28人家族の介護疲れ10人が上位3位を占めている。

 この数値から、家族にとっては、いかに高齢者の介護が大変なエネルギーを必要とするかが、うかがわれる。この施設では職員が全員介護、看護の倫理の確立のため、内観を行ってから職務に就くという試みによって、介護業務に心と魂を添えている。高齢化社会の到来により、高齢者の介護とリハビリの必要性がますます高くなる今日、一般人も介護に無知ではいられない。 高齢者の心理や認知症の知識を持ち、正しい支援やつき合い方を知ることが必要となろう。そこで札幌太田病院の太田耕平院長に、高齢者の認知症と介護のあり方について聞いてみた。


高齢者の認知症について、
まだ医学的に原因の究明ができていないと言われていますね


 うですね。認知症の原因にはいろいろあって、脳の疾患によるものと、心の病によるものと、これらの混じったものと三通りのとらえ方がされています。例えば、動脈硬化や脳出血などの障害が原因となる場合もあるし、脳の老化に伴って生理的に認知症になってしまうこともあります。
 一方、配偶者の死亡、身内間でのたらい回しなどによる住居環境の変化が、認知症の原因となることもあります。また、うつ状態が認知症に大変似てくることもあります。また、孤独や絶望や単調な生活によってバランスを失うことも原因となります。


どんな症例がみられますか

 知症の前段階では、必ず本人からSOSの信号が出ているものです。例えば、抑うつ状態になったり、いらいらしたり、閉じこもったり、興奮しやすくなったり、また具体的に身体的な症状を訴えるケースもあります。

 徊という症状があります。無目的にあてもなく歩き回るわけですが、実は尿意があるがトイレの場所がわからなくなって探していることもあります。また、単に外出したいという理由で徘徊することもあります。この場合は施設に入所はしたものの、家族が面会にこないために、その不安感が誘因になっていることがあります。その他、嫁や家族が冷たいため家庭に自分の安住の居場所がなくなり、なにか触れ合いを求めて徘徊をすることもあります。夜間の不眠と徘徊を防ぐには昼間の楽しい生きがいのある活動が有効です。

 また、一心にゴミ集めに没頭する人がいますが、そういう人はこれまで時間を大事にしてきた勤勉な人が多いのです。そういう人には廊下の清掃をお願いしてみるとよろこんでくれます。
 盗まれ妄想というのがあります。一般に人間はお金や物を大切にし、これらが生きがいにもなることがあります。若い頃は、物を豊富に持つことを目標に努力をしてきたが、高齢化によって地位や財産や体力が減少し、自信を失いやすい。自分の所有物が誰かに盗られているのではという妄想は自己の尊厳の回復を願う心が背景にあるのです。この場合、正確に数を確認して安心させるほかに温かい触れ合いや関心を持って尊重してあげることが援助の基本です。すなわち、自分のプライドや名誉が盗まれたと主張しているのですから。
 また、高齢者はとかく厚着をしたがるのですが、それも自分の財産を維持したり、あるいは自分の尊厳や自分らしさを保護し主張しようという意識が背景にあります。
 認知症高齢者になっても、羞恥心は残っており、施設内の引き出しに汚れた洗濯物を隠してしまい、それがたまって悪臭の原因になったりする。しかし、これはすべてが認知症の症状とは限らず、本人としては、後で自分で洗濯するつもりが、そのうち忘れてしまったということです。

 また、孫にこづかいをあげるという、よく見かける行為もプライド保持や自己主張の一面でもあるのです。このように、高齢者の認知症に伴う行動の背景には、正常な若い頃の願望が形をかえて継続していることが多いものです。
 しかし、認知症がひどくなるに従って身内のことも、自分の名や居場所も分からなくなったりするわけです。