『睡眠と呼吸』
ヒトに限らず、すべての動物において、睡眠および呼吸は生きる上での必須の生理機能である。睡眠と呼吸の両者間には密接な関係がある。睡眠、覚醒をはじめとして、種々の生理機能(自律神経機能、内分泌、代謝活動など)は概ね1日(約25時間)の概日リズム(サーカディアン、Circadian)リズムに従って一定範囲内での変動を示す。この概日リズムは体内(内因性)の生体時計(体内時計)によって作られる。外界の明暗という光同調因子により、1日24時間のリズムに調整されている。この概日リズムを作り出す機構が生体時計であり、脳の最深部の視床下部の視交叉上核に生体時計があることが最近明らかにされている。
睡眠には脳波上から2種類に分けられ、深い徐波睡眠(ノンレム、non REM 睡眠)と覚醒脳波に近いレム睡眠(REM 睡眠)である。成人の約7時間の睡眠中、90分間隔で約20分続くレム睡眠が4〜5回生じ、全睡眠中の約20%を占める。この時期は眠りとしては浅く、起こすと約80%のヒトで夢を見ている。レム睡眠中は瞼の下で眼球が急速に頻回に動き、呼吸や脈拍も早くなったり、不整になったりする。ノンレム睡眠はそれに対して、深く静かな睡眠で、ほとんど夢を見ることもなく、呼吸、脈拍も覚醒時よりゆっくりとなる。レム睡眠中は全身の筋肉は弛緩する。咽頭筋も弛緩し、上気道が狭くなり、いびきや無呼吸を生じ易くなる。
つぎに、呼吸は生命維持に直結した生理機能で、体内の代謝活動に必要な空気中の酸素を肺に取り入れ、代謝で生じた炭酸ガスを排出する。このガス交換は、胸部の呼吸筋、横隔膜の収縮、弛緩による呼吸運動、すなわち吸息、呼息により行われる。脳幹に存在する呼吸中枢には呼吸性リズム(成人の安静覚醒時約15回/分)を作り出す神経細胞群の神経機構があり、その神経情報が脊髄の呼吸筋支配の運動神経細胞に伝えられ、呼吸運動が生じる。睡眠中はこの呼吸中枢から、頸動脈分岐部の血中ガス(炭酸ガス、酸素、pH)濃度を感知する受容器、大脳皮質、脊髄運動神経細胞などに至るいくつかの経路を介して呼吸運動に影響を与えている。
睡眠と呼吸との関係で、最近話題となっている病気に睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、SAS)がある。睡眠中に呼吸が止まる病気で、中高年の男性で肥満者に多い。ほとんどが末梢性の気道閉塞による呼吸停止である。診断上、10秒間以上続く無呼吸が、1時間に5回以上、又は約7時間の睡眠中に30回以上ある場合で、睡眠中のひどいいびき、呼吸停止、日中覚醒時の強い眠気、物忘れなどを伴う。
この病気の確定診断には、終夜睡眠脳波、呼吸、心拍、体位などを測定する機器が必要とされるが、最近、簡易診断によるスクリーニングとして、指先にセンサーを装着し、血中の酸素飽和度(SpO2)を測定するパルスオキシメータが使用されている。呼吸停止があると、SpO2が数%以上低下することから判定する。
SASと確定診断されると、治療法としてCPAP(シーパップ、経鼻的持続陽圧呼吸)法があり、鼻をおおうマスクを通して加圧した空気を送り込み、気道がふさがらないようにする。これは対症療法なので、根治療法としては、食生活や運動などの生活習慣を見直し、肥満を解消する必要がある。扁桃腺や軟口蓋の肥大で気道が狭くなっている場合は肥大部を切除する手術が有効である。